第1話 手紙

 小島姫花。

 超人気の現役アイドルの高校生。

 あだ名は姫。


 テレビでも大活躍で引っ張りだこ。

 よく広告だとかでも見かけるし絶大な人気を誇る。

 たぶん1日に1回は必ずなにかしらで見かけている気がする。

 

 そんな彼女のことを語るのならば、俺と彼女には切っては切れない縁がある。

 それが幼馴染って奴だ。

 幼稚園、小学生、中学生、高校生、全部あいつと同じところに通っている。

 そのうえ家も近く、子供のころは良く遊んでいた。


 けれど、それも長続きはしなかった。

 当然だ。幼馴染なんて関係性の一部でしかない。 

 環境が同じなだけだ。性格は成長するにつれて変わっていく。

 だから、中学生になってからは話すことがなくなった。


 奥の席にいる彼女を見る。

 今は数学の時間。

 変なことを考えている俺とは違って真面目に授業を受けていた。


「…………ん?」


 気づいたのか彼女は俺の方を向いた。

 目があう。びっくりした様子で一瞬、凝視された。

 が、すぐに目を離される。

 横顔も見せてくれない。

 机に肘をおいて俺から見えないようにした。


「…………」


 なんとも言えない。 

 やはり嫌われているらしい。

 あの時まではを一緒に追いかけていたはずなのに。

 

「…………寝るか」


 目をつぶる。


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「おい、なにぼーとしてるんだよ」


「…………ん、良太か」


 目をあけるとあきれた様子の良太と祐希がいた。

 とりあえず背伸びをする。

 気持ちいい。さわやかな気分だ。

 眠気はまだとれていないけれど、寝れて気分がいい。


「なに気持ちよさそうに背伸びなんかしてやがる。早く起きろ」


「おい、背中をさするな。眠気がさめるだろ!? 俺はまだ寝るんだ。眠いんだ。あとにしてくれ」


「寝るもくそもねぇよ。6限がおわったら話していいんだろ」


「え…………」


「もう全部の授業が終わったんだ」


「マジかよ!?」


 周りをみれば俺たち以外の人は全員帰っている。 

 残っているのは俺たちみたいなバカぐらい。

 つまり、こいつの言っていることは本当のことらしい。


 時間の流れは本当に早い。

 小学生の頃はあんなにも長くて退屈だったっていうのに。

 今じゃもう一瞬も一瞬だ。

 寝ていたら終わってる。


 もしかすると俺の青春もこんな風に終わってしまうのかもしれない。

 青春なんかに期待はしていないがちょっとだけは羨ましく感じてしまう。

 悲しい現実だ。


「ていうか寝るのはいいとしても限度も大事だよ。あまりにもしすぎると次の中間テスト大変なことになるよ」


「げ…………て、テスト…………」


 そういえばそうだった。

 そんなものもあるんだった。

 学年が上がったことでさらに難易度は増している。

 勉強が苦手な俺からすると非常にマズイ事態だ。


「わからないんだったら僕ができるだけ教えるからさ。一緒に頑張ろうよ」


「ゆ、祐希…………やっぱり持つべき相手は友達だ!」


「そういってくれると僕も嬉しいよ」


「って、俺は?」


「清水君は必要ないよ。だって実際僕よりも上だし」


「そうだ。お前は寝てるくせに成績だけはいいからな。ムカつくぜ」


「まあ天才って奴だな」


 なんだろう。

 無性に腹が立ってきた。

 1発くらいだったら殴ってもいいかな。

 それくらいだったら許されるはずだ。


「って、そんなことしてる暇なかった! おい、祐希もう行くぞ」


「なんだよ。これからなにかあるのか?」


「部活だよ部活。帰宅部のお前とは違って俺たちはテニス部の部員なんだぞ」


「あーそういえばそんなのに入ってたな。で、ちゃんと馴染めてるのか?」


「ん、もちろん。当たりまえよ!」


 自信満々に腕を組んで言う。 


「こういってるけど、先輩たちの前じゃずっとペコペコしっぱなしてそこまで馴染めてないよ」


「おい祐希! そこは秘密だろうが。それ言ったら俺の評価がだだ下がりだよ!」


「最初からお前の評価なんて低かっただろ。安心しろ。そろそろお前もテニス部で腫れ物みたくなって結局帰宅部になるんだから」


「まだわからねぇだろ。まあ…………もう少しやってダメだったらお前のところに帰ってきてやるから待っとけや」


「結局帰ってくるんじゃねぇか。てか、遅れるんだからさっさといけ」


「はいはい。祐希行くぞ!」


 2人は駆け出して行った。

 で、俺は結局一人になってしまった。


「ふわ…………2度寝といきたいところだけど流石にマズいよなあ。起きた時夜だったとかシャレにならなそうだし」


 あの2人は2年に上がると同時に部活に入りだした。

 なんでも陽キャに混ざりたいらしい。

 祐希はその巻き添えをくらった。

 俺も誘われたけれど、行く気にはなれなかった。

 

「仕方ないだろ。…………俺だってまだ本当は…………」


 誰もいない教室で一人そうつぶやいた。

 

「帰るか……」


 荷物を持ち、教室を出る。

 静かなろうか。

 コツコツと俺の歩く靴音だけが響いていた。

 下駄箱まで行き、靴を取り出す。

 その時だった。


「ん…………なんだこれ」


 取り出した瞬間、なにかが落ちて来る。

 それを拾い上げた。


「手紙…………か? なんでこんなかに……」


 見た感じ手紙っぽい。

 封筒のようなものに入っているようで中身を取り出す。


「えっと、なになに…………明日の放課後。屋上にて待ちます。時間は16時を目安にしてください。あなたに伝えたいことがあります。来なかった場合、大変なことになるのでご注意を、か」


 綺麗な字でそう書いてあった。

 たぶん字的に女子が書いたものだろう。

 そこで気づく。

 こんなシチュエーションをどこかで見たことがあると。


 漫画だ。

 女の子が意中の男を引き留めるためにこんなものを書いていた気がする。

 

「まさか…………ラブレター!? 告白なのか!?」


 心臓がバクバクと動き出す。

 初めてだ。

 こんなものをもらったのは。


「いや落ち着け、俺。そんなはずがない。いったいだれが俺なんかを好きになるっていうんだ。もしかすると脅迫文かもしれない。俺を殺すために呼び出したエージェント。…………いや流石にそれは、ないか」


 俺を殺すにしても面倒すぎる。

 後ろから刺せばいい話だし。

 

「こう見ると告白の確率が一番高いのか!? 俺にも春が来たかもしれない」


 来るはずないと思っていた青春。

 それがいま目の前にある。


「これは…………来たかもしれない」


 ワクワクが止まらない。




 

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