第20話

 黒い闇の世界、白い竜ファフニールが天井にブレスをはいている。


「無理だよ。 ここからはでられない。 物理的な力じゃな。 お前はオレとここで死ぬんだ......」


 その時オレの手を誰かが握る。 振り返るとミリエルがそこにいた。

 

「ミ、ミリエルなんでここに!!」


「死なせません! 約束したでしょう!」 


(くっ! 今、ここを魔法で壊して外に出るわけには行かない!)


「私がいればあなたは生きて帰るしかありません......」


 真剣な眼差しでオレの目を見つめた。


「......わかった。 何とか生きて帰るよ」


 オレは自らを暴走させる。


「ウオオオオオオ!!」


 黒い炎が体から立ち上る。  


(意識を強く持て! 必ずミリエルを生きてかえす!)


 オレは飛び上がりファフニールを殴り付けた。 


「ギャオオオ!!」


 ファフニールはオレへ炎のブレスを吹いた。


「シャイニングフィルム!!」


 ミリエルの魔法で光の膜がオレを包みブレスを防ぐ。 オレはファフニールを殴り付ける。


(ぐっ! コロ、ス、やめろ! コロス! 抑え込め!)


 自分のなかの憎悪と戦いながら、ファフニールに攻撃する。 ファフニールはその爪でオレを切り裂くが、ミリエルの回復魔法が緩和する。


(くっ、凄まじい負の感情が溢れてくるけど、ミリエルやみんなのことを考えることで、ある程度意識をたもてる......)


 無尽蔵に憎悪を出さない分、威力は弱まるが自我を失わず長く戦えた。 ファフニールは力こそ強いが見境がない分、単調で回避は容易かった。 殴るとドンドン弱っていった。


「よしこれなら魔法も! ダークスフィア!!」


 強力な闇の魔力がファフニールに直撃した。


「グオオオオオオオオオン......」


 ファフニールはそう咆哮すると、横倒しになり肩でいきをしている。


「よし! 戻れ! 戻れ! 戻れ!!!」


「戻ってください!!」


 ミリエルのヒールもあってオレは感情を制御した。


「ファフニールは! おい意識はあるか!」


「......さっきマリークといた...... 何者だ...... その力」


「よし自我がある、 また暴走する前に契約しろ!」


「に、人間は、し、信じられん...... このまま死ねば暴走することも......ない」


「あほか! それじゃ他のドワーフが悲しむだろ! お前は長なんだろ! みんなのこと、人間に任せるつもりか! さっさと契約しろ! そのためにこっちは死にかけたんだ!」


 少し目をつぶると、目を開けうなづいた。


「わ、わかった......」


 そしてファフニールの首に模様が浮かび上がる。


「ラージヒール!!」


 ミリエルの回復魔法で、少しだけ穏やかな表情になる。 すると小さくなりドワーフの姿になった。


「ええ、大丈夫...... 眠っています」


「よし、魔法でここからでる」


 オレは魔法で出口をこじ開けると闇の世界が崩れ出た。


 


 それから一週間、ドワーフの洞窟でギュレルの回復を待った。  


「まったく! トラはどうなっているのだ! 無茶をして! 闇に吸い込まれて帰ってきたと思ったら、あんな重傷になっているなんて!」


 そうやって一週間ずっとクエリアは怒っていた。

 

「ごめん...... 心配させて」


「ごめんではすまん! 魔力を暴走させることを事前にいってくれてれば、私とてなにかできたかもしれぬのに!」


「まあそのくらいでクエリアさま」


「まあではないわ! ミリエルそなたもだぞ! 止めるでもなく、一緒に闇の中に入るなど! 私がどれ程心配したとおもっておるのか!」


「は、はい、すみません......」


 その時ドアがノックされる。


「トラどの、ギュレルさまがお目覚めです」


 そうマリークが教えてくれた。 


(ふう、助かった。 まだクエリアはにらんでるけど)


 オレたちはギュレルに会いに行った。


 部屋に入ると肉にかぶりつく少女ようなドワーフがいる。 周りにドワーフたちが集まっている。


「おお、やっと目覚めたのでな。 腹が減ってしかないのだ。 失礼するぞ」


「かまわんけど、起きてすぐそんな食べて大丈夫か」 


「ああ、平気だ! ほら!」


 そう見た目にそぐわない筋肉質の腕をまげ、笑顔で見せた。


「それで、マリークから話しは聞いた。 我らを魔王島へつれていきたいということだな」


「そうなんだ。 希望者だけでも、いいんだけど」


「ふむ、私は契約したゆえかまわないぞ」


「本当か! でも長がいないならまずいんじゃないか」


「いえ、私たちもついて参ります。 命を懸け長を救ってくれたあなたを信じて参りましょう」


「ああ、オレたちは死ぬところだったしな」


「ミリエルどのとクエリアどのの魔法で何とか死なずにすんだから、この命あずけよう」


「それにギュレルさまを倒すなど、その強さ、まさに魔王! 面白い男だ!」


 ドワーフたちはどうやらみな納得のようだ。


「ふむ......」


「なんだ皆は無理か?」 


「いや全員きて欲しいよ。 でもみんなでここを離れたら、ここはどうなるんだ?」


「まあ、人間たちが入り込むだろう。 まだ掘り起こしてない鉱山もあるしな」


「それだ。 それが納得いかん。 そもそも人間たちの横暴でこうなったんだし、それにくれてやるのは違うだろ」  


「ふっ、変なやつだな、お前も人間だろう。 だが建物など持ってはいけん。 それにヴェスターブが原因で、全ての人間に問題があるわけではい。 皆は昔からの因縁と私に対することで人間を嫌悪したにすぎない」


「まあ、正直感情的になったきらいはありますな......」


 マリークはそう自重ぎみにいった。 ドワーフたちも反省しているようだ。


「確かに人間の方も後悔してたからな...... でも、ヴェスターブは許せん。 人間のためにも何とかしたいな」


「ではどうするというのだ?」

 

「ふむ、ここを売ろう」


「売る?」


「そうだ。 どうせなら売ってお金にかえよう」


「なるほど、少しは金になるか...... だが買い叩かれるのがおちだがまあかまうまい」


「いいか」


「ああ、好きに使ってくれてかまわん」



 次の日、オレたちはタタリアの町にはいり、ヴェスターブの屋敷へとおもむく。


「貴様らが取引にきた商人か...... 子供ではないか」


 屋敷に入ると派手な身なりをした中年の男がソファーにふんぞりかえっている。


「ええ、いい取引をお持ちしました」


「なんだ? いい取引とは」


「ここの奥にいるドワーフたちと話ができるのですが」


「ふん! あの亜人どもと話ができてどうのるというのだ。 土地でも奪えるというのか」


「まさにその通りです」


「なんだと!! そんなことが本当にできるのか! いやできるわけがない!」


「いいえ、オレならば可能ですよ」


「しかし、ドワーフどもが土地を売るとも思わん。 やはり無理だな」


(警戒してるな)


 ヴェスターブはその疑り深そうな顔でこちらをみている。


「ええ、ドワーフたちは土地を手放そうとはしませんね。 しかし、ドワーフたちをあそこに住めなくすればどうでしょうか」


「そんなことが可能なのか! いや、今は長のギュレルがいないか」


「ほう、そうですが、それをどこで」


「帝国の魔法騎士団から話があったのだ。 ギュレルをおかしくさせるから死んだらその体を寄越せとな。 だが、まだ死んではおらぬようだな」


(やはり帝国か、体を寄越せってのはなんだ? 調べるつもりか)


「......弱ってるのは間違いありませんね」


「でどうやって住めなくするのだ」


「オレはドワーフから信頼を勝ちえてましてね。 オレに疑いすら懸けません。 彼らのすむ場所に火薬を仕掛ければドン! ってね」 


「そんなにうまく行くか」


「しかし、用意が必要ですよ。 大量の火薬と酒、そして大型の船、二隻、そして土地の権利書」


「火薬はわかるが、酒と大きな船二隻、土地の権利書とはなんだ?」


「土地が吹き飛んで住めなくなっても、ドワーフが権利を主張するかもしれない。 だから長代理のマリークに正当に手に入れたように多額のお金を払うという署名がいるのです」


「なるほど、しかしマリークの署名もいるぞ、署名させられるか」


「はい。 彼らは無類の酒好き、酔わせたすきに契約させましょう。 それにマリーク、ギュレルも吹き飛ばしてごらんにいれます」


「それで酒か、船は?」


「火薬で吹き飛んだあと、生き残ったドワーフにでていってもらうには船が必要でしょう。 海に放り出して入れさせなければ帰ってくることもありません」


「......ふむ、なるほどな、よかろう! すぐ用意しよう! しばし待て」


 それから三日あと、屋敷に呼びつけられ権利書を渡された。


「確かにヴェスターブさまの署名ですね。 お預かりします」


「火薬は荷馬車に酒樽と共にのせてある。 船は港に置いておいた。 本当に報酬はその船でいいんだろうな」


「オレにはそれで結構です。 ではさっそくいって参ります」


 オレたちはドワーフたちの洞窟まで戻り、マリークさんの署名をもらうと、火薬を洞窟と山のそこら中に仕掛ける。 そして夜になると、火をつけ馬車で洞窟を離れる。


 すごい轟音とともに洞窟は崩れ、周囲の山もくずれた。


 ドワーフたちに船へと向かわせ、ヴェスターブの屋敷へと向かった。


「おお! やってくれたな! はっはっは! これで山は完全に埋まった! これで全て私のものだ!!」


 ヴェスターブは屋敷の窓から、外の空にのぼる煙をみて、喜びを隠しきれずにいた。


「それでは、ヴェスターブさま。 こちらの代金お支払い、いただけますか」


「代金? なんのことだ船ならば契約したゆえもっていくがいい」


「いいや、私との契約だ」


 マリークが部屋へとはいってくる。


「なっ! なぜお前が生きている! まさか! お前騙したのか!!」


「まあ、そういうことです。 でも契約は絶対ですよね」


 オレは契約書をヒラヒラと見せる。


「くっ! いいだろう払ってやる! だが、あの土地は私のものだ! もうこの土地に貴様ら亜人の居場所などない! 金などいくらでも鉱物を売ればいいのだからな!! 金をもってこい!」


 そういって吐き捨てるようにいい、家臣が大きな袋一杯の金をおいた。


「私の勝ちだ!! ハーハハハハハ!」


 狂ったように笑うヴェスターブを背にし、屋敷をでる。 そして酒場に行くと集まってもらっていた町の人にいった。


「船は港にある。 ここに残るものは残ればいい。 嫌なものはここから船に乗ってでていけばいい」


 そしてヴェスターブから得た袋の金をおくと、ドワーフたちの乗る船へと戻った。


「なるほどこういうことか」 


 船に乗るとギュレルはニヤリと笑う。


「まあ、どうするかは町の人たちが決めればいいよ」


 オレたちが船で出向すると、港に大勢の人が船へと乗り込むのか見えた。


「あれでは鉱山で働くものもいませんね」


 ミリエルはあわれみをこめていうと、クエリアはうなづく。


「住民のいない領主か...... どれ程の権力があれど、民のいない国など意味はないからな。 しょせん国など人あってものだ」


「まあ、もうオレたちには関係ないよ。 ドワーフたちが仲間になったんだ。 目的は果たしたし、さっさと帰ろう」


 オレたちは魔王島へと急いだ。


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