正義のヒーローと悪党の親玉の物語

俺が世界

第1話 正義とかいう自己満足

日本にあるどっかの県のどっかの町。


ある男は公園のベンチに腕をかけ全身を脱力しきっていた。


8月22日午後、まだ夏の暑い日。

鳴り響く工事の音と蝉の鳴き声。

このふたつの音が混ざり、辺りには静寂と呼べるような場所はなかった。


当然公園なので子供やその親が何組も湧いている。

1人の少年が男の方を指さす。


「ママ見て!赤レンジャーだよアカレンジャー!」


少年の無邪気な笑みとは裏腹にその母親らしき人物は顔をしかめ子供に言い聞かせるように何か呟いている。


「ダメでしょ……。マー君。あの人を指さしたりジロジロ見たらいけません!」


少年は反抗するように手足をじたばた動かしながら飛び跳ねる。


「なんでなんで?!赤レンジャーと一緒に遊びたい!僕はね悪の組織をやっつけるんだ。」


男は耐えきれなくなったのか立ち上がり親子の方へと近づく。母親はそれに気づいた頃には既に遅かった。


男は被っていた某戦隊モノによく似た赤色の覆面マスクを勢いよく脱ぎさった。

更に赤色のパツパツとした、戦隊モノによく似ているスーツ(上半身)も脱ぎ去り、追い打ちをかけるように股間に手を突っ込みタバコを取り出した。


その光景を見ていた少年はさっきまでの笑顔が嘘のように枯れ、その目はさっきまでの純粋無垢な輝きは失われているようにも見える。

「え……?赤レンジャー……。」


男は咥えていたタバコを指に挟み少年の方をじっくりと眺める。

「マー君だっけ……?」

男の鈍く低い辺りに響いた。


「はい……。」

少年は既に半泣きだった。


この状況を男は楽しんでいるようにも見えなくはない。

男は最後に一言

「これが現実だ……。」と告げるとどこかへ言ってしまった、



少年は好きだった戦隊モノヒーローの『真実』を知ってしまったこと、大人の男に迫られたことでその場で泣き崩れ母親に抱かれてその場を後にした。


公園を出て直ぐの場所で『全身が緑色』のコスチュームを着ているおそらく男の変質者が先程まで『全身が赤色』だった男に話しかけている。


「赤さん!小さい子供に何やってんすか?!」


「おぅ緑島じゃねぇか。お前はまだ新参者だかはわかんねぇかもしれないけどな……。小さい子供にらああやって教育するんだよ。」


赤さんと呼ばれてる男は持っていたタバコを道路に落とし靴裏で火種を消す。


「赤さん。あれは教育じゃなくて脅育っよ……。子供にはもっと正義のヒーローらしさをアピールしないと……。」


緑島と呼ばれていた者はマスクを被っているので表情がわからないが、何となく軽蔑していることを肌にかんじる。


「緑島ぁ。お前の正義ってなんだ?」


「僕の正義?ですか……。」


男はまた股間に手を突っ込みどこからかタバコを1本取りだし、それを口に咥える。


「正義ってのはなあ。人の数だけ存在するんだ。俺たちは自分の正義を他人に押し付けているんだ……。」


「僕の正義は困っている人を助けることです!」


「若いのに偉いね〜。俺の正義はな。」


緑島は「うんうん」と首を縦に振る。


「俺の邪魔になるやつを蹴散らすことだ。」


「赤さん……。それじゃあ正義じゃなくて悪っすよ。」


赤さんと呼ばれてる男はタバコの煙を口から吐き出し、また吸って吐いてを繰り返し、それが終えてから再び口を開く。


「俺が正義って言ったら正義だ…。マー君も俺の日向ぼっこを邪魔したから知りたくもない真実を知っちまったんだ。」


「日向ぼっこってww、赤さん子供ですか。そんなんでよくヒーローやっていけますよねwww」

緑島は頬を釣り上げたのかマスクを少しゆがめ甲高い声で大笑いする。


「うるせぇな!趣味が日向ぼっこなのがそんなにおかしいか?」

赤さんはその名に恥じない程に激昂した。


「てめぇもマー君みたいになりてぇか?」


「ヒェッそれは勘弁してください。」


「大体なあ。正義なんてもんは自己満なんだよ自己満足……。俺が満足すればそれだけでヒーローなんてやっていけるんだよ。」


「他のヒーロー達もみんなそうなんでしょうか?」


「あぁそうだとも。みんな自分が満足したいからヒーロー続けてるんだよ。自分を犠牲にしてまで他人助けるやつはとっくに慈善活動とかボランティアとかやってるんだよ。」


緑島は少し不安そうな雰囲気で赤さんとやらに尋ねる。

「僕はこの仕事続くでしょうか?」


「困ってる人をいっぱい助ければ続くんじゃねぇの?」赤さんと呼ばれる男は立ち上がると歩き出した。タバコ3本目に入ろうとするが手を止め股間に戻す。


「それじゃあ早速困っている人探してきます!」


赤さんは何かよからぬ作戦でも思いついたのか不敵な笑みを浮かべる。


「待て緑島。困ってる人ならここにいるぜ……。」


緑島は勢いよく振り向くとそこには自分を指さす赤さんの姿が目に映った。


「赤さん。困ってるんですか……。」


「金貸してくれや。200円。」


「そんなするわけ……」

最後まで言い切る前に赤さんが言葉を無理やり遮り中断される。


「困っている人を助けるんだろぉ?」

赤さんは目を細めニタニタと笑顔を顔に張り付かせながら答える。


「分かりました……。200円ですね。」


「毎度あり。」

赤さんは早々と自販機に向かうのであった。

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