045. ロシアンハンバーグ
熱した平鍋に小さめハンバーグを乗せる。ジュウ、といういい音を上げ、徐々に肉の色が変わっていくのを見守る。
白っぽい肉も焼けると茶色になるんだなー。真っ青とかになられたら食欲減退するのでよかったよかった。
作業自体はラットバーグと特に変わりない。ただ、脂分が少ないと記載の通り、ラットよりは油が出ていないのでソースにするほどでもないかも。となると味付けは……まあ、ハンバーグ自体に塩は入ってるから、旨味成分に期待しよう。
ひっくり返して様子を見て、ほい、完成。大きめ平皿に並んだヴァイパーバーグが出来上がる。同時にレベルが23へ。一気に2上がるのは予想外だぞ。
一応鑑定して、と。
[ 料理 ] ヴァイパーの小ハンバーグ【レア度:B 品質:D+】
ヴァイパー肉100%の小さめハンバーグ。
<アークにて初めて生成されました。ネクソムと照合……該当項目一件。レシピに追加定義が可能です。世界に定着させますか?>
またなんか来たー! とりあえずOK押してと。
どんな変化がレシピにあるのか見たいけど、まずは出来立てを提供せねば。
ちなみに作業終了のあとの完成判断がどこでされるのかは微妙なところ。ラットバーグも焼き上がり後に自動で平皿に盛られていたが、ソースを掛けるまで完成判定にはなってなかった、と思う。
ログの流れからそう考えたんだけど、今は鑑定前に上がったしな。うーむ。
ソースはプラスアルファ作業として追加経験値が発生するタイプかも知れない。なにも経験値がないわけではないと思いたい。
まあログとして表示されるのはレベルが上った場合のみで、細かい経験値取得状況は見えないのだから確かなことは言えない。検証勢は苦労することでしょう……。料理完成したときのログも出す設定あるのかな? んー、なさそう!
さて、完成したヴァイパーバーグは自分で持っていきますか。
「皆のものちゅうもーく! ロシアンハンバーグのお時間です」
「「「ロシアンハンバーグ??」」」
聞き慣れない単語に疑問の声が複数名から。
パラトスとリトの薬師組とエールズは、ヴァイパーの事前情報があったせいか興味深そうに見やるのみだ。モルトも加わってないけど、毒チャレンジ発言が効いているのかまた何かやってるって表情。元凶のステラに至っては笑い含みでラットバーグを確保していた。
「毒があるのか無いのかわからない、ドキドキ★試食のコーナー。素材提供はステラから。そういうことで、念の為エドベルはラットの方のみでお願いね」
「食えないのか……」
しょんぼりと犬耳と尻尾がうなだれるのに多少の罪悪感。鑑定で毒がわかれば良いんだけど、出なかったんだよ。
「ちゃんと調理前に鑑定したみたいだね。感心感心。そのヴァイパーだと、外れたらお腹を下すか呼吸が苦しくなるかかな。まあ死にはしないから安心おし」
「あらやだ。お墨付きなのねぇ」
「ステラさん全然安心できないです」
食べる前に答え合わせが来た。
楽しそうに微笑むステラは確信犯だろう。誤用と正しい使い方どっちも該当しそうなのが質悪い。このゲームの神関連ってイイ性格のキャラ多いの? ……エステラーゼは違うか。あれは残念属性だ。
「死なないけど苦しくなるのかー。うーん」
「やめといたほうがいいよエド」
「でもレラは食べるんだろー?」
「えっ……と」
「数も少ないし、食べなくてもいいんじゃない?」
シェフレラが食べるなら俺も食べる! と、言わんばかりのエドベルに、ステッラが助け舟を出している。
まあなんだかんだで五個くらいしかないからね。当然自分は食べますとも。主催だけ安全圏は許されない。
「当たって耐性取得できたらラッキーかなあ。俺はチャレンジするよ。モルトも行っときな」
「エールズからのご指名とあっちゃ断りづらい」
「なら私も行こうかしら。耐性は欲しいわ」
「……たべる」
エールズの立候補に続いて、モルト、ステッラの近接組と、珍しく能動的にネネが手を上げた。バフ・デバフのエキスパートとして気になったんだろう。他にぜひともチャレンジしたいっていうメンバーは居ないみたいだから、各々に皿を回して、いざ。
「……同時に行く?」
「ここまできて止まらないでくださいよ!」
箸でつまんだまま息ぴったりに静止した五人。ネネの言葉にN.N.のツッコミが炸裂している。
「変なところでシンクロ率高いね君たち。じゃあ僕が音頭を取ってあげよう。ほら構えて構えて」
「食事に構えてっていうの、おかしな話よねぇ。屍は拾ってあげるわ」
「いくよー、せーの!」
美味しそうな小さめハンバーグ。パラトスの言葉に全員が口へと運び、咀嚼する。
もちろん私も口に入れましたとも。
うん、塩のみだけど旨味がしっかりあるし十分美味しいな。でもどことなくパサついて物足りなさを感じるから、やっぱり合いびきのほうが良かったかなあ。
今のところ気持ち悪さも苦しさも感じない。
他の四人を見渡しても、なにか異常が起こっている気配は感じられず、ただハンバーグを食べただけの状態。
当たり、ない?
「だから言っただろう。死にはしないって。流石に人に渡すものに、そんなもの使わないさ。耐性が欲しいならヴァイパーまるまま持っておいで。それ用に捌いたげるから」
口元に手をあて、笑い声を押し殺しながらのステラのセリフに瞬きを数度繰り返す。
「毒線の処理って失われた技術じゃ?」
「近い部分ならそうだけどね、普通に捌くぶんには切り落とせば問題ない。耐性上げたいなら切り落とした部分を渡すから、そこからは試行錯誤しな」
「だ ま さ れ た !」
「嘘は言ってないからねえ」
たしかに何も嘘はなかったですね! 誤解を招く表現をしていましたけど!
「おれも食べたかったー!!」
「別の料理作るから許して」
エドベルに謝りつつ、それならばとステラが早速扉を使って肉屋から追加のヴァイパー肉を取り寄せ、他の皆もヴァイパーバーグを食べることが出来ましたとさ。
なお、たくさん焼いたのに目標の調理スキル二次進化には届きませんでした。悲しみ。
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