第19話 演奏

二人のバイオリン弾きと、ヴィオラ、チェロの奏者は、音楽を奏で始めた。

「……静かな曲」

 ミスティアがつぶやくとリリアも小さな声で言った。

「ええ、素敵ですね、お姉さま」


 一曲目が終わると、次はミサで聞いたことのあるような宗教音楽が演奏された。

 ミスティアは目の前で奏でられる音に魅了されていた。

 二曲目が終わった時、ブライアン公爵が言った。

「今日は、ミスティア様にも演奏していただけると伺っているのですが、そろそろいかがでしょうか?」

「あの、私のつたない演奏で皆様の気分を害しては……」

「是非、聞きたいです」

 アレス王子がミスティアに微笑みかけた。


「では……一曲だけ」

 ミスティアは持ってきたフルートを取り出し、舞台に進んだ。

「何の曲を演奏されるのですか?」

「私の作った曲です」

 ミスティアはフルートを吹き始めた。寂し気なメロディーがみんなを切ない気持ちにした。ミスティアは目をつむり、フルートの演奏に集中した。

 曲が終わると、ブライアン公爵がミスティアに尋ねた。

「この曲の名前は?」

「月夜の森のレクイエムです」

「だから、悲しい気持ちになったのですね」

 アレス王子が静かに言った。

「……」

ミスティアがアレス王子の様子をうかがうと、アレス王子の目に涙が見えたような気がした。


「素晴らしかったです、ミスティア様。こんどは気分を変えて、楽しい曲にしましょう。……ワルツを!」

 ブライアン公爵の声を聞いた四重奏の演奏者たちは、ワルツを奏で始めた。


「素敵」

 リリアが微笑んだ。ブライアン公爵も笑っている。アレス王子はまだ、すこし暗い顔をしていた。

 ミスティアは自分の演奏でアレス王子が嫌な気持ちになったのかもしれないと思い、床をじっと見ていた。

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