第13話 舞踏会の終わり

「ミスティア様は人形作りが得意だそうですが、人形に呪いをかけているという噂もありますわ。……あなた、魔女なのではなくて?」

 アビスの思いがけない言葉に、ミスティアは硬直した。

「!? ……私、人形に呪いなんて……かけていない!!」

 ミスティアは彼女らしくない大きな声で、アビスに反論した。


「お姉さま!? 何かありましたか!?」

 広間からミスティアを追ってきたリリアが、ミスティアのもとに駆けつけた。

「……!! アビス様!? また、あなたですか!?」

 あきれたような表情で、リリアはアビスを見た。

「またうるさいのが来たわね。あなたたち、何故王子の舞踏会にいるの? はっきり言わせていただくと、場違いですわよ」

 アビスは見下すように、ミスティアとリリアをねめつける。


「不愉快なら、放っておけばいいでしょう? 何故わざわざ私たちにかかわろうとするのですか?」

 リリアはミスティアをかばうように、アビスに向かって歩みを進めた。


「どうしました? お嬢様方、なにかお困りのことでも?」

 騒ぎを聞きつけた若い男性がミスティア達のもとに現れた。


「……ブライアン・エイムズ公爵! ご機嫌はいかがですか?」

 アビスがぱっと顔を明るくして、男性に親し気に微笑みかけた。

「ああ、アビス・ブリュー様。舞踏会を楽しんでいますよ。ところで先ほど、言い争うような声が聞こえた気がしたのですが?」


 ミスティアは俯いて何も言わなかった。リリアがとりなすように口を開いた。

「はじめてお目にかかります、ブライアン・エイムズ公爵様。私、リリア・ノームと申します。こちらは姉のミスティア・ノームです。大した事ではございませんわ。お騒がせしたのなら、申し訳ありませんでした」


 ブライアンは頷くと、ミスティアに微笑みかけた。

「先ほど、アレン王子と踊っていたお嬢さんですね。舞踏会は楽しんでいらっしゃいますか?」

 ミスティアは乾いた喉につばを飲み込んでから、一言つぶやくように返事をした。

「私は……この場には……不釣り合いでした」

 それを聞いたアビスは、勝ち誇ったように微笑んだ。


「そんなことおっしゃらずに。さきほどのダンスは素晴らしかったですよ」

 ブライアンの言葉を聞いて、アビスはブライアンには見えない角度で、方眉をひくりと上げ、いらだった表情をミスティアに向けた。

「それでは、皆様。またお会いしましょう」

 ブライアンはそう言って、三人に微笑みを残し華やかな広間に戻っていった。


「みっともないところを見られてしまいましたわ、あなた方のせいで! もう、でしゃばるのはやめていただきたいですわ!」

 アビスは舌打ちをすると、ブライアンを追いかけるように中庭を離れた。


「まったく。騒がしい人でしたね、アビス様は」

 リリアはミスティアに声をかけた。

「私、呪いなんて……かけたことない」

 ミスティアは震えながら、自分を抱きしめるように両手を体にまわした。

「分かっています、お姉さま。さあ、舞踏会もそろそろ終わります。帰り支度を始めましょう?」


 リリアはミスティアの手を引いて、両親のもとに戻っていった。

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