第21話

「ほお、これは、大したものだ」


 ドワーフたちは建物をみて驚いている。   

 

 魔王島に帰ってきたオレたちは、ドワーフに町をみせて回っていた。


「これは恐縮ですな。 まさかドワーフどのたちに誉められるとは、これも皆の努力のたまもの」


 わーちゃんは照れているようだ。


「世辞ではない、本当だ。 モンスターがこれほどの技術をもつとはな。 私も長く生きているがみたことがないな」


 ギュレルも腕を組み感心している。


「災害にたいしての建築の技術や、工法など伝授していただければこのものたちも会得できましょう」


「ふむ、マリーク頼めるか」


「はい、これは教えがいがありそうです」


 そうマリークはいい、ゴブリンとワーキャットたちと話をしている。


「じゃあ、機械や工具、鍛治なんかも教えてもらっていい?」


「うむ、すでにそう命じてある」


「これでわざわざ買いにでなくてもすみますな」


 わーちゃんは嬉しそうだ。


「それにしても、本当にこれほどの数のモンスターと共存しているとはな」


 ギュレルは考え込むようにいった。


「嘘ついてるとおもった?」


「いや、嘘はついてないとは思っていたが規模がな。 かなり高位のモンスターが大勢いる。 しかもトラに従っている、比喩ではなくまさしく魔王だ......」


「魔王...... そういや昔いたっていってたな。 でも誰も知らないだろ」


「私の幼き頃のことだからな」


「なっ! いったい何歳なんだ!?」


 ポカッ!


「いた!」


 ギュレルに殴られた。


「しれもの、年齢のことを問うなど王として品がないぞ」


「もう少しだけ相手をおもんばかってくださいねトラさま......」


「ああ、そこら辺はやはり幼いな」


「すみませぬ。 そのようなことはお教えしておりませぬので...... ご容赦を」


 女性陣から言われて、なぜかわーちゃんが恐縮している。


「......それはわるかったけど、だって伝説の話じゃないの」


「いいや、伝説でも神話でもない...... 本当の話だ。 かつて魔王ゼグリナクレスは勇者と戦い敗れ、モンスターの世界だったこの地を人間たちに解放した」


「そうなのか、でもそれならモンスターの世界を奪い取ったってことじゃない」


「............」  


 クエリアが口を結んでいるのに気づいた。


(なんだ? クエリア)


「まあ、モンスター側からすればそうでもあるな。 とはいえ力こそ全ての世界が人間に解放されたことで、ただ魔力を奪われるだけだった弱いモンスターも救われているから、どちらがよかったとは一概にはいえんな」


「......なるほど、ならまあいいか」


「テキトーだな」


 クエリアがあきれる。


「今の話じゃないだろ。 起こってることを後悔しても仕方ない。 わるいなら直していくしかないからな。 考えるだけ無駄だ」


「そうですね」


 ミリエルがうなづく。


「さすがマスター! その深い思慮、感服いたします!」


「いや、おもいっきり浅いだろうが...... まあかまわないが、それで鉱山があるんだろう。 そこに案内してくれ、使えるか見てみる」


 そうギュレルにいわれて、トライに洞窟を案内してもらうため洞窟へ向かった。



「まさかキマイラまで仲間とはな。 信じられん......」


 ギュレルが隣にいるトライをみていった。


「仲間ってか家族だね」


「マスター恐縮です」


 トライが片言じゃなく流暢にしゃべった。


「ほぎゃ! トライがしゃべった!」


「ええ、わーちゃんどのからご教示うけました」


 トライがそういう。


「ええ、覚えがよいのですぐ体得しましたな」


 わーちゃんは胸を張っている。


「そうなのか、二人ともすごいな」


「まあもういい、通常の理解では追い付けん...... で、鉱物は?」


「ここですギュレルどの。 私がいた洞窟です」


 トライにいわれて壁に触れて調べている。


「うむ、確かに鉱物はかなりの埋蔵量がありそうだ」


「それでわかるの?」


「ああ、魔力を放出して調べられる。 私だけの特技だな」


「............」


「どうしたミリエル? 私の顔になにかついておるか?」


「おっ、いえ、聞くのは失礼かとおもいまして」


「かまわぬ。 我らは家族なのだろう。 気にせず聞け」


「ギュレルさまはドワーフなのにドラゴンなのですか?」


 ミリエルはそう聞いた。


「確かにそうだったな。 なんでだギュレル?」


「......いえ、言いたくないのであれば、ただ気になっただけですので」


「いや、かまわぬよ。 昔の話なのでな。 さっき魔王の話をしただろう」


「うん」


「魔王は別に人間だけの敵であったわけではない。 モンスターにとっても脅威だったのだ」


「ん? モンスターを守ってたんじゃないの?」


「違うな。 魔王は強さこそが生物の本性と考え、弱きものを許さなかった。 ゆえに強者以外のモンスターはただの家畜以下のようなものだった」


「......それで勇者に倒されたことが悪いことじゃないといってたのか」 


「そうだ。 ゆえにモンスターとされていた我らは、滅びの危機を迎えていた。 長命であるが子孫を残す力が弱いからな。 そこでいにしえの魔法で自らと他の種族を融合する秘術を使ったのだ」 

 

「それがギュレルどのか......」


 クエリアがつぶやく。


「そう...... 我はドワーフのほとんどが加わって倒したドラゴンと融合し、この力を得た。 そして長としてドワーフの守護をしてきたのだ」


「あんまりだわ......」


 ミリエルはそう悲しそうにうつむく。


「そうでもない。 確かに非道な行いかもしれんが、我が望んだこと、そのぐらいせねば生き残れぬ過酷な時代でもあったというだけ」


 そうあっけらかんというとギュレルは壁から、ノミのようなもので石を取り出した。


「なるほど、まあ今の価値では、過去の価値なんてはかれないもんな」


「まあ、そういうことだ。 しかし......」


「どうした?」


「いや、これは誰かの手が加えられておると思ってな」


「そうだ! なあトライお前と契約したやつのこと、なにか覚えてないか」


「そうですね。 マスターのような黒い魔力を放っていたことしか、 あとはすみません......」


「ふむ、黒い魔力を使うか...... そして神殿を守れといわれたのか...... ああ、この先に神殿があるんだよね」


「はい、こちらです」


 オレたちは先へと進む。


「調べておらんのか」


「正直、モンスターの生活やルキナのことで手一杯で...... そういやルキナがいない。 いつもならミリエルに飛び付いてくるのに」


「そうですね。 どうしたのでしょうかわーちゃんさま?」


「そ、それがルキナどのは、マスターたちが美味しいお土産を買ってこなかったことがご不満で、すねておりまして......」


「なっ、忘れてた!」


「そういえば約束していましたね!」


「トラ、絶対といっていたぞ」


「ま、まずい。 ああどうしよう! 食べ物のことだとルキナは危険だ。 噛み殺されかねん!」


「ど、どうしましょう! 前に忘れたとき、頭をかじられましたよね!」


「そ、そうだ、あの時めちゃくちゃ血がでた! ドワーフのなんか美味しい料理しらないか! 甘いやつがいい!」


「甘いおかしならもちろんあるが」


「あとで教えてくれ! 頼む」


「わかったが、料理ならばオークを探せばよかったのに」


「オークって豚だから料理されるほうじゃないの?」


「失礼だな。 森にすんでいて、料理の達人といわれているぞ」


「なら住んでるところ教えてくれ! 料理人が欲しい! 命も惜しい!」


「ああわかった...... あとでな。 ここか」


 洞窟の奥、大きな石造りの立派な神殿がある。 それはパルテノン神殿のように円柱が神殿を囲んで立っていた。 洞窟の天井があいて日の光が差し込んでいて、なお神々しく見えた。   


「すごいな。 誰がこんなの作ったんだ。 でもどこかで......」


「ああ、間違いない、我らドワーフの仕事だ...... しかもかなりの腕だな。 これほどの者が、こんなところに......」


 ギュレルが腕を組んでみいっている。


「ドワーフの長のギュレルが知らないの?」


「我はあの里の長だ。 全てのドワーフの長ではない。 世界には他ドワーフはいるし、それに過去には魔王に与したドワーフもいたのだ」


「まじか!」


「ああ、いまとなってはなぜ与したかもわからんがな」


 中央の階段をのぼると巨大な石で閉ざされていた。


「扉らしきものもない。 無理矢理ぶっ壊してみるか。 あたっ!」


 ギュレルに殴られた。


「止めんか馬鹿者。 中に何がいるのかわからん。 もしなにかを封印していたら、扉がないと大変なことになるぞ」


「確かに、でも土地にワケのわからないものがあるのも気にはなりますな。 危険なものなら排除したいし、呪いとかそういうものなら、困りますしな」


 わーちゃんはそういう。


「そうですね。 あれここになにかくぼみがある」


 ミリエルがいったとおり確かに石の壁、中央に小さなくぼみがあった。


「この形状は......」


 クエリアがペンダントをもった。 その形状はくぼみに近い。


「それ帝国の紋章だよな」


「ああ、初代の皇帝、つまり勇者グランディオスがもっていたとされるものだ。 肌みはなさずもつよう言われてきた」  


「勇者ってクエリアのご先祖なのか!! それでさっき......」  


「モンスターにとっては仇のようなものだと思っていたからな...... 言えなかったんだ」


「そのペンダントここにはめてみてくれないか」


「ああ」


 ギュレルにいわれてクエリアはそのペンダントをはめこんだ。 すると中央が扉の形に光り開いた。


「おお! あいた! まあ入るしかないよな」


「そうですね」


「私は知らねばならないからな」


 クエリアは真剣な眼差しでそういうと、ギュレルもうなづいた。


「私も興味があるな」


「仕方ありませぬ。 我らの土地を、把握しなれば」


「私も自分が何を守っていたのか気にはなりますね」


「わーちゃん、トライ、まあこのメンバーなら大抵のことはなんとかなるか...... よし! 行くか!」


 オレたちは神殿へと足を踏み入れた。


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