第20話 アレス王子

「あの、ご気分が……わるくなりましたか?」

 ミスティアはアレス王子におそるおそる話しかけた。

「いえ、そういうわけではありません」

 ブライアン公爵が話に入ってきた。

「アレス王子、乳母のことを思い出したのか?」

「ああ、まあ、ちょっとな」


 ミスティアはそれを聞いて、心配そうな表情でアレス王子を見つめた。

 ミスティアの視線に気づいたアレス王子は、微笑んで言った。

「静かだけれど、奥に情熱を感じる素晴らしい曲でしたよ、ミスティア様」

「……ありがとうございます」

 ミスティアは、やはり出過ぎた真似をしてしまったと思い、赤くなってうつむいた。


 ワルツが終わると、音楽家たちはまた静かな曲を奏で始めた。

「どれも素敵な曲ですね」

 リリアが無邪気に微笑んでいる。

「私の好きな曲を演奏していただいたので、リリア様たちの好みとあっていたなら嬉しいです」

 ブライアン公爵は優しく笑って答えた。


 アレス王子もにこやかに音楽を楽しんでいる。

 ミスティアはアレス王子の様子を見てほっとし、自分も音楽に心をゆだねた。



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