第7話 道は1つだけじゃない(7月8日)
岡野早苗の授業は変わっていた。
いや、これ、授業?
とは思ったが、『でもしか』でも進学塾で3か月も先生すると、毒されていたのだと自ら気付く。
成果や形式を求めないならば、状況に1番合った方法をとればいいのだ。
馬鹿だろう、俺。
下位互換の塾には2教室しかない。
水曜日は1年と2年の日。木曜日は2年と3年の日。金曜日だけは1学年のみで1年の日。土曜日は2年と3年の日。日曜日は1年と3年の日。
3学年は物理的に揃わないから、ずらしずらして授業をする。
週3回登校だ。
金曜日の1、2時間目を担当した俺は、3時間目の岡野の英語の授業を覗き見ていた。
「はい、じゃ、いつものね。」
「電子辞書は?オカちゃん。」
「オッケーだよ。もちろんスマホもね。」
「おっしゃ。」
「終わったら何しててもいいからね。ただ大声禁止ね。」
何のことやらの会話の後、岡野が板書し始めたのは?
黒板一面の長文だった。
もちろん1年生用なので、そこまで凝った文ではない。
でも暗記して書くのは大変だろうし、所々英語が苦手な俺では和訳出来ない、難しい単語が使われている。
書きながら岡野は、
「フライング禁止ね、中山君」と、後ろに目があるかのような声をかけ、机の下でスマホを操作しかけた中山が、
「へへ」と、照れ笑いする。
「はい、はじめ」で開始されたのは、和訳のタイムトライアルだった。
「オカちゃん、出来た‼」
「残念、1つ引っかかってる。」
「いや、その言い方がわざと引っかけた感じじゃん。」
「へへえ。あんま簡単でも面白くないじゃない。」
「くそう。」
15分後、最初に手を挙げた少年はあえなく差し戻し、別の少女が25分で合格をもらう。
「よし‼」
「いいな、佐奈ちゃん。」
「へへ、いいでしょ。」
佐奈は……広田佐奈(ヒロタサナ)は席に戻り、熱心にスマホを弄っていた。
つまり、課題終了後は何をしてもいいと言う条件なのだ。
やられたと思う。
この塾の子らは、基本勉強する習慣がない。
普段は部活に夢中だったり、趣味に夢中の子供達に、曲がりなりにも勉強してもらうよう仕向けるのだ。
後で質問した。
学年が上がれば捻くれて、意地でも課題を行わない者もいる。寝ているだけ、とか。
そこまでは中々手が届かないし、焦らずアプローチするしかないのだが、大抵の子は許可された自由時間確保のため、30分程度なら必死になれる。
普通なら許可できない電子機器もオーケーなので、難易度が上がりすぎることもない。
「写真を撮って、そのまま和訳するようなアプリがあれば?」
「それならその努力を誉めるよ」と、岡野は笑った。
「先輩、俺、真似してみてもいいですか?」
「いいけど、難易度調整難しいよ。」
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