第8話 奇跡は簡単には起きないものです(9月18日)
「で?何でこんなやり方にしたんです?」
「だって楽じゃーん‼️」とか、答えてくれる彼女だったが……
岡野早苗に確認を取ってから、俺はその手法を真似てみた。
「俺もオカちゃんの真似やってみる。」
「えーっ?出来るの、キンちゃん。」
前の塾では『大五郎』で、こっちでは『金太郎』か。
まあ、それはよい。
社会科で、今は中2の授業中。
この辺りでは2年は歴史だ。
なら、
「日本の平安時代の年表作って。最低項目を10個入れること、でどうだ?」
超簡単な筈なのに(だって書き写すだけだし)、生徒達からはブーイングだ。
「えーっ‼」
「きたねえ、キンちゃん‼だったら教科書持ってきたのに‼」
そう‼
うちの塾の学生は、誰も教科書を持ってこない。
ちゃっかりスマホは持ってきても。
授業中は板書されるから、余計な荷物は増やさないつもりらしい。
「スマホは最初5分だけ禁止な。あとはいいぞ。」
「うぇーっ、ケチ‼」とか、騒いでる。
条件は漢字を正確に書くこと。
社会科のテストは、意外と『漢字で書け』が多いものです。
で、最短20分で1抜けされた。
「くそう、難易度調整、間違えたか……」
「ご愁傷様、キンちゃん。じゃ、俺は遊んでるから」と、スマホをいじり始めた、沢柳隆二は柔道が強い。
県大会で、2年なのに準優勝。
スポーツで高校に行けそうなので、放っておいたら勉強はしない。
親も多分、スポーツ馬鹿にしないために塾に行かせていると思う。
書いたことで少しでも残ればいい。
そのあとも次々終了。
結局最後になった子は開始35分程度だった。
授業時間は50分、休憩を10分挟んで、1日3コマだ。
つまり‼
「マジ難易度ミスった……」
頭を抱える俺に、
「まだまだ未熟者だね、キンちゃん」と、塾生が笑う。
「うっせえ。まだ1年目だわ。」
「あはは、頑張れ。」
向こうなら絶対言えない言い訳を言えるくらい、こちらの塾は雰囲気が良かった。
理由はたぶん、『進学塾』じゃないから。
そして彼らが『オカちゃん』と呼ぶ、岡野早苗の塾経営のお陰だろう。
後日確認すると、俺が今いる塾は責任者によって雰囲気が変わる。
つまり、俺は当たりを引いたらしい。
取り敢えず授業時間いっぱい、50分の集中は無理でも、彼らの中に何かが残ればいいと思う。
それが遊びたいためであっても、無駄な時間などない、そう思った。
俺もだんだん変わってきてしまっている。
夏期講習が終わり、学校が再開される。
前後期制の場合、休み明けがすぐにテストだ(前期期末テスト)。
各校でテストが行われ……
我が教室の生徒は半数が現状維持、半数ほどは成績が上がった。
全員は躍進するような奇跡は……
まあ、無かった。
けれど十分だろうと思った。
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