第12話 コンビニの乱(10月30日①)

 森永の降格は……

 多分アンケート、と想像がついた。

 この塾では、年に2回アンケートと言う名の、教師の人気投票をする。

 いや、アイドルグループかよ‼️


 あれも100人中95、6位にでもなれば、悔しかろうし、悲しかろう。

 

 塾では、追い詰めるのは生徒だけじゃない。

 より良い環境を提供するためとか、もっともらしい理由は付くが、無理矢理にでも成長させるため、出来ない者には退社してもらうため、教師陣も追い詰める。

 好き嫌いを、塾生に匿名で発表してもらう。

 『(嫌い)1、2、3……8、9、10(好き)』の10段階だ。


 森永は『階段落とし』で出世した。

 善悪はともかく。

 実力も、人望も無い。

 ただ、キレたら何をするかわからない怖さから、子供達が従っただけだ。

 匿名性の強いアンケートの場なら、本音以上に叩かれる。

 おそらく、森永は最低記録かブービー賞でも取ったのだ。

 イライラと、不機嫌な顔を思い出した。


 翌朝、本校のヘルプの最後の日だった。

 塾の勤務時間は昼から夜だが、そう毎回昼まで寝ているわけじゃない。

 その日俺は早く起きてしまい、近所のコンビニに足を向けた。

 コンビニはいい。

 欲しい物が具体的になくても、毎日会社帰りに寄り込む程度には、コンビニ好きです、俺は。

 ただ、この朝のコンビニは、いつもと違っていた。

 「くそう‼当たったじゃねえか、クソガキ‼」と、ヒステリックな男の声。

 入口自動ドア付近でもめ事が起こっている。

 後ろ姿なので確定ではないが、中高生くらいに見える女の子の後ろに、小学生くらいの少年が見える。

 その前で、ギャアギャアキレている青年がいて、テンプレのこぼれたソフトクリームも何も見えないが、まあたぶん、ぶつかりでもしたのだろう。

 青年は元気いっぱい怒鳴っているし、怪我をしたわけでもなさそうだ。

 虫の居所が悪かった、その青年だけは正面向きなので顔がわかる。

 Aクラス元8位、現30位の似非ヤンキーだ。

 「前見て歩けや‼ぶん殴るぞ‼」と恫喝しているから、

 「お前、何やってんだ?」と、声をかけた。

 似非ヤンキーは興奮していて気付かない。

 「なんだよ、おっさん‼」

 「20代前半をおっさん呼ばわりかよ。しかも、知り合いを。」

 「あん‼」

 必死で歪めた顔が、むしろ可愛いよ、お前。

 一瞬の間の後、似非ヤンキーは俺が塾の教師だと思い出したようだった。

 「この時期に、外でくだらない問題起こす気か?」

 「くそ‼どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって‼」

 毒づいたものの、これ以上は損だと判断したのだろう。

 似非ヤンキーは去っていった。

 「はあ。」

 面倒だった。

 無意識にため息をつく俺に、

 「ねえ、先生」と、横から声がかかる。

 今更気づく。

 からまれていた少年の姉は、うちの塾の土屋はるみだ。

 「あの子……武佐君はダイジョブなの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る