不幸と幸福

真夜中2時、新宿、

歌舞伎町で飛び降りる瞬間を見た。

女が飛び降りる姿、一周回って綺麗に飛び立って芸術になるほどの儚さだった。


誰もが振り向くこともなく自分の世界に溶け込んでいく。そんな場所で私は上を見て眺めていた。

人間、死ぬのがあっけなく、好き嫌い切ない辛い楽しい幸せを考える時間もない。


「……飛び降りか?」


「ケータイで動画撮らないと」


「また飛び降り?ホストに売掛でもしたんじゃない?」


「えー、気持ち悪い」


そう、これが人間の本性なのかもしれない。私の目の前ではそのような会話が繰り出されていた。倒れた女を囲んで、助けようとする数人。撮影する人が何十人。


世も末だと心の底から感じた。

私がこういう風に感じてしまうのも何かの縁だ。死に美を重ねてしまうような感性を持ち合わせてしまった。ヌード写真を見て、エロスを感じるのではなく、美を感じるような感覚。皆にはこのセンスがあるのか。


私は一緒の感覚の人間にいまだに出会ったことがない。

でもそうやって考えているけど、私は救急車を呼ぶわけでもなく、考えて意見を言うているだけの傍観者だ。

その光景を見たとて、私は真っ先に家に帰り、酒を飲み、ゲームをして、眠るだけだ。


「皆、撮らないで!!!やめて!!」


一人が走って飛び降りた女の傍に寄る。

この子が叫んでいても撮るやつは撮るし、興味もない私のような人はスルーをしていく。結局は私は自分の人生に関与していない限りはきっとスルーしていくんだろう。こんなちっぽけな小説の文章を書くときのネタに使うだけになるんだ。その人の人生が破茶滅茶、滅茶苦茶になろうとも。勿論それは逆も然りで。


人生の歯車が狂うことはちょっとしたきっかけであるかもしれない。今までちょっとした力で回っていた歯車が、目を瞑って起きると、大きな歯車になって大きな力で回さないといけない日が急に来るかもしれない。どう回るかなんて誰一人わからない。当本人もきっとわかっていない。


私はカバンにある筆を掴んで、現場をメモに残し、小説の1部にした。

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