第2話 依頼

 次の日になった。

 もちろんのことだが簡単には眠れるはずがない。

 相手は美女だとかいろいろ考えてしまった。

 気づいたら朝の7時。起床の時間だ。


 結局、今日も寝れていない。


「不可解すぎる。なんなんだよ本当に。この手紙は…………」


 ベッドのうえで見る。

 やっぱり不思議だ。

 こんな手紙が俺に来るなんて。

 最後の一文は少し気がかりだけれど、たぶんラブレター。

 地味な俺にこんなのが来るなんておかしすぎる。

 

「俺に好意を寄せてきそうだった奴なんていたか…………いや、いなかった気がする。そんな素振りはなかったし。…………じゃあ、いったいなんなんだよ…………」


 ほかにも可能性は考えられる。

 あの2人によるいたずらとかだ。

 醜い良太はおいておいて、あの心優しい祐希がそんなことを許すはずがない。

 だから違うだろう。


「入れる下駄箱間違えたとかもありそうだし…………ああああああ! もういくら考えてもわかんねぇ。行ってみないとわかんないってことかよ」


 吹っ切れる。

 そうだ。こんなところで考えたところでらちが明かない。

 変なことにこんだけ時間を割いてしまった。

 最悪だ。ため息が出てくる。


「…………とりあえず学校行くか」


 起き上がって準備を始めた。


----------------


 学校につく。

 周りをチラチラ見てみるが、だれ一人として俺の方を向いていなかった。


「犯人は……いったい……」


 真剣に周りを見続ける。

 あの手紙の正体。一刻も早く知りたい。

 そんなことを言っていると、


「なに言ってんだお前…………」


「わあ!? びっくりした…………お前かよ。いまの俺はいつもの嘘とは違って忙しいんだよ。邪魔すんな」


「失礼な奴だなあ」


 良太と祐希が立っていた。

 

「で、なにやってんの。犯人とか言ってたけど…………」


「べ、別にお前らには関係ねぇよ。気にすんな。こっちの話だ」


「なにそのツンデレみたいな言い方。気持ち悪!」


「なんで俺がお前にデレなくちゃいけねぇんだよ!?」


「いやん。恥ずかしい!」


「気持ち悪いわ!」


「まあまあ二人とも落ち着いて…………」


「祐希…………男にはやらなくちゃいけない時ってのがあるんだよ!」


「変なこと教えんな! 絶対今使う場面じゃねぇだろ!」


 するとちょうどチャイムが鳴る。


「っち、もう時間かよ」


「仕方ないね。また後でね。神田君」


 そういっていなくなる。


「ふぅ…………やっと行ったか。疲れたぜ」 


 助かった。

 あの2人と話していると体力の消耗がえげつない。

 ここで体力がなくなれば終わりだ。

 それに俺にはやらねばならぬことがある。


「…………続きでもやるか」


 周りをもう一度確認する。

 そして、彼女を見た。

 小島姫花だ。

 

「…………は、違うよな」


 考えるまでもない。

 すぐに目を逸らす。


-----------------


 今日最後のチャイムがなった。

 つまり今は放課後。

 今日はきちんと授業を受けてしまった。


 寝れなかったのが正解。

 あの後も考えるのをやめるのは不可能だった。

 寝不足なんかは興奮で全く効いていない。


 良太たちがこっちにくる。


「珍しいな。お前が寝なかったなんて」


「本当だよ。久しぶりなんじゃない。一限も眠りにつかなかったなんて」


「馬鹿か俺にだってやればできるんだよ。ていうか、いままでの俺がサボりすぎただけな。本当の俺は真面目だから」


「その割にノートにはなにも書いてないみたいだけどね。白紙だし」


「おい、なに勝手に見てんだよ!?」


 ノートを勝手に取られて祐希に見られていた。

 良太はニヤニヤと笑っている。


「ふん…………俺にかかればノートに書かずともできるんだよ」


「そのくせ成績は低いけどね」


「祐希…………お前、俺の味方じゃなかったのか!?」


「味方だよ。でも、ちゃんとできない神田君は嫌いかな」


「クソ…………純粋な一言が一番傷つく…………」


「まあそういうことだ。きちんとやれよ」


「うっせぇ。わかってるっつの」


 今日は仕方ないだろう。

 眠かったのもあるけど、あの一件があるのだ。 

 集中できるはずがない。

 

「まあいいや。僕たち今日も部活だし。行くね」


「ああ、じゃあな」


 2人はそのまま行ってしまった。

 さて。


「……答え合わせの時間が来たか」


 もうそろ16時。約束の時間だ。

 

「ヤバい…………ドキドキしてきた」


 心臓のバクバクが止まらなくなる。 

 なにが起こるのか。

 予想がつかない。


「行ってみるか」


 屋上につながる階段を歩き始める。

 もちろんのことだが近くに人はいない。

 屋上なんかに用があるのは、掃除係の人か。本当に頭のおかしいカップルぐらいだろう。


 とにかくだれもいない。

 逆にそのそれがプレッシャーだ。

 怖さと心配が増してくる。

 

「この奥に…………」


 いよいよ屋上のドアまで登ってしまった。

 この奥に答えがある。

 なにが起こるかわからない。

 

「開けるぞ…………」

 

 ゆっくりとドアを開けてなかを見る。

 開けた瞬間、薄暗かった場面が一瞬にして光り輝く。

 

「ん、まぶし……」


 目をこすりながら開ける。

 最初に飛び込んできたのは夕陽。太陽が沈みはじめ、少し赤かった。

 その奥で手すりに手を置いて夕陽を眺めている少女がいた。

 真っ赤な髪の少女。


 俺が見間違えるはずがない。

 2年A組。出席番号は12番。

 名前は――小島姫花。

 

「なんでお前が…………姫花」


 名前を呼ぶ。

 ずっと昔はそう呼んでいた。


「…………来たのね」


 美しい場面だった。

 夕暮れとその輝かしい光が見事に少女とマッチしていた。

 モデルで見る作り物よりも完璧に素晴らしい。


 感動だ。

 こんなに美しいのは初めてだった。

 だが、彼女だ。

 感動よりも驚きの方が大きかった。


「お前があの手紙の…………犯人なのか」


「犯人って…………事件じゃあるまいし。ただの依頼の紙よ。それくらいわかるでしょ」


「お前…………」


 話していて分かる。

 雰囲気が昔と違う。

 いったい俺が知らない5年の間になにがあったというのだろう。


 いいや、違うのは俺の前だけだ。

 女子との会話を薄く聞いたことがある。

 あの時はまだ昔のままだった。


「それで依頼の内容だけど…………」


 ドキッと来る。

 依頼とはいったいなんの依頼だろう。

 あの手紙の意味がわからない。


 依頼というのだから告白ではなさそうに思えた。

 ならいったいなんのことだろう。

 俺に頼むことがあるとは思えなかった。

 目的がはかれない。


 俺は真剣に目を見つめる。

 すると口を開けて彼女は言った。 

 

「あんた…………私のマネージャーにならない?」


 

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