第13話 教師も生徒も『難しい年頃』ってやつですか?(10月30日②)

 土屋はるみと似非ヤンキー……武佐弘明(ムサヒロアキ)は、同じクラスなのだそうだ。

 とは言え、成績はトップクラスで調子付いている系男子の武佐と、成績最下位のはるみとでは接点はない。

 ただのクラスメイト、それだけだ。

 はるみと一緒にいたのは、やはり弟だった、小学5年の土屋なつお。

 「なつおがすれ違う時、武佐君の腰に当たったらしいんだけど……」

 本当に掠ったか掠らないかの接触で、武佐が激高したらしい。

 「オレ、ちゃんと避けたと思うんだけど……」

 怖かったのか半べそのなつおに、

 「まあ、食え」と、コンビニで買ったフランクフルトとポテトを出すと、

 「いいの?兄ちゃん‼」と、一瞬で機嫌が直った。

 男はこれくらい単純がいい。

 俺達は、コンビニの駐車場の隅で話している。

 「この頃武佐君、イライラしてて」と、はるみ。

 成績は停滞中、または下降中。

 前期の通知表をもらった時も、みるみる顔色が変わったそうだ。

 「武佐君、クラス順位はずっとトップだったし、でもあれは多分……」

 通知表でしか確認出来ないクラス順位だが、おそらく1、2番落としたのだろう。

 「ねえ?大丈夫かなぁ、武佐君。」

 繰り返すはるみは、本当に心配しているように見える。

 はるみは勉強が苦手なだけで、それ以外は普通より数段上の、いい子なんだと知っている。

 自分の弟に絡んできた、クラスメイトを思いやれるくらいには。

 なら、

 「わかった」と、俺。

 「今日が本校の手伝い、最終日だ。話せたら武佐と話してみる。」


 「おい、武佐。」

 声をかけると、あからさまに嫌そうな顔を見せた。

 まったく失礼な奴だ。

 俺は2時間目と3時間目の間の休み時間に、武佐を捕まえることに成功した。

 朝コンビニであれだけの醜態を演じながら、彼はちゃんと塾に来た。

 内心の焦りがよくわかる。

 彼はたぶん……

 訳が分からなくなっているのだ。

 「何の用だよ、臨時の講師が‼」と、偉そうに吐き捨てたが、それが余計『助けて』と言っているようで……

 「お前さ、強がってるのもいいけど、やらなきゃ成績は上がらないからな。」

 ただ当たり前を言っただけの俺の言葉に、顔色を変えた武佐だったが、

 「くそう、なんでこうなるんだよ」と、歯噛みして呟く。

 武佐が俺に話せたのは、普段から付き合いのない手伝いの教師だったお陰だ。

 弱みを見せても影響が無かった。

 それだけだ。

 俺自身にも覚えがある。

 武佐は自頭のいいタイプで、これまで特別な努力も無しに、上位の成績をとり続けることが出来た。

 しかし、中3も後半に入ってくると周囲が真面目になる。努力し勉強をしたクラスメイトと、自頭頼りの裸の王様じゃ、勝敗は目に見えている。

 今まで通りにいかないことを苛立つ武佐が、自覚し努力出来れば解決する問題だが……

 「お前以外が努力している。やることやらなきゃ追い抜かれる。自覚して行動しろ」とだけ、言っておいた。

 ちなみに俺もこの時期に成績が急落、そのまま大学まで中途半端を貫いてしまったが、さて、武佐はどうなるやら。


 そのタイミングで、次の授業の予鈴が鳴った。

 話を切り上げ動き出す耳に、聞き覚えのある同期の怒鳴り声が響く。

 「なんだ⁉️その態度は‼️」

 ……

 またかよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る