第4話 家

「ふう…………本当に来てしまった」


 せっかくの土曜日の朝。

 俺はため息をついた。

 朝だからだろうか、見上げると太陽の明るさがまぶしい。

 俺の目の前には一軒家が見えた。


「この家も久しぶりだなあ…………」


 俺の家から徒歩1分にある家だ。

 表札には小島と書かれてある。

 小島姫花の住まいで間違いない。


 国民的アイドルとは思えないほどの大きさだ。

 昔から外見はまったく変わっていない。


「今は朝の9時か…………時間設定されてないもんな。入ってもいいのか」

 

 チャイムを鳴らしてみるか迷ってしまう。

 こういうときの行動がなにをしたらいいのかわからない。

 朝なんじからなら入っていいだとか。どういう風に振るまうべきなのだとか。


 それもそうだ。

 友達と遊んだことは皆無。

 まして女子と遊ぶことなんて中学生になったからは一度もない。

 だから家のマナーとかもしらない。


 連絡先とかがあったのなら話は変わってくるかもしれないが、残念なことに持っていない。

 入っているのは父さんと良太と祐希だけ。

 こう思うと俺の中学生活はいったいなにをしていたのだろうと悲しくなってくる。


「ま、いっか。元はあいつの依頼なんだしな。ドンっと胸を張って入ってやる」


 チャイムを鳴らす。

 が、返事がない。 

 シーンとしている。


「なんだ…………あいつ寝てるのか?」


 もう一度チャイムを鳴らしてみる。

 だが、やはり返事はない。

 

「来るのが早すぎたか」


 どうやら時間設定をミスったらしい。

 姫花はアイドルだ。

 休みの土曜くらいゆっくり寝ていたいのだろう。

 

「仕方ない。いったん帰って昼にまた来るか…………」

  

 距離は短い。

 またくればいいのだ。

 そう思っていると、


「ん…………?」


 ガチャリとドアが開いた。

 なかから人が出てくる。


「ちょ、ちょっとあんた…………来るのが早いのよ」


 そういいながら俺の方に近づいてくる。

 姫花だった。

 だが様子が少しおかしい。


 一面、薄ピンクの柔らかそうな服を身にまとっている。

 まるでパジャマだ。髪は少しぼさぼさで、整っていない。

 いつもの姫花とは違う。


「お前…………寝起きか」


「な…………」


 指摘されると勢いよくドアが閉まった。

 なんだと困惑していると、少ししてもう一度開く。

 だが、さっきの寝起き姿とは違い変身していた。


 服は透けた白の花柄のワンピースに変わり、髪はポニーテールに整えられていた。

 少し恥ずかしそうにしているのがわかる。


「ほんとあんたってデリカシーってものが足りないわよね。最低!」


「…………」


 地雷だったらしい。

 女子心って奴はよくわからない。

 とりあえずパジャマのことは黙って置こう。


「ふん…………まあいいわ。あんたのことだしこんなことだろうと思ってたわよ」


「俺にどんな偏見もってるんだよ!」


 相変わらずあたりが強い。

 良太のおかげでメンタルは鍛えられているおかげでなんとかなっているが、普通の奴がこんな罵倒を受けたら暴力沙汰になるんじゃないだろうか。

 いや、逆に惚れてしまうか。

 かわいいし。


「で、俺はなにすればいいんだ」


「…………入りなさい」


 姫花の案内のもと無事に家に入ることが出来た。

 なかは玄関左にリビング。右に2階に続く階段があり、のぼっていく。

 すぐ手前には姫花と書かれたかわいらしい看板が貼ってある部屋を見つける。

 俺たちはそのなかに入っていった。


「ここが姫花の部屋か…………」


 想像しているような部屋ではなかった。

 あれだけ言葉いじりをしてくるのだから部屋はてっきりクールな感じかと思っていたが違ったらしい。

 全くの逆だった。


 かわいい感じ。いわゆる女子っぽい部屋だった。綺麗に整頓されてある。

 ベッドにはくまさんと犬のぬいぐるみがおかれていて、隣にはピンク色の目覚まし時計がおいてある。

 他にもクローゼットとか勉強机だとかおかれてあり、すぐ近くには2,3人でワイワイできそうな小さな机もある。

 高級そうなミニテレビも設置されていた。


「あんまじろじろ見ないでよ。気持ち悪い」


「見るぐらいはいいだろ別に。俺は菌かなにかかよ」


「まあ……神田菌とか呼ばれてたしね」


「呼ばれてねぇわ。勝手に俺の思い出を汚すなよ。ていうか、そもそもそんなこと言い合えるほど友達いなかったわ!」


「そういえばあんたと一緒だったのは私ぐらいだけだったものね。そう考えればちょっとは成長したんじゃない」


「その微々たる成長を笑うなよ!」


 姫花はニヤニヤと笑っていた。

 馬鹿にされているらしい。

 でも仕方がない。本当にそれくらいしか成長していないのだ。

 アイドルになった姫花とは違って。


「…………ここに座りなさい。お茶、用意してくるから待ってて。あ、一応言っておくけどクローゼットのなかとか勝手に見ようとしないでよ。神田菌」


「人のうちにきてそんなことしないわ。てか、神田菌いうな!」


 小さな机座布団のうえに座る。

 姫花はそのまま部屋を出て行ってしまう。

 どうやら親切にもお茶を組んできてくれるらしい。

 

「それにしても…………変わったな」


 昔とは似ても似つかない。

 いろいろ変わっている。

 あの時はこんなにオシャレな感じではなかった。

 もっとシンプルな感じだった。


「変わって当然か。5年の時間もブランクあったしな」


 俺もそろそろ変わらなければいけないのかもしれない。

 そんなことを思っていると階段をあがる音が聞こえて来る。


「ほら、なにもあげないのはかわいそうだからあげるわよ。粗茶だけど」


「サンキュ」


 お茶を受け取る。

 俺の目の前に姫花も座る。

 机が小さいせいか距離が近い。

 反射的に目を離してしまう。


「それで、俺をこんなところに呼んでなにをする気なんだ。マネージャーになるっていうまで殴り続けるとか拷問とかか?」


「私をなんだと思ってるのよ。そんなことしないわ」


「じゃあ、なにをするんだよ」


「これを見て欲しいの」


「見て欲しい……?」

 

 近くにおいてあったテレビのリモコンをぽちっと押す。

 するとテレビでかでかと映し出されたのは中学生の頃の姫花だった。



 

 

 



 

 

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