第14話

 暗い洞窟内をミリエルの灯りの魔法で進む。


「ここってなんか変じゃない?」

 

「ええ、私もそう思っておりました」

 

「なにが?」   


 オレとわーちゃんが話していると、ルキナが聞いてくる。


「いや、この洞窟、あまりに綺麗すぎるんだ。 人の手が加わったようにね」


「人の手、まさかこの島に人がいたというのですか?」


 リシェエラがあり得ないという風にこたえた。


「いや、モンスターかもしれないが人工的に感じる。 それでもかなりの年月が経っているが」


「確かに、表面は出っ張りもあまりなく滑らかですね。 自然にできたにしては綺麗すぎるかもしれません」


 ミリエルは壁を見ながらそういう。


「ああ、後で調べよう」


(まずこの地を手に入れないと、オレたちはあてのない流浪の旅にでることになる......)


 オレは覚悟を決め先に進む。


 洞窟奥はかなり巨大で天井もかなり高いようで、穴があるのか風が吹いてきていた。


「何かいます! 物理耐性を重ねがけします!」


「私は予定どおり詠唱を始めます!! 何とか動きを!」


 ミリエルとわーちゃんがすぐに動く。


 その瞬間、遠くに巨大な翼をはためかせる姿がみえる。


「あれは! なんだ空飛ぶライオン!? いや三つの顔!!」


「あいつはキマイラだ...... 聞いたことがある、すごい強いモンスターだ」


「そんな...... 山羊と竜、ライオンの三顔、伝説のモンスターではないですか......」


 ルキナとリシェエラは震えているようだ。


「みんな攻撃に備えろ!」


 キマイラはこちらに飛ぶと竜の顔が炎を吹き付けてきた。 


「水よ!! アクアヴェール!」


 リシェエラが水の壁を作る。 すごい蒸気が場を包む。


「オレとルキナ、スピードが攻める! ゴレサンはみんなを守り、残りは魔法で援護!」


 オレたちは前へと走った蒸気を抜けると、キマイラが空から突進してきた。


「ダークスネスフォール!!」


「ビュ!!」 


 オレの魔法とスピードの毒液を簡単にかわし、キマイラは爪で引っ掻いてくるオレとスピードは壁へ吹き飛ばされた。


「ぐはっ!」


「ギギィ!!」


 見ると、ルキナが一人キマイラに攻撃している。


「くっ! みんな魔法を!」


 みんなは魔法を唱える。 それをいとも簡単にキマイラはかわす。


(くっ! やはりレベル差は歴然......)


「だが!」


 オレとスピードはキマイラに向かう。 キマイラは魔法をかわしている。


「ルキナ! 叩きつけてくれ!」


 ルキナが飛び上がり、上空からキマイラを地面へと落とした。 だがすぐキマイラが立ち上がり、ライオンの顔が突風を吹き付けてくる。


「頼むスピード!」


 スピードが立ち上がりそれを防ぐ。 オレはスピードの下を通りキマイラのまそばまでちかづく。


「ダークネスゲイザー!!」


 闇の間欠泉がキマイラに直撃する。 そして怯んだキマイラにラキナ、魔法攻撃が集中した。


「グオオオオオオン!!」


 キマイラが雄叫びをあげると、オレたちは吹きとばされる。


 砂ぼこりが落ち着くと、キマイラはその場にたちのしのしと歩いてきた。


「だめだ...... 今ので倒せないなんて」


「トラどの! ここは引きましょう!」


 リシェエラの声で、オレたちは引き返そうとするも、そちらにキマイラが飛び、行く手をさえぎる。


(やはりにげられないか......)


「わーちゃん! いけるか!」


「はい!!」


「シャドウスワンプ!!」


 キマイラが影の沼に足をとられる。 抜け出そうとするのをオレは飛び乗り翼を切り、暴れるキマイラと一緒に沼の中に沈む。


 黒い沼の中に入る。 キマイラはそこから出ようと体当たりするも黒い壁に弾かれる。


「無駄だ。 中から魔法を使うか、わーちゃんが魔法を使わなければここからは出られない」


「ナラバ、キサマヲ、キリキザンデ、アケサセル」


 片言でキマイラが話した。


「しゃべれるのか!? なら戦わないで仲間にならないか!」


「アリエン、ワレハ、コノバショヲマモル、ソウ、ケイヤク、サセラレタ」


「契約させられた!? 誰にだ! 何を守っている!」


「ダマレ!!」


 そういうとキマイラは飛びかかってきた。


(仕方ない!! やるしか!)


「ウオオオオオオオ!!」


(暴走状態にする! 何度か練習して、一時的にはなれるようになった! 今はミリエルもいない...... 戻れるかはわからないがやるしかない!!)


 オレの体から黒い魔力が炎のようにほとばしる。 キマイラは動きを止めた。


「ナンダ!? ソノ、マガマガシイ、チカラハ!」


「そ、そんなことはわかってるよ!」


(意識を保てるのは一分もない...... 速く倒さないと」


 オレへ走りキマイラを殴り付ける。 キマイラの巨体が横倒しになる。


「グオオ!!」


 飛び上がろうとするのを叩きつけた。 さらにキマイラを壁に叩きつける。


「ナンダ...... アリエナイ」


「シネ...... やめろ!!」


(くっ! どんどん憎悪と怒りが込み上げてくる...... 早くしないと)


「悪い!」


 オレは続けざまに叩きつけた。 キマイラも抵抗してくるが、その爪さえオレは片腕でしのぐ。


「コノチカラ...... アヤツトオナジ......」


 オレは魔法を連発しキマイラを吹き飛ばす。


「グオオ......」


 虫の息になったキマイラをみて、無意識に笑みがこぼれてくる。


「シネ...... だめだ! シネ、おいキマイラ! 早く契約しろ! シネ! しないとお前が死ぬ...... もうオレも......」


「ケ、イヤ、ク...... スル」


 その言葉をきき、オレは意識を振り絞って自分を押し止める。


「おさまれ! おさまれ!! おさまれえええ!! うわぁぁぁぁ!!!」


 すると黒い炎が体から霧散していった。


(......危なかった...... でも何とか...... 自力で戻せた......)


「......はぁ、じゃあ契約、だ......」


 ぐったりしているキマイラと契約をかわし、オレは意識を失った。


「あ、うん......」


 目が覚めると、そこに心配そうな顔をして皆が覗き込んでいた。


「おお! マスター!!」


 わーちゃんの声と共にみんなが抱きついてくる。


「く、ぐるぢい......」


 押し潰されて意識を失ったあと、また目が覚めた。


「す、すみません。 つい気持ちが高ぶってしまって」


「ごめん...... トラ」


「すまない......」


 ミリエルたちが反省している。


「まあ、いいよ。 取りあえず皆無事で、おっとキマイラは」


「ええ、少し傷が深かったので眠っています」


 ミリエルがそうみたほうにキマイラは伏せて眠っていた。


「ですが! 伝説のモンスターを契約してしまうなど、我がマスターはさすがですな!」


「そうだ! トラはすごい!!」


「ええ、我らマーメイドを代表して誇りに思います」  


「い、いやそれほどではないかな! はっはっは」


「ですが!」


 ミリエルが、大きな声を出したので、みんなびくっとなった。


「......ですが、あんな危険なことはもうやめてください」


 そう涙目になるのをみて、みんな静まる。


「そうですね。 今後は自重していただきたい」


「そうだぞトラ、危険だぞ」


「ええ、マーメイドを代表してお考えくださいと申し上げます」


 みんな手のひらを返した。


「そ、そんな、みんなずるいぞ...... ごめん、確かに危険だった」


「いえ、仕方ないことなのに...... 私たちがもう少し強ければ、すみません」


「ですな。 ミリエルどのがいう通り、我らが強ければマスターにこのような危険をさせる必要もなかったはず......」


 わーちゃんがそういうと、みんながうなづく。


「私はまだまだ弱い」


「そうですね。 トラどのに頼ってばかりでは、頼られるようになられば」


 ラキナとリシェエラはそういって反省しているようだ。


「十分頼っているけどな...... まあ、今はこの魔王島がオレたちのものになったんだ。 喜ぶとしよう!」


 オレがそういうと歓声が上がった。


(キマイラがいっていた契約と、オレと同じ力の話し...... キマイラから聞く必要があるな)


 オレたちは戻りみんなにこのことを伝える。 そしてほかのモンスターたちはいないか、手分けして向かった。


 そして一週間後の夜。 みんながキャンプファイアーで騒いでいるのをみながら、わーちゃんと話す。


「これでこの島のほとんどのモンスターと契約か...... さらに増えたな」


「ええ、四倍近くになりましたね。 ですがこれでこの島のモンスターは全てマスターの指揮下に入りました」


 わーちゃんが満足そうにそういった。


「キマイラは?」


「ええ、こちらにミリエルどのが回復させました」


 少し広まったところに伏せたキマイラとミリエル、ポイルがいた。


「どうミリエル?」


「ええ、かなりひどい怪我でしたが、ポイルさんのポーションとヒールでなんとか」


 そういうと席をはずした。 


「すまない...... やりすぎたな。 あの力はコントロールできないんだ」


「カマワナイ...... ワレモ、ソナタヲ、コロソウトシタ」


「それで、大丈夫か契約してたんだろ」


「ナントモナイナ」


 驚いているようだ。  


「おそらく契約の上書きがなされたんでしょうな」


 わーちゃんがそううなづいている。


「そうか、よかった。 解放されたんだな。 誰にいわれて一体何を守っていたんだ」


「ソレガ...... キオクガ、サダカデハナイ、ナニモノカニ、コノトチヲマモレ、ホカノモノノ、シンニュウヲユルスナ...... ソウ、メイジラレタノダ」


「人? モンスター?」


「ワカラナイ...... タダ、ソナタト、オナジチカラヲ、ツカッテイタ」


「魔力の暴走か...... あれを使えるんだ」


「この地に守れるものが何かあるのですかな?」


「ワレノイタ、ドウクツノオクニ、シンデンノヨウナモノガ、アル...... ソレヲ、マモッテイタンダトオモウガ......」 


 キマイラもよくはわかっていないようだ。


「神殿か...... それっぽいな」


「気になりますが、今はこの地に居住地を作るのが先決」


「そうだな。 ありがとうキマイラ、いや三つの頭、三つ、うんトライだ。 お前の名前はトライ」


「......トライ、リカイシタ」


 オレたちは次の日から居住地を作り始めた。


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