第2話 引き際は早いほうが良い?(4月2日)

 昨日は、入社式の後説明があった。

 3日が日曜日なので、4、5日が休み、6日は配属先の教室が決まる。


 教室とは『〇〇校』と言うもので、〇〇は地名だ。

 生徒が通う塾そのもので、入社5日で即実践‼うち2日は休みときてる。

 マジかぁぁぁぁぁ‼って感じである。


 先生という職業は言い訳がきかない。

 『年配だからブレーキとアクセルを踏み間違えた‼』で済まされないように、

 『新人だからわからないことが多くて』は駄目な職業。


 一応教職課程もとっているし、実習経験もある俺だが、これは狂気の沙汰と思う。

 

 今日明日は、出社後担当教科ごとに分かれ実習、互いに模擬授業を見せ合い、批評し合う。

 そして夕方からはいくつかのグループに分かれ、それぞれの教室で授業を見学する。

 何班かに分かれるのは、新人50人も詰め込めば塾生より多くなる。

 立錐の余地もないから、そう言うことだ。


 これは昨日だが、入社式が終わりまず教えられたことは、教室を『支配する』こと。

 お金を受け取り、その対価として成績を伸ばす学習塾だが、自分だってそうだった、勉強などしたくない、遊んでいたい、大人に縛られない俺や私を演出する子供が少なからずいる。

 そういう子供に主導権を取らせるな、という話。


 まあ、もっともと言えばもっともだが……

 支配って?

 もう少し何とかならないのかと思う。


 全員がやる気があって、全員がいい子で、なんて教室は、どこにもないと分かっている。

 それはフィクションであり、ドリームだ。

 ただ『支配せよ』とか言われると、

 『昭和かよ?』と突っ込んでしまう。


 ああ、でも……


 地方都市には色濃く残っている、『先生様』の文化かもしれない。

 先生は偉い。

 先生は間違ったことはしない。

 田舎だと未だにあるよ。


 先生も、この前まで学生だった、ただの人です。


 大体この塾では、指示棒の代わりに竹刀を使う。

 いやいや、昭和のスポ根かよ‼


 別に、塾生を小突けとか、言わないよ。

 ただ黒板をさし説明する時、例えば教室の雰囲気が緩んでいたら?

 バーン‼と派手な音を立てて、威圧効果を十分に意識して、緩んだ空気を引き締めろ、と言う。


 ぶっちゃけ気持ち悪いよ、そう言うの。


 とは言え、各教室には指示棒代わりに竹刀が常備されている。

 出来るだけ使わないでおこうと思う、俺の斜め前に、入社式で見た吉野由紀奈がいた。

 生真面目な顔に浮かぶ嫌悪感。

 

 どんな夢を抱いていて、どんな先生を目指していたか、後で思えば聞いてみれば良かった。


 彼女は今日にはいなくなった。

 サッサと退社を届け出たらしい。


 ある意味賢い、即決だった。

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