第26話 朝食

「ああ、昨日は本当に素敵な舞踏会だったわ!」

 リリアが夢見るような遠い目をして言った。

「そうかい。残念だったね、ミスティア」

「……ええ、そうですね、お父様」

 私は口元に笑みを浮かべて頷いた。


 朝食を食べながら、リリアは昨日の舞踏会を思い出し、私たちに語った。

「アレス王子のダンスには目が奪われました。とても軽やかに踊られるんですもの」

「そう」

「お姉さまとアレス王子が踊られたら、きっとまた会場の注目の的になれたのに」

 リリアが唇を尖らせてため息をついた。

「……いつまでも……夢を見ているわけにはいきません」

 私は目の前のスープを見つめたままつぶやくと、リリアが私に尋ねた。

「お姉さま、なんておっしゃったの?」

「いえ、何でもないわ」


 食事を終え、部屋に戻る。

 アレス王子から頂いた白いバラの花束は青い花瓶に生けられ、ベッドのわきの机の上に置かれている。

 私はバラの花束から一輪抜き出した。

「きっと、アレス王子には深い意図は無いわ……ただの社交辞令……」

 抜き出したバラを花瓶に返し、私はベッドに入った。


 目を閉じると、アレス王子の美しい顔が浮かぶ。

「私はなんて愚かなの……」

 不相応な思いを持て余し、深いため息をついた。目を開けると、バラの花束に目が行ってしまう。

「外に出てみようかしら」


 私は自分の部屋を出て、中庭に向かって歩きだした。


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