第15話 中途半端(11月2日)

 何でこうなったんだろう?


 「……何やってるの、君は。」

 「無茶しすぎでしょ‼ビックリさせないでよね‼」

 「先生が殴られてみる必要ないし。」

 「痛そう?ダイジョブなの?」


 本校でのお手伝いが終わり、やっぱり折れていた鼻の部分には大きなガーゼが貼ってある。ちょうど内出血で出来た青タンも鮮やかで、いつもの教室に行った途端、事務室という名の説教部屋にご招待された。

 セリフ順に、岡野で、美咲で、佐奈で、はるみだ。

 ちなみに岡野には、本部でもさんざん怒られている。


 うう……理不尽……


 まあ、考えれば、それで聞き入れてくれたかはともかく、口で説得するなり、やり方はあったはずだ。

 でも強固に凝り固まった森永を、改心させられるとは思わない。

 同期とはいえ、その程度の間柄だった。

 ただ、挑発しはめるような手法を取ったことは申し訳なく思っている。


 腑に落ちないと言えば……

 今回の事件の結末も、少々腑に落ちないと思っている。

 『出るところに出る』は、本気ではなく脅しただけだが。

 本部はすぐに森永の両親に連絡を取り、夜間救急で治療しているうちに、もう2人が駆けつけてきた。

 見ていた人は随分いるし、実際にはあれだけスマホを構えていたし、動画も残っているだろうが……

 あくまで本部は、当人同士の小競り合いにしたいらしい。

 そこに生徒が絡んでいたこと自体、無かったことにしたいのだ。

 塾という組織自体に損害が出ないための措置だった。

 「誠に申し訳なかった。」

 「康太がご迷惑を」と、頭を下げる森永の両親。

 親に謝らせておいて、森永自体は顔を出さないのも腹立たしかったが、

 「治療費はこちらで持たせてくれ。慰謝料もお渡しする。」

 「それでどうにか、警察は勘弁してやって下さい。」

 ペコペコ頭を下げる、俺の両親と変わらない年齢の人達に、これ以上の追撃は出来なかった。

 中途半端だ。

 怒るところを怒って罰しない限り森永は、おそらく同じ間違いを繰り返す。

 

 目の前の問題は解決した。

 けれど、将来的には何某かの解決を見ただろうか?


 問題を先送りにしたとしか思えない。

 女4人の説教から解放された俺が、ため息交じりで伸びをしていると、

 「あ、先生。ありがとね、武佐君のこと」と、はるみが言った。

 「え?武佐?」

 「うん。」

 「何か変わったか、あいつ?」

 俺には学校の武佐弘明はわからない。

 聞き返すと、

 「うん。ちょっとだけ前向きになった、気がするよ」と、はるみが笑う。

 「そっか。」

 「うん、後、なつおがさ。」

 「弟?」

 「うん。『兄ちゃん、またフランクフルト奢って』って。」

 「は‼」

 「はるみ先輩の弟に奢ったの?先生‼」

 聞き咎めた美咲、佐奈が会話に割り込み、バタバタの大騒ぎになる。


 説教部屋、再開されそう。


 うん、理不尽……



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