第9話 想像以上に以上に抜け目がない(10月9日)
前期の成績表が出て、1週間余。
一応塾生の成績は、本校に送ることになっている。
まったく抜け目がない話だ。
すぐに本部から連絡がきたよ。
「1年の広田佐奈と、2年の和田美咲(ワダミサキ)ですか?」
俺の問いに、
「そう」と、頭を抱えてため息をつく、岡野。
「2人共寄こせってさ。」
広田佐奈は……
1年で、今回が初めての通知表だ。
『オール3以下は入れない』の要件に弾かれたわけでなく、ただ偶然今の塾を選んだだけ。
蓋を開けてみたら5の混じったオール4だった。
中堅以上の高校に進学可能。
本校が欲しがるわけだ。
対して和田美咲は……
本校に入ろうとして、オール3に2が混じって足切りされた。
今回ずいぶん成績を上げた。4混じりのオール3。
Cクラスなら十分でお釣りがくる。
「随分勝手な話ですね。」
イラつく俺を、
「まあまあ」と宥めた岡野は、
「親会社の言ったことだし仕方がない。でも素直に渡すつもりもない」と、言う。
「今回は2人共女の子で良かったわぁ。」
セリフの意味は、後の話し合いで知ることになる。
人間は男の方が幼くて、腹芸が出来ない。
特に10代前半はモロで、精神年齢なら4、5年の差が男女である。
つまり、女の子と言うことは?
「うちの塾が、あの〇〇塾の子会社だって知ってる?」
佐奈と美咲を呼び出して、モロに言い切る岡野である。
「え?知らなかった」が、佐奈で、
「知ってるよ」と、嫌な顔をしたのが美咲。
「前に入ろうとして断られたもん。で、ここの塾を紹介された。」
「なるほどね。」
小さくため息をついた岡野の説明は、まるで隠し立てしなかった。
つまり、女の子ならわかると踏んだ。
「その本校が、あなた達2人を寄こせって言ってきたの。」
「は?」
「何それ?」
「十分な成績だから、こっちの実績にさせろって事ね。とは言え、こちらも素直に渡したくないし、でも、立場上本校を無視するわけにもいかない。」
「なるほど」は、美咲だ。
「つまり大人の方便ってやつね?」
「そう。あなた達2人は来週1週間、〇〇塾の方に行ってみて。体験入塾ってやつね。」
「うん。」
「わかった。」
「万一気に入ったら、塾を移ることは止めないわ。でも気に入らないなら戻って来れる。そういう風に話を進めたから。」
あの成績至上主義の本校をよく説得したと思ったが、家からの通学距離などを理由に言いくるめたようだ。
「うん。」
「なら見てくる」と言った2人に、
「うん、お願い。流されず、自分の頭で決めて」と、笑顔を作る岡野だった。
ぶっちゃけ……
女の子、すげえ。
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