第3話 もうその場にいないからどうでもよいと思えるのかもしれない(5月5日)

 世間はゴールデンウィークだが、塾は暦通りに営業される。


 一応中間テスト前だが、ゴールデンウィークはまだましだ。

 休日の月火が当たっても、そのまま休みになるのだから。


 正月が最悪。

 正月休みの概念は、学習塾にはない。

 他人が休んでいる時こそ勉強することに意義があると、三が日は絶対に休まない。月火が当たろうと、そのために12連勤になろうとも、絶対に。

 いい迷惑だ。


 そう言えば中間テストといったが、今は公立校でも前後期制の学校も多く、こちらの方だと特別『テスト前』ではないのが大きいのかもしれない。


 正配属を受けて、俺は入社式で近くにいた、森永康太と原田祐輔の2名と、同じ教室の先生になった。

 この結果から逆算すると……

 あの入社式の並び順にも意味が隠されていたのかもしれない。


 俺達が配属になった教室は、比較的大きなものだった。

 普通に人口密度だったり、近くに中学が多いか少ないかだったり、いろいろな要因があるものの、教室はそれぞれに規模が違う。

 各学年1クラスずつしかない小規模なものから、ABC3クラスもある大規模なものまで。


 学習塾だから、それも『今年度は××高校(県下トップクラス)に〇名合格‼』なんて宣伝をする、上へ上への世界だからか、もちろんクラスは成績順だ。

 Aがトップで、Bで、C。

 同じ地域の子が通う以上、同じ中学の子が多数いる。

 Cなんて入れば馬鹿にされる。


 こう言うのも……

 どうかと思うよ。


 大体がこの塾、オール3以下の生徒はとらない。

 入塾拒否だ。

 『××高校に〇名合格‼』とかやるためには、一定以下の生徒をとるわけにはいかない。

 レベルを下げるし、汚点にしかならないから。

 そこまでして、更にクラス分けで煽る。

 追い詰め方としては下の下だと思う。


 Aクラスの無駄に高くなった鼻っ柱も、Cクラスの卑屈さも、それを演出する塾という組織も。

 本音では全て気に入らない。

 吉野由紀奈のように辞めてしまうか?

 しかし、後先考えず無職無収入になるわけにも……


 悩むうちに、あることに気付いた。

 3年の半井芙亜那(ナカライファナ)。


 中3と言えば、大人っぽい子も多い。

 まあ、塾だから大目に見られているが、色付きリップで薄化粧。

 天パ……とか、学校では言っていそうなゆるふわ髪の、派手な見た目の女子だった。


 この子がやたら、原田祐輔にまとわりついている。

 原田は、やはり中途採用の、31歳だった。

 それが中3にまとわりつかれて、鼻の下を伸ばしている。


 どういうことだ?


 芙亜那は、4月中旬、俺のところもチョロついていた。

 ロリじゃないので……

 と言うより、大人になりかかっているから『生徒』なんかにまとわりつかれても迷惑なだけだ。

 適当にあしらっていたらいなくなったものだが……


 彼女はAクラスの29位だった。

 1クラスは30人。

 後がない。


 だから少しでも、おぼえをめでたくしようとしているのだ。


 4月末の入れ替えテストで、Aクラスの30位になった。

 俺では効果が薄いから、原田を落とすつもりなんだ。


 いや、そいつも1年目だし『意味ないよ』という思いと、そこまでやるかという思いが交錯する。


 なんだか、いろいろ馬鹿馬鹿しいと思った。

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