第18話 四重奏

 ブライアン公爵家で四重奏が行われる日になった。

 昼食をとったら、馬車でブライアン公爵の屋敷へ行くことになっている。

「やはり……私は行けなくなったと……伝えてもらえないかしら? リリア?」

「だめですよ、ミスティアお姉さま。覚悟を決めてください」

「練習はしたけれど……フルートも……皆様にお聞かせできるものでは……」

「大丈夫です、ミスティアお姉さま」


 昼食を終えるとリリアが深紅のドレスをもってきて、ミスティアに渡した。

「さあ、着替えましょう、お姉さま」

「……はい」

 ミスティアは深紅のドレスを着て、髪を結い上げた。

 リリアは桜色のドレスを着て、髪を垂らしている。


「それでは、そろそろブライアン公爵のところへ向かいますよ、ミスティア、リリア」

「はい、お父様、お母さま」

 ノーム家の乗った馬車はブライアン公爵の屋敷へと走り出した。

「リリア、ブライアン公爵と知り合いになるなんて、よくやったな」

「お父様、知り合いになれたのは偶然ですわ。でも、ブライアン公爵は素敵な方です」


「ミスティア、顔色が良くないようだけど大丈夫?」

「ええ、お母さま……緊張しているだけ……です」

 町を抜け、馬車は草原を走った。単調な風景が流れていく。

 やがて、馬車はブライアン・エイムズ公爵の屋敷に着いた。

 

「それでは、失礼のないようにふるまうんだよ、ミスティア、リリア」

「はい、お父様」

「……やはり……私はここで……みんなの帰りを待っていては……」

「ミスティアお姉さま! ブライアン公爵がお待ちなんですよ!?」

 ミスティアは両親とリリアの後に続いて、しぶしぶとブライアン公爵の屋敷へと歩き出した。


「いらっしゃいませ、ライズ・ノーム子爵とご家族様ですね」

 エイムズ家の執事が出迎えた。

「本日は娘のミスティアとリリアがお招きいただいたと……」

「はい、ブライアン様からそのように承っております」

「荷物をお持ちいたしましょうか?」

 エイムズ家の召使がミスティアに声をかけた。


「大丈夫……です……これは……自分で持てますので」

 ミスティアはフルートの入ったケースを抱きかかえた。

「こちらへどうぞ」

 召使の案内で、ノーム家は小ホールへと移動した。


「ああ、お久しぶりです、ライズ・ノーム子爵」

「これは! アレス王子! 覚えていてくださったなんて、光栄です」

「いいえ、あの時はずいぶんお世話になりました」

 小ホールの隅には兵士が立っていた。きっとアレス王子の護衛だろう。

「ミスティア様、リリア様、お会いできてうれしいです」

「アレス王子。こちらこそ、お会いできて喜ばしいことですわ。ね、ミスティアお姉さま」

「……はい」

 ミスティアは緊張した面持ちで、アレス王子を見た。


 アレス王子はミスティアに微笑みかけている。ミスティアは微笑み返そうとしたが、ぎこちない笑顔を浮かべるのが精いっぱいだった。

「皆さん、おそろいのようですね」

「ブライアン公爵!」

「ブライアン、今日は招いてくれてありがとう」

「来てくれてうれしいよ、アレス王子」


 ブライアン公爵とアレス王子は握手をして談笑している。

「今日は、私のお気に入りの楽士たちが集まってくれているんだ。みんなに楽しんでもらえればいいのだが……」

 ブライアン公爵が言った。

「それは楽しみだ」


 アレス王子が目を輝かせている。

「さあ、それでは席についていただけますか?」

 ブライアン公爵の合図で、召使たちがアレス王子、ノーム家の人々、それぞれを席に案内した。みんなが席に着くと、前方のスペースに、楽器を抱えた四人の楽士が現れた。


 そして、演奏会が始まった。

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