第25話 留守番
「本当に、行かないのですか?」
「ええ、途中で具合が悪くなったら困りますから……」
「……でも、私一人で舞踏会に行くのも申し訳ない気がしますわ。私も今回は行かずにお姉さまの看病をいたしましょうか?」
「いいえ、リリア。私の分まで楽しんできてください」
リリアは少し考えた後、申し訳なさそうに言った。
「それでは、私は舞踏会に行ってきます。お姉さま、早くよくなってくださいね」
「……ええ」
リリアはミスティアの部屋を出て行った。
しばらくすると、母親とリリアがお城の舞踏会へ向かうのであろう馬車の走る音が聞こえてきた。
「私は……あの場にはふさわしくないわ……」
ミスティアは窓からお城の方向を眺めてみたが、夕暮れ色に染まった町並みが見えるばかりだった。ミスティアはため息をつき、ベッドに戻った。
ミスティアは机の上から作りかけの人形と針と糸を出して、人形作りを始めた。
少しずつ人形の形が出来てくると、ミスティアは嬉しくなった。
ドアがノックされ、メイドがミスティアに声をかけた。
「お嬢様、夕食はお部屋にお運びいたしますか?」
「……食堂に行きます」
ミスティアは部屋着の上にローブを身に着け、食堂に行った。
「ミスティア、具合は良くなったかい?」
「お父様」
先に食堂にいた父親は、ミスティアの顔色を見て優しく微笑んだ。
「顔色は悪くないな。舞踏会に行けず、残念だったな」
「私は……家にいたほうが落ち着きますから」
「そうは言っても、お前も年ごろなのだし……まあ、無理することはないが」
食事が運ばれたので、父親とミスティアは食前の祈りを捧げ、それぞれスープを口に運んだ。
「リリアは大丈夫だろうか。あの子は少し思慮に欠けるところがあるから、ミスティアがついていないと心配だな」
「お父様、リリアはしっかりしていますわ。お母さまもついているし、心配はないと思います……」
「そうか」
ミスティアと父親は口数少なく食事を終えると、おやすみの挨拶をして、それぞれの部屋に帰って行った。部屋に戻ったミスティアはすぐに眠る気にはなれず、人形作りを再開した。
夜更けに馬車の音が聞こえた。
遠慮がちにミスティアの部屋のドアがノックされた。
「お姉さま、まだ起きていらっしゃいますか?」
「ええ」
「入っても?」
「どうぞ」
リリアは若草色のドレスをまとい、上気した顔でミスティアの部屋に入ってきた。
「お姉さま、アレス王子からお見舞いのお花を預かりました」
リリアは白いバラの花束をミスティアに渡した。花束には手紙が添えられている。
「アレス王子ったら、お姉さまがいなくて、とてもガッカリされていましたわ」
リリアが少し微笑んで言った。
「それじゃ、舞踏会のお話はまた明日いたしますわ。お休みなさいませ、お姉さま」
「ありがとう、リリア。おやすみなさい」
ミスティアは花束を机の上に置いて、添えられていた手紙を手に取った。
封筒を開け便箋をとりだすと良い香りがした。便箋に香水がかけられていたのだろう。手紙には『あなたに会えず、とても寂しい。でも、無理はなさらず、ゆっくり体調をととのえてください。アレス』と書かれていた。
ミスティアは白いバラの花束を抱きかかえ、目をつむった。
「アレス王子……。いいえ、きっとこれは社交辞令だわ……」
そう言いながらも、ミスティアの心は切なくざわめいていた。
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