第23話 熱

 朝になった。

「なんでしょう……体に力がはいりませんね……」

 ミスティアはすこし痛む頭に手を当てて、ため息をついた。


 ドアがノックされ、ミスティアに元気な声がかけられた。

「おはようございます。お姉さま。入ってもいいですか?」

「……おはよう、リリア。どうぞ……」


 リリアがミスティアの部屋に入った。ベッドの中で渋い顔をしているミスティアを見て、リリアはミスティアのそばに駆け寄った。


「お姉さま、いやな夢でも見たのですか?」

「いいえ、ちょっと、体が重くて……頭が痛いだけです」

「まあ、風邪かしら? お熱は大丈夫ですか?」


 リリアの細い指が揃えられ、ミスティアのおでこに当てられた。

「ちょっと、額が熱い気がしますわ。お医者様を呼ばなくてはいけないかしら?」

 リリアが不安げに言った。

「大丈夫です、リリア。少し寝ていれば治ると思います」

「そうですか?」とリリアは心配そうな表情でミスティアを見つめた。


「お母さまに、お姉さまが熱を出したと言っておきますわ。お姉さまは寝ていてくださいね」

「……ありがとう」

 リリアが部屋から出て行くと、ミスティアはベッドに寝転がったまま天井を見つめた。


 しばらくして、メイドが朝食を部屋まで運んできた。

「ミスティア様、お加減はいかがですか? 欲しいものがあればおっしゃってください」

「ありがとう」

 ミスティアは一口サイズに切られたオレンジを食べ、温かいミルクティーを少し飲んだ。

「……もう結構です。……下げてください」

「はい」


 メイドが出て行くと、ミスティアはため息をついた。

「体調を崩してしまうなんて……浮かれすぎた罰が当たったのかしら……」

 ミスティアがベッドの中にもどると、またドアがノックされた。

「お姉さま、リリアです。ブライアン公爵から、今週末に開かれる舞踏会の招待状がとどいたわ!」

 嬉しそうなリリアの声を聞いたミスティアは、小さな声で答えた。


「私は……いきません」

「まだ、お加減がすぐれませんか?」

「……ええ」

 ミスティアの返事を聞いたリリアは何も言わない。

「リリア、私の分まで楽しんできてください」

「……はい、お姉さま」

 リリアは幾分元気を取り戻したような声で返事をすると、ドアの前から去っていったようだった。



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