第22話
石の神殿の中は広く、仄かに光っていた。
「どう考えても、外と大きさが違うな」
「ええ、この光といい魔法によるものですな」
「ああそうだ。 空間拡張と自動魔法吸収と放出、ドワーフにはもうこの技術はないがな」
わーちゃんにギュレルはそういった。
神殿の奥へと進む。 ただそこは柱だけが無数にあり、他の部屋もおかれた調度品も何もない。
「殺風景だな。 なんの神殿だ? そもそも神様なんていないだろ」
「無神論かトラ」
「まあね」
クエリアの問いにそう答えた。
(だって狭間のじいちゃんがそういってたしな。 というかあの人何者だったんだ?)
「かつて勇者に力を与えたとされるがな。 本当にいるかはわからん。 魔王の恐怖に支配されていたものたちなら、もう神へと祈るしかなかったであろうな」
ギュレルはそういう。
(そういやそんな話してたな...... あれは)
奥の行き止まりの部屋に祭壇のようなものが見え、階段の上に四角い石の台がみえる。 階段を登る。
「こ、これは!? 人!?」
その四角い台の上にガラスのような透明な蓋があり、中に綺麗な女性が白い衣服を身に付けて横たわっている。
「これって、クエリア、ミリエル!?」
その女性は二人にとてもよく似ていた。
「確かににていますね」
「ああ、そっくりだ......」
二人も驚いているのようだ。
「ふむ、世界には三人似ているものがいるといいますが、にすぎていますね......」
わーちゃんはいぶかしげいった。
「この人、眠っているのかな? なら起こしてやんないと」
「いや、死んでいるようだな。 魔力は感じん。 この石の棺の力でその姿を保っているのだろう。 この服装は遥か昔のものだ。 おそらくその当時からずっと......」
ギュレルが調べながらいう。
「何のために、しかもなんでこんなところに......」
「墓所なのだろうか、気にかかるな」
ミリエルとクエリアが話している。
(自分と似ているものだから、二人は気になってるようだな......)
「特に害がありそうではないなら、このままでいいか」
「そうですな」
オレたちは神殿をあとにし帰る。
そのあとお菓子の件をまた忘れていたオレは、ルキナにかみつかれた。
「さあ、行くぞ! まってろごはん!!」
ルキナは甲板の上で元気一杯だ。
「はあ、仕方ない......」
オレはため息が出てきた。
あのあと、ドワーフのお菓子をたらふく食べさせたが、ルキナの機嫌はなおらず、仕方なくオークの話をした。
「食べたい! 食べたい! 食べたい!」
そうだだをこねるので、オークの料理を食べさせるため、オークのいるという東のカンデリオ大陸へと向かうはめになったのだ。
「久しぶりですなマスターとの旅も!」
「ゲココ!」
ポイル、わーちゃんにきてもらう。
「わーちゃん町は大丈夫か?」
「ええ、ギュレルどのたちドワーフどのにお任せしました。 技術ならばドワーフどのたちが適任。 ミリエルどのたちも裁縫機械をつくってもらうため残られました」
(クエリアはあの神殿をしらべたいといってたな。 スラリーニョがついてるから何かあっても平気か......)
「それで貿易の件は?」
「はい、マスターが手に入れたもうひとつの大型船で、いくつかの港町へ果物、野菜などを運んでいます。 これから、ドワーフどのが作った加工品、調度品、武具、道具なども商品にしたいと思います」
「でもモンスターだとばれないかな」
「貿易時はミリエルどの、クエリアどの、またはドワーフどのに随行してもらいますから大丈夫でしょう」
「うーん、やはり人型のモンスターがもう少し欲しいな」
「ですな。 他の人型のモンスターだと、ヴァンパイアは無理としてオーガ、トロールあたりでしょうか」
「オーガとトロールってどんななの?」
「トロールは大きな体躯を持ちますが臆病な性格で地下などにすみます。 オーガは小型で手先が器用、金細工などが得意で、こちらは姿を自由に変えられるそうですな」
(なんかイメージがちがうけど? オーガって鬼みたいな怖い感じだったし、トロールは再生力の強い化け物のイメージだったな)
「まあ、姿を変えられるなら、多少からだが人間と違ってもかまわないか、言葉を話せる?」
「はい、おそらく話せると思います。 というのも私の記憶ではあったことがなさそうなので」
「でいる場所はわかるの」
「いや、彼らは臆病なのでどこにいるかは...... 地下や人のいない場所にいるはずですが」
「なら、町で噂を仕入れるしかないね」
二週間航海し東の大陸カンデリオにたどり着いた。 港は活気があり、大勢の人たちがいる。
「ついたー!! オークの料理どこだ!!」
ルキナは港を走り回っている。
「こら! 先に行くな!」
「ギュレルどのの話ならば、オークはここから北東の森にいるらしいですが、取りあえず町により情報をえましょう」
「となると」
酒場にやってきた。 昼だからか、人は少ない。
「いらっしゃい、なににしましょうか?」
初老の紳士がカウンターにいる。 ルキナにジュースとサンドイッチを頼む。
「それですみません。 北東にある森について聞きたいんですが」
「ああ、オークの森ですか」
「その森に行けばオークに会えますか?」
「オークにですか?」
「うん、オークのごはん食べたい! でもこのサンドイッチもおいしい!」
ルキナがサンドイッチをほおばりながらいった。
「ありがとうございます...... それは昔友達に教わったものです...... ああ、確かに彼らの料理は美味しいですね」
「たべたことがあるんですか?」
「......ええ、幼い頃はオークたちも人間と一緒に暮らしてたんでね。 仲のよいオークもいました」
遠い目をして懐かしそうに語った。
「えっ? でも......」
「......人が増えるにつれ、軋轢が起こり、彼らは人を避け森へと居住していったんですよ...... いえ正確には私たちが追い出した...... ですね」
少し悲しそうな口振りが気になる。
(何か思うところがあるのか)
店主から話を聞いて、オークの森の場所を聞き町をでた。
「ごはん、ごはん、おいしいごはん!」
ルキナはうきうきで先を歩く。
「でも酒場の店主の話だと、オークは人を避けてるようですな」
「ああ、会うのは難しいって言ってたな。 どうやら会いに行ったこともあるようだった。 会えなかったみたいだけど」
(まさか、暴走してるってことはないよな)
オレたちが街道を離れて北東にしばらく歩くと森が見えてきた。
「ここかな」
「おそらくそうですな」
「はっやく、はっやく」
ルキナが跳び跳ねて森の中へはいっていく。
「こら、あまりはなれるなよ。 モンスターが出るんだから」
酒場の店主はモンスターが出るので、この辺りに普通の人は入らないといっていた。
「まあ、ルキナどのならば、大抵のモンスターならば対処できましょう。 それにポイルどのを連れているので大事はないと思います」
「そうだけど、なんか精神異常の魔法とかあるんでしょ」
「ええ、操作、混乱、魅了などがありますね」
「間違いなくルキナはかかるよ」
そこらの木の棒を拾って振り回してすすむルキナを見て小声でいう。
「た、確かに...... もし操られてでもして、こちらに攻撃が向かえば危険ですな」
「ん? なに二人とも?」
オレたちはルキナを挟むように歩いた。
しばらく歩くが、いっこうにオークの姿が見当たらない。
「おかしいな。 かなり歩いたのに、どこにもいない」
「そうなんだ。 何かの匂いはするんだけど、すぐ消えちゃう」
ルキナは鼻をスンスンならしていった。
「ええマスター、それより少々仲間にしすぎでは......」
そうぞろぞろついてきているモンスターたちをみて、わーちゃんがいった。
「しょうがないだろ。 出てくるんだから、倒したら契約しとかないと人でも襲ったらことだ。 オークも狙われるかもしれないしな。 それよりオークのこと知らないか聞いてみてくれ」
わーちゃんが意志疎通をこころみている。
(言葉を話せるものがいればわかるんだろうが、向こうに伝わってもこっちには伝わらんからな)
「あー、そうか、ふむ、ふむ」
「わかった?」
「私も完全にわかるわけではないので...... ですが、どうやら、オークがいることは間違いないらしいです。 が、どこかに消えてしまうとのこと」
「消えてしまう? どこかに隠れ場所があるのかな?」
「いえ、そういうことではないらしいです。 急に消えるらしいのです」
「なんだそりゃ」
「おそらく魔法のたぐいでは、しかしオークがそんな珍しい魔法を使うとは聞いていません。 進化したものか、他のものと共生してるかのどちらかでしょうな」
「なら、手がかりがないな...... あきらめるか」
「やだ!! 絶対ごはんたべる!」
ルキナがだだをこねはじめた。
(まずい! こうなったら、止められなくなる!)
「ほ、ほらでも、みつけられないなら仕方ないんだよ」
「やだ!! やだ!! やだ!!」
(ま、まずい、本格的なやだがはじまった!)
ルキナは仲間が帰ってきてから、わがままが増えていた。 おそらくそれまでは心のなかにしまっていた、気持ちが爆発したのだろう。
「あ、あのルキナさん」
「やだ!!」
「そ、そうですぞ。 ルキナどの、あまりわがままは......」
「やだ!! みんなに食べさせるの! 美味しいごはん!! みんなで食べるの!」
(幼いときに、過酷な状況におかれたからか...... 孤独を極端に嫌う)
「で、でも......」
「やーだーーーー!!」
森に響きわたるような衝撃が周囲の木々を揺らす。
「ぐわーー!!」
「これはマジックローア!! 強力な魔力咆哮です!」
「ヤバい! モンスターが気絶し始めた! やめろ! ルキナ!」
咆哮をやめたルキナが何かを拾っている。
「や、やばかった鼓膜とかじゃないな。 からだ全体が爆発するかと思った。 まだ音が聞こえている......」
「聴覚が魔力だよりの私でもおかしくなりかけました...... なんともはや恐ろしい力ですな......」
「ん? どうしたルキナ? やっとあきらめてくれたか」
「これ、落ちてきた」
「人? いや妖精!!?」
それは手のひらに乗る羽根のはえた女の子だった。
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