047. 酒を求めて大討伐
「初めて見た」
「そんな珍獣みたいな」
驚いた末の第一声である。なんというか、独特の感性というか、のんびりしているのに鋭い切れ味というか。
「まあほら、そういうわけで、乙女じゃないので問題なし!」
「いやあるだろう」
「あるの?」
「顔が整っているのだから、警戒はしておくに越したことがないと思うが」
「あー……」
警戒。警戒ねぇ。
めんど、ごほごほ、気を張りながら生活するのって疲れるんだよね。ああ、言い直してもあんまり変わらなかった。
たまーにそれで痛い目見るけど、最悪なことになったりはしてないし、それにほら、この顔もアバターですし?
ちらりと脳裏に幼馴染や親友の罵詈雑言がかすめていったが、一度まぶたを閉じて心の奥底へ放り投げた。ないない。リアルでのあれやこれやはゲームに必要ない。
「フーも美形だから、警戒必要だよ?」
「む、この造形は美しいのか」
「造形て。整ってると思うし、髪なんかほら、光ってるみたいで綺麗だし」
秘技、話題そらし。それにしてもほんとに光ってるみたいだな。森の中から青空の下にでてきたから、太陽の光が反射してる。でも眩しくなくてどこか安らぐ感じ。んー、ファンタジー。
適当にあしらって、街へ行くというフーと別れた。ほんのちょっと着いていきたい気持ちはあったけど、発生するかわからない特殊クエストよりお酒ですよ。待ってろコルト!!
……
…………
……………………
と思っていた時期もありました。
現在、ログイン時間が噛み合って集合できたメンバー、シェフレラとエドベルとモルトとステッラとエールズとネネにてビーの駆除、もとい討伐を進めています。
フーと別れた直後、意気揚々とビーの大群に突っ込んであえなく返り討ちにあいました。道半ばで倒れるとは何たる不覚!
なお大群の半分までは切り開いたので、比喩だけじゃなくほんとに道半ばだったんだよ。
それも日を改めた現在、元の状態に戻っておりましたが!おのれ。
「だああ! 鬱陶しい!」
「的が小さいから当てるのが……っ! 体力が少ないことが救いねっ」
剣を振り回すモルトに拳を振るうステッラ。近接で範囲攻撃がないと大変そう。
「【ウッドジェイル】! エドっ」
「まかせろ! 【爪蹴】っ」
シェフレラとエドベルは息のあったコンビネーション。地面から生えた木の枝がビーの一部を隔離し、飛び回る範囲を制限したところに、エドベルの攻撃スキル。あれ小範囲なんだな。
「【シールドバッシュ】! これでも減るのが助かる」
「針……裁縫にいいかも……」
エールズは堅実に。直接攻撃手段の乏しいネネを守りつつ立ち回っている。ネネ? あいつならそこでドロップの針を拾ってるよ……まあ広範囲デバフをまいてくれてるおかげで、素早さのないエールズでも攻撃が当たるのだから、仕事はしている。
「【ウォーターボール】! 【ウィンドボール】!」
で、私。このメンバーだと貴重な範囲攻撃持ちなので、MPの続く限りスキルを打ちまくっている。ほんとならリーナが居てくれると一番良かったんだけど! 同じ術士でも攻撃特化なのはリーナの方。まじでいつものメンバーって回復系いないな? 前のときはリトがそっち系も修めてたけど、今回も兼任するのかね。まあ現状、殺られる前に殺れだ。
「全員退避! 【ウィンドカッター】!」
だいぶ薄くなってきた中央に向けて、射線を確保して叩き込む。直線範囲の攻撃が複数グループをまとめて消し飛ばした。薄っすらと道の先が見えてくる。
「あとちょっとー!! でもごめんMP尽きた!!!!」
「回復してどうぞ!!」
「持ってない!」
「わかってるわよ! 見つかって無いわ!」
エールズのらしくない軽口は半分本気だ。それだけきついということでもあるだろうが……ステッラにあとで八つ当たりされないといいね。
他のメンバーの邪魔にならないように、出過ぎてた位置を後方へ調整。MPは尽きたが短剣はある。すばしっこいビーに当てるのは難しいけど、牽制にはなるだろう。ということでモルトの近くでビーの誘導を担当。ステッラにはエールズの補助に回ってもらう。
「そらそらビーのプレゼントだ!」
「嬉しくねえ!! お前覚えとけよ!」
「忘れる!!」
流石に短剣でかすっただけではビーを倒せはしない。が、そこは攻撃を受けて避けた先にモルトの剣先がある。あっさりと命を散らしたビーだけど、その数だけは半端ない。とっくに討伐依頼の最低数は通り越して、あとはどれくらい報酬上積みできるかの耐久と化しつつある。
ちなみに、ギルドでも同じような討伐依頼は出されていた模様。モルトなんかはそっちを受けてるらしい。で、判明したのはユニオンとギルドで同じ討伐依頼は受けれないってこと。二重取りは許されなかった。悲しい。
結局ユニオンでの依頼を受けれたのは、まだギルドで受注してなかったシェフレラだけだったね。そりゃーユニオンの依頼は滞るわ。
「レラ! 壁!」
「うんっ!【 ウッドウォール】!」
「ナイス! 走り抜けろ!」
弾幕、もといビー幕が薄くなり、中央の道が拓ける。シェフレラの術で左右の援軍を遮ったのを合図に、残りのビーをなぎ倒しつつ道の反対側へと。
「っしゃー! 抜けた!!」
「油断しないで! ヘイト切れるまで距離取るわよ!」
「っ、【アンプリフィカーティオ】【スロウミスト】」
群体がうぞうぞと追いかけてくるのをすべて包み込むようにネネのデバフが掛けられる。範囲拡大の術でも重ねているのか、最初に見たときより範囲が広くなっていた。ガクンとスピードを落としたビーを見るに、効果も上がっているようだ。
これ幸いと術が切れる前に皆でダッシュ。ある程度距離を取れば大丈夫、になると思いたい!
「なあ、あれ、戻るとき復活してるのかな」
「んー、たぶん? 私がこの前チャレンジしたとき、結構削ったけど元に戻ってたし」
「巣から殺らないとだめか」
エールズがげっそりしている。特に虫が苦手というわけでは無かったと思うが、群がられることに思うことがあるようで。まあ、実際嫌だよね。ゲームの中とはいえ、いや、ゲームの中だからこそ、ヘイト稼げば稼ぐほどでかい虫が攻撃してくるんだぜ。
「追っては……来ないみたいですね。よかった」
シェフレラの言葉と同時、リザルトログが流れていく。戦闘終了判定も行われたようだし、あとでステータスとスキルチェックしないと。
「そいやシェフレラ、ジョブ何?」
「剣士、です」
「良かったなエールズ。タンク候補増えたぞ」
「いやいやいや。女の子に虫はキツイでしょ……あれ、でも普通にさばいてたな?」
「植物を育てるのが趣味なので……虫はわりと平気です。えと、タンク、って?」
「仲間を守り、敵の攻撃を一手に引き受ける役割、かな。興味ある?」
「守る……」
興味ありそうなシェフレラに逸材発見とにわかに元気づくエールズ。立派に育てよ。まあ、最終的には本人の希望の方向へ行くんだけど、希望と要望が合えばそれが一番幸せだよね。
「タンク談義はあとで……針にしたい」
「コルトに着いてから探しましょうよ。それまで我慢よ、ネネ」
「いい針になりそう……縫えなかった厚手のものが処理できる……」
ステッラに諭されて、ネネも止まりがちだった足を早めた。もう戻るより進んだほうが早そうだしね。コルトまで着いたら、コルト近くにも箱庭の出口が開くようになることを期待。
「着いたらお酒飲むぞー!」
「飲める保証はないがな」
気分が上がってるので、モルトがなんか言ってたが気にしなーい!
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