046. 大量の蜂、酒の在処

 皆さまこんばんは、もしくはこんにちは。

 ロシアンハンバーグ祭りもといスキルレベル上げ立食パーティから日が経過しまして、現在クルトゥテラの森の中層部へ高品質レモンを求めて繰り出しております。


 や、実はクエスト消化も兼ねて、皆を誘ってクエスト中に記載されてたコルト街道に向かったんだけどね。道の真ん中に向こう側が見えないくらいの蜂……ビーの大群がおりまして。数人のログアウト時間も来そうだったので一旦撤退してきたんだよ。


 一人だとちょっと捌けそうにない数だったんだよねえ。クエストの大量発生ってこれだと思う。

 こんなに大量でクエスト推奨レベルが3なのか? って思ったけど、ビーの討伐クエは数を減らせとは書いてあっても解決しろっていうわけではないので、まあいくつかの敵グループ引っ張って討伐するだけで達成できるんだろう。


「お、発見」


 歩いてると生っているレモンを見つけたので収穫。品質はー、Cか。

 入り口付近で取るよりは一段階上。やはり奥になるほど品質が上がるのはセオリーよの。


 中層といっても距離的に判断しているだけで、樹木なんかの密集具合は変わらない。人の手が入っているわけではないから、それなりにもっさり茂ってはいるのだけど、暗すぎることもなく日差しは下生えまで届いている。

 気をつけるのは木の陰に隠れた敵やら、頭上から狙っている敵。

【気配希釈】をかけつつ行動してるから、まだ戦闘にはなっていない。スキルレベル上げにも良いね! 当初の目論見通り、素材集めには有用なスキルである。


 ちなみにリモは箱庭の中だ。一緒に居たら採取の前に食べ尽くされそう。


 そんな事を考え目線を上げれば、小動物なら丸呑みできそうなでっかいヘビを発見。少し先の大木の上、枝がしなって地面へわずかにたれているのにレモン採取の手を止めた。

 ヴァイパー、じゃないな。識別ではスネークって出ている。毒の有無?

 こちらには気づいていないようだし、向かおうとしてる先も少し離れた木々の切れ間だから、移動の最中なのかも。


 ヴァイパーなら肉と耐性料理目当てに狩ってもいいんだけどねえ。なお、動物は倒すと設定によってはそのまんま死骸が残るらしい。溶けるように消えたら魔物だそうで。

 何だっけな。解体とかそういうスキルの補助機能だったような。まあお肉ならステラのところで仕入れられるから、後回しで良いや。蛇酒とか特殊なお酒作りたくなったら考えよう。


 そもそも蛇酒は毒を消すために作られ始めたんだっけ……分量増やしたら毒酒にならんかな?

 思考が酒に傾き始めたとき、目の端がスネーク以外に動くものを捕らえた。嫌な予感ほど当たるもので、反射的に走り出す。


「伏せろ!!」


 視界の中にはスネークに飛びかかられる寸前の人物。住人かプレイヤーかはわからないが、スネークに気づいていないのは確か。魔法発動のラグも惜しく、レモン採取のために持っていた短剣を投擲する。


「!」

「キシャー!」


 よっしヒット!

 当てられないまでも怯めばいいなと思ったからラッキー!

 そのままスネークと人物の間に滑り込む。構えるのは包丁!


 いえ、短剣っていうメインウェポン投げちゃったから、これくらいしか武器がなくてですね。

 まあほら、基本ダメージソースは魔法なので……許せ。

 森の恵みを調理しようと持ってきててよかったよ。


 なんとなく締まらない気持ちになりつつ、地面へと落ちたスネークを観察する。キレイに短剣が刺さった、なんて奇跡は起こってなかったけど、投げた短剣の柄か地面かで頭を殴打したらしく、気絶状態になっていた。

 これ幸いとウィンドカッターで首を切断。……なむなむ。


「……助け、られたのか?」


 状況を認識したのか、背後から低音の声。おお、男性だったか。布で全身が覆われてたし、どっちか解らなかったんだよね。最初気づかなかったのも、布が地面と似たような色合いだったから迷彩効果を発揮してたんだと思う。ヘビは熱源感知だから効かなかったんだねえ。


「間に合ってよかった。大丈夫ですか?」

「ああ、いや、ここは……?」

「……えっと、お名前は」


 呆然とした声色。注視判定では住人表示。名前は知らないと表示されないので、とりあえず問いかける。


「……フー、? っ、」


 答えようとしたときに頭が傷んだのか、片手上げてこめかみへ添えた。その動作で頭にかかっていた布が落ちて、姿があらわになる。

 息を呑む。目に入った髪色が特徴的だ。青色にところどころ金が混じって光っているのをどこかで見たなと思って、ラピスラズリなのだと思い至る。顰められた顔のなか、深い水底を思わせる碧の瞳が目立っていた。


 これ、ぜったい、重要NPCでは!?!?

 この造形、シチュエーション! これで何も特殊クエスト出なかったら嘘でしょ!!


「フー、さん?」

「フー……ああ……たぶん……」

「とりあえずちょっと、ちょっと移動しよう」


 どこかぼんやりしているフーさんを引っ張り、投げた短剣を回収しつつ、開けた場所から森の中、森の中から街道近くへと移動する。流石に引き連れて戦闘になると色々とね。あれなので。

 移動しがてら確認したら、記憶が曖昧になっていることがわかった。そんな気はしてました!


「ここまでくれば大丈夫かなー。まだ痛みます?」

「ん…、はっきりしてきた」

「ポーション持ってないんだよなあ。なんか使える薬草あるかな」

「ああ、いや。痛みは大丈夫。ありがとう」


 かさばらない草系の素材と、一部のレモンはポシェット型のカバンに入れていた。大概、箱庭に突っ込んでるんだけど、レモンはいれる側から食われそうだから手元にも残している。探る手を止めずに、更に会話を続けていく。どうしてあんな場所に〜っていうの、記憶曖昧だとわからないよな。話題選び難しい!


「たぶんここ、レモンの森っていうんですけど、心当たりは?」

「いや……ああ、幻獣の餌か。場所はわからないが、知識はある……」

「餌」


 復唱してしまった。たしかにリモはレモンをよく食べるが、そういうこと?


「ありがとう。ちゃんとお礼をしてなかった。……なにか渡したほうが良いか?」

「いや、勝手に助けたの私だし。お酒があれば欲しいけど」

「酒……ああ、コルトに保管されてたな。あいにく持ち合わせてはいない。すまない」

「あるのぉ!?」

「いや、持ってない」


 軽口を叩いたつもりが確実性のある情報になって返ってきた!!

 思わず肩を掴んで詰め寄ってしまうが、申し訳無さそうに両手が上げられる。いや、べつにいいんですよぉ!! この世界のすぐそこにあるってわかればそれで!!


「案内、したいんだが、記憶が曖昧で……」

「大丈夫! コルトならこの街道真っすぐ進んだ先だから!! めっちゃいい情報ありがと!!」

「そう、か?」

「あ、フーさんも一緒に行く!? 飲み交わす!?」

「飲み……? 私は少し、落ち着ける場所にいこうかと……あとフーでいい。敬称は性に合わない」

「そう? 送ってったほうが良い?」

「いや、大丈夫……少しずつ形になってきたから」


 形、記憶のことかな。なんか特殊クエスト発生する気配ないけど、酒の情報をくれる人ってので私にとって大変貴重なイベント発生ですよ!


「その、顔が近いんだが……あまり、乙女がそういうことをするものでは」

「あ、ごめん私、乙女じゃないんで」


 肩を掴んで詰め寄った状態のままなことに気づいて手を離す。忠告に従って距離も普通の会話まで取りまして。

 ぱちぱちと瞬きが多いのはフーの驚く表現なのかな。


「……中性?」

「おしい未分化」


 瞬きが更に増えた!




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