第11話 久し振りの古巣(10月29日)
また、本校から無茶ぶりが来た。
なにか急な退職者が出たから、シフト調整するまでの1週間、こちらから教師を1人貸して欲しいと言う。
こう言う場合、普段事務全般を引き受け事務所に籠っている先輩が行くべきだと思ったが……
無言で首を左右に振った。
彼の人間不信の原因らしい、本校で教壇に立ちたがらない。
こう言う場合は、1番最近まで本校にいた人……つまり、俺だ。
結局教室を彼に任せ、俺が本校に行く事となる。
手伝いに行ったのは、偶然か、新人時代勤務した校舎だった。
いや、偶然もなにも、今いる塾と学区が被っている。
授業の進度の関係上、気を使ってくれたのかもしれない。
精神的負担は考慮されていないが。
まあ、仕方がない。
本校で、進学塾で、今いる塾の手法は取らない。
この塾の学生は、工夫しなくとも勉強する。
しかも、1週間限定の代打。
無難に、『ザ・授業』でやっていこう。
通う内に、この数ヶ月で変化していることに気付く。
秋も深まり、受験まで半年を切った。
空気が以前以上にビリビリしている。
Aクラスの26位だった半井芙亜那は、Bクラス中位まで低迷していた。
上部だけでもヘラヘラと笑っていた顔から、笑顔が消えていた。
プライドのため、媚びを売ってでもAクラスを維持しようと、間違った努力を繰り返していた彼女。
本当の意味で、身に付く努力など出来ている筈がないのだった。
15位と17位だった男子は、ほぼ変わりなく、16位の17位。
しかし、前のようにチャラついた言動は影を潜め、真面目に勉強に取り組んでいる。
田舎あるある。
地方だと、東大卒より◯◯高校(←地域1番の高校)卒の方が価値が高いし、尻に火が付き始めたらしい。
ただ、あの階段から突き落とされたAクラス8位は……
30位に落ちて、辛うじてAクラスに引っ掛かっている。
彼だけは変わらない。
脱色した髪の似非ヤンキーは、偉そうに、そり返って授業に臨む。
教師陣も変わっている。
原田祐輔は……
もういない。
夏くらいから無断欠勤をし、ほどなく退社したそうだ。
どうも俺は、『後悔先に立たず』のタイプらしい。
31歳中途入社の原田には、どんな想いがあったのか?
何を求め、何を理想としたのか?
わからないまま、もう会わない。
そして、もう1人の同期、森永康太は……
相変わらずギラギラした瞳で、塾内をのし歩いているものの、妙な危うさを感じてしまう。
彼は『主任』から、『役職無し』に降格していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます