第5話 映像

「なんだこれ…………」


「中学時代の私ね」


「それはわかるけど…………なんで俺に?」


「見てればわかるわ」


 なにもわからないまま映像を見せられる。

 俺は中学時代のこいつを知らない。

 全く知らないのだ。

 なのにも関わらずなぜ見せてくるのか。

 さっぱり理解ができない。


「あんたはいいからこの映像をみて、私に感想を伝えなさい」


「…………?」


 よくわからないが、とりあえず映像の先を見てみることにする。

 映像の状況的に踊ろうとしているように見えた。

 舞台の上に姫花がいて、照明だとかが当てられている感じ。

 とにかく姫花がなにかをしようとしているのは明白だった。


 進んでいくと自己紹介を始める。

 その後に姫花が踊りだした。

 背中には15と書かれた番号が見えた。

 そこで俺ははっと閃く。


「まさか…………オーディションか」


「当たり。私がアイドルに入る前のオーディション。書類、面接と通って3次のオーディションね。これに受かったら『エターナル』に入れるって言われてたわ」


 番号で振られているのはそれが理由らしい。

 よく見ればわかった。


「それにしてもオーディションの記録なんてよく残ってたな。普通、こういうものって本人が持つべきものじゃないんじゃないのか」


「私のところだけ映してもらったの。緊張している自分がどう踊ってるかとか超貴重な映像じゃない。そんなこともわからないのね」


「相変わらずだな」


「ふん…………」


 姫花を無視して先を見る。

 振り付けを踊っているように見えるが、


「…………下手だな」


 素人の俺からもわかる。

 はっきりいって下手だ。

 その辺のダンスを習っている奴の方がはるかに上手い。

 キレとかも酷い。

 練習したことは伝わってくるけれど圧倒的にセンスがない。


「よくわかってるじゃない。たしかにこの時の私は下手ね」


「怒らないんだな」


「もちろん。私のことなんだと思ってるのよ。私はこれでも学校じゃ数知れずの優等生よ。馬鹿にするのも大概にしなさい」


「じゃあなんで俺の太ももを潰そうとしてるのかな。普通に痛いんだけど」


 思いっきり太ももに爪が刺さっている。

 平然と振るまっているように見るが普通に痛い。

 調子に乗らせるとすぐこれだ。


「いいから集中してみていなさい」


「こんなんで集中できるか!」


 逆に姫花の太ももをつねってみる。

 体をビビっと震えてその場で立ち上がった。

 

「ひゃ!」


「え…………」


 思ったより反応が大きくてビビる。

 もっとムスッとした表情を見せるかと思ったが違った。

 可愛い反応だった。


「…………なにするのよ! 女の子の太ももに触れるなんていい度胸じゃない」 


「ちょっと待て。たしかにつねったのは悪いと思うけど、姫花が始めたんだぞ!」


「あんたがそうさせたんでしょ。私には非はまったくないわ。セクハラで訴えてやる。私の所属するところに言ってやるんだから」


「結局全部俺のせいかよ!? ていうか訴えるのだけはどうにか勘弁してくれ!」


「ふん…………ほんとあんたって最低」


 いつもこうだ。

 最終的に俺が負けるのだ。

 やはり姫花は強い。


「いいから…………最後まで見ていなさい」


「…………わかったよ」


 静かに映像を見ることにする。

 何曲か踊りって最後に挨拶をして終わった。

 そして映像がとまる。

 最後まで見終わった。


「それで改めて感想は?」


「下手だな」


「もっと褒めることはないの? 顔がかわいいとか」


「そんなの前から可愛かっただろ」


「ふん、ならいいわよ」

 

 まんざらでもなさそうな顔で言う。


「…………ていうか、何度見ても酷いわよねこの映像。よくこれでオーディション通ったっていまだに思うもの」


「たしかにな」


「まあ今じゃあんなに有名になったんだから私の才能を見抜けた審査員が優秀ってことね」


「自画自賛すんな」


「自画自賛もなにも事実よ。私以上に今、アイドル界で有名な人間はいないし」


「うぜぇ…………」


 高校生なのにも関わらず絶大な人気を誇る。

 そのセンターである姫花は人気投票でも毎回1位をとっている。

 実質、現アイドル界で1位なのは姫花なのだ。


「それにしても、なんで俺にこんな映像見せて来たんだよ。なんの意味があるんだ」


 この映像とマネージャーとは全く関係がない。 

 俺がここに来たのはマネージャーの説得をされるためだ。

 映像を見せるなら仕事の内容とかにするべきだろう。

 それなのになぜこいつはこんなものを見せて来たのか。

 謎でしかない。


「そんなの…………今の私がどれくらい凄いかわかってもらうために決まってるでしょ。それ以外理由はないわ」


「え?」


「いいからそこであんたは見てなさい」


 そういうと姫花はその場で立ち上がる。

 机を少し端にどかしてスペースを作った。

 俺はその場で待機しておく。

 どうやらここで踊る気らしい。

 

「あんた小学生の頃の夢、覚えてる?」


「ああ…………覚えてるよ。ずっとな」

 

「あんたは俳優。私はアイドルになりたがってた。あんたは諦めたけど、私はその夢を叶えた。だからこそあんたに見て欲しかったのよ」

 

「…………」


 そうだ。

 俺はテレビや雑誌でひときわ輝く有名人に憧れた。

 だから俳優になりたいと幼いながらに思ったのだ。

 そしてその夢を当時ずっと遊んでいた姫花と共になろうと誓った。


 だが、その道は遠かった。

 チャンスをつかむことすらできなかった。

 そして諦めた。

 なにもすることが出来ず、諦めたのだ。


 だからこそ姫花がこうして成功しているのは凄い。

 俺にできなかったことをやってのけたのだ。


 そして少しだけ羨ましい。

 一緒になろうと誓ったからこそそう思ってしまう。

 どうして俺はダメでこいつが受かったのか。

 その差はわかっている。努力と才能。

 俺にはどちらとも足らなかった。


「いい、私がどれだけ成長したのか…………はっきり見ていなさい」


 姫花がスマホを操作し、曲が流れる。

 そしてさっきの映像と同じダンスを踊り出した。

 

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