第10話 千差万別(10月16日)

  佐奈と美咲が本校に行っている同じ時。

 俺は俺で、新たなる問題と向き合っていた。

 3年生の土屋はるみ(つちやはるみ)。


 この子、いい子なんだけど、ねぇ……


 1、1、1、1、1……

 通知表の上の方(所謂主要5教科と言う部分だ)に、『1』しかない。

 体育や音楽が『3』なのは、こちらは実技も評価対象だからね。

 多分テストは超悲惨だ。


 いやいや、冗談だろうと思うけど、こう言う人はたまにいる。

 本気で、徹底的に、勉強が苦手なタイプ。

 不真面目じゃない。

 手も抜いていない。

 でも、成績は取れないのだ。


 本当に……勉強が不得手としか、言いようがない。


 「困ったなぁ……」

 「困りましたねぇ。」

 自分のことなのに、割とのんびりしているはるみ。

 当事者意識がないわけじゃなく、基本のんびりした癒し系。

 かわいらしい顔立ちでおっとりしている。


 「はるみって、どこ受けるって言ってたっけ?」

 「女子商業高校の家政科ですね。」

 それは、この辺りでは1番低レベルの高校になる。

 ただそれでも、単願ですらはねられる可能性大なのだ。

 いっそ単位制高校の方が、と思ったが、

 「お母さんが、せっかくなんで受けてみなさいって。」

 「そっか。」

 「万一もあるし。」

 「万一って……」

 記念受験じゃないけれど、出来るならやらせてあげたい方針のようだ。

 なら、まあ。

 やってみるしかない。

 「わかんないことがあったら訊けよ」と、面談を切り上げると、

 「うん、わかった」と、満面の笑顔を見せた。

 「何がわからないのか、わからないから。」

 いや、それ……

 大丈夫じゃねぇ‼


 そして、面談から数日……

 本校に行っていた、佐奈と美咲が帰ってきた。

 「表向きは、塾への距離が遠くなるし無理だって言ってきた」は、美咲だ。

 思い切り『表向き』って言ってる。

 女の子、すごい。

 「わたしも送り迎えが大変なので、元の塾がいいですって、言ってきました」と、佐奈が言う。

 「って言うか、あれは無理です」、と。


 人間は同じではない。

 同じくらいの成績の子が、全て同じ場所にはまる筈もなく、向き不向きもあり千差万別だ。

 俺は、本校の『成績至上主義』『全体主義』みたいなものは気持ちが悪い。

 同じような拒否反応を示す子供も絶対にいる。


 「と、言うわけで、わたしはこっちを選びます」と1年生に言われた事が、意外にも少し嬉しかった。

 今本校はどうなっているんだろうと思う。

 50人以上いた同期は、半年ほどで半分くらいになったとか。

 原田や森永はどうしているだろうと、一瞬気持ちをよぎって……

 忘れた。


 俺はこっちの方がいい。

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