国民的アイドルの幼馴染は俺だけに毒舌を吐く

シア07

プロローグ

「ふわ…………ねむ」


 俺、神田宏樹かんだひろきはあくびをしながらいう。 

 机に顔を伏せて目を閉じた。

 眠ろうと思うが思うように眠れない。

 たまにある奴だ。体が思うよりダルイ証拠。

 まだ朝だっていうのに酷い始末だ。


「外でもみるか」


 仕方なく外の景色を見ると桜が満開だった。

 ひらひらと舞っていて、見ていて心地がいい。

 今の季節は春。4月。

 高校生活が始まって早2年目だ。

 だというのに全くやる気が起きないのは一種のバグだろうか。

 …………そうに違いない。

 そう決めつけておこう。

 

「はぁ…………それにしても学校ってめんどうくさ。こんな勉強いつ使うんだよ」


 頭ではわかっているけれど拒否反応が出る。

 授業が面倒くさいのだ。

 先生の話を聞いていると頭がおかしくなる。

 むずがゆいのだ。


「もう帰りたい…………家でゴロゴロしながらゲームしたい…………」


「なに言ってんだよ。お前は馬鹿か」


 そんなことを口ばしっていると肩をバンと叩かれた。

 振り向く。


「なんだ……良太か」


「良太かじゃねぇんだよ。それに祐希もいるぞ」


「はい、僕もいますよ!」


 2人の姿が見える。

 清水良太しみずりょうた相沢祐希あいざわゆうき

 1年のころからの友達だ。

 今年も偶然同じクラスになった。3人とも同じ2年A組。

 話す相手はこいつらくらいだ。


「いいか良太。俺は眠いんだ、また後でにしてくれ。6限目が終わったらまた話は聞いてやるから」


「6限ってもう学校終わっちゃってるじゃねぇか。そこまで待てるかよ。ていうか、もう眠いとかマジか。まだ授業すら始まってないぜ」


「ほんとだよ。授業の居眠りなんてもってのほかだって」


「俺が授業中に居眠りしてるなんてよく知ってるな」


「そりゃあね。神田君は有名だからね」


「有名…………? どういうことだよ」


 妙な言い方だ。

 少し引っかかる。


「自分で気づいてないの? 学校ならどこでも寝てるって有名だよ」


「そうなのか!?」


「うん。授業はもちろんのこと、昼食も食べ終わったら寝る上に面倒な授業は保健室にいって寝る。体育もサボリ気味だし。いろいろ有名なんだよ神田君は」


「そうな風に見られてたのかよ…………」


 驚きだった。

 世間の評価は意外と辛口らしい。

 本当にせちがらい世の中だ。


「お前……気づいてなかったのか。ウケるぜ」


「まあ清水君も人のこと言えないけどね。寝まくってるし」


「そうだ。お前も寝てんじゃねぇか!」


「まあまあ落ち着けよ。人になすりつけるのはお門違いだぜ」


「お前が言うなよ!?」


 言い切ってため息をつく。

 なんだろう。本気で疲れた。

 体がダルイっていうのにさらに疲れた。


「…………ていうか、ほんとお前ってもったいないよな。顔は結構かっこいいのに。そんな陰キャっぽくして全く注目浴びたことないもんな」


「うるせぇよ。一言よけいだろ。ていうかお前らだって俺とつるんでいる時点で負け犬なんだよ」


「あははは、1年の頃からそれくらいはわかりきってるだろ。俺もお前もゲーム仲間。モテるみたいな陽キャっぽいことは無理なんだって」


 笑いながら言っているけれど、悲しい現実だ。

 俺たち3人はいわゆる陰キャ。

 陽キャたちにはなじめず売れ残った3人だ。

 最初もゲームで仲良くなっている。

 聞くだけで悲観的になりそうだ。


 そんな時だ。


「おい、来るぞ。姫だ!」

 

 教室にいただれかが言った。

 コツコツと足音が聞こえ、女の子が教室に入ってくる。


 その瞬間、空気が変わった。

 いいや止まったといっても過言じゃない。

 とにかくその場に変化が生じたのだ。

 クラスの大半が彼女の方を向き、見とれていた。

 かくいう俺もその1人に含まれる。


「おはよう」


 彼女は優しくそうつぶやいた。

 そのまま席に座り、荷物の整理を始めた。

 周りはもの静かに見つつもささやかにつぶやく。


 可愛すぎると。


 女子でさえ引いてしまっているほどの美貌。

 特徴的な長く真っ赤な髪。

 彼女と出会えばだれであっても振り向くだろう。

 当たり前だ。


 彼女は国民的アイドルグループ『エターナル』のセンターを務める小島姫花こじまひめかだからだ。

 名前は姫花だからあだ名は姫。

 そんな相手に勝てる人間なんていない。

 

「やっぱ凄いな。現役アイドルって奴は」


「そうだね。僕たちとは格ってやつが違うのかな。同じ高校ってだけでも凄いよ」


 関心したように2人が言う。


「しかも1年以上一緒のクラスだったってのも凄いよな。…………って宏樹、お前はどう思う?」


「…………知らん」


「知らんってお前…………昔からそうだよな。あいつの話になると気分悪くなるって。もしかして…………好きなのか!?」


「は!?」


「え、そうなの?」


 急に言われてビビる。


「そんなことねぇよ。ただあんまり興味ないだけだって!」


「興味ないって…………あんな可愛いのに」


「可愛いとか可愛くないとかどうでもいいんだよ。変な勘違いすんな」


「言いわけくせえ~」


「言い訳もくそもあるか。とにかく誤解はするなよ」


「ふ~ん、お前がそういうならそういうことにしておくよ」


 それを聞いて安心する。

 この件にはあまり触れて欲しくない。


「…………ていうか、姫の話をするから彼女欲しくなってきた。あんな子と付き合えたら人生楽しいだろうなあ」


「安心しろ。お前とか俺みたいなやつが現役のアイドルと付き合うなんて無理だから」


「最初から否定すんだよ。まだわかんねぇだろ。ていうか、そんな悲しいこと言うなよ! たまにこっち向いてニコって笑ってくれるんだよ!」


「相沢君流石にそれは偶然だと思うよ…………」


「お前まで…………」


「とりあえずゲームの話でもしようぜ。女なんて俺たち関係ないんだしな」


「そんな悲観的なこと言うなよ。…………まあ実際その通りなんだけど」


 良太を適当にあしらいながらふと彼女の方を向く。

 彼女は笑顔で友達と話していた。


 別に彼女に友達がいないわけじゃない。

 注目されてしまうだけだ。

 今はもう楽しそうに話している。


 キーンコーンカーンコーン。

 

 するとちょうどチャイムが鳴った。

 先生が入ってくる。

 2人は自分の席に帰って行った。


「はぁ…………」


 それを見てため息を吐く。

 もう一度彼女の方を見た。


 横顔だけでわかる。間違いなく美少女だった。

 見惚れてしまう。本当に凄い人間だ。

 出来上がっている。

 神はどうしてこんな人間を生んでしまったのかと怒られても仕方がないレベル。


 それを見て俺は思う。2人は知らないある秘密。

 俺はさっきの言い訳の続きをする。


「恥ずかしいんだよ…………幼馴染だって知られるのがよ」


 彼女はたった一人の――幼馴染だということを。


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