044. 全員集合
「「「カンパーイ!」」」
グラス、はなかったので、金属製なり木製なりのカップを合わせる。カップ自体は各人持ち込みでお願いした。家とか棚とかあるならいざ知らず、全員分のカップを置いたら乱雑になること請け合いだ。まあ、全員分の食器がある時点でそんなこと気にするだけ無駄なのかもしれないけど。
家くれないかな。
思考を突拍子もないところへ飛ばしつつ、肉と野菜を焼く。皆の眼の前には、事前に作ってあったジャーキーやら茹で肉やらマリネやらが置かれている。材料制限されてる中でいい感じの前菜では?
「おいしーい!」
「毎回うまいこと作るよなあ」
「塩釜ないの?」
「卵よこせ」
それぞれに好き勝手話しながら消費されていく。無茶振りしてきたパラトスには無茶ぶりをし返しておいた。卵白が無いと固まらんですよ。それ以外は揃ってるこのまたしても一歩足りない感じ。
参加人数もなんだかんだいつものメンバー六人にプラスして同じくらいの五人、計十一名。開始してみれば思ったより大所帯になっていた。
みんなのお兄さ…お母さん?なエールズ、ネネ・リトの見た目性別逆転兄妹、おネエのリーナ(なお正しくはカジェリーナなんだが言いにくいってことで誰も呼ばない)、ビールクズのモルトに、メンバー第二の良心ステッラ、ここらへんがいつもの仲間。まあなんだかんだ言っても気心のしれた相手だからこそ遠慮がないだけ。皆もきっと他の相手にはまともに対応しているはず――ネネ以外。
それに追加して、シェフレラとエドベルとステラ。周りがアクが濃い分ちょっとした癒やしだ。ステラはややアクが濃い寄りだけれど、楽しそうに球体関節見せてるところを眺めるに、この場に馴染んでいるようで何より。私もその関節気になります。
あとはひょんなことから誼を結んだパラトス、と、迎えに行った時に偶然その場に居合わせた『情報屋の卵』ことN.N.。読み方どうすんの?って聞いたらノーネームでって返ってきたけど、それは情報屋と言うより暗殺者のほうでは? 悪乗りした皆からはジョンだったりジェーンだったり権兵衛だったり呼ばれてたぞ。
私は同じ種属のシールフ・スピリトゥスってことで、醸造スキルが出たら教えて欲しいというお願いをしておいた。
「肉と野菜焼けたぞー」
「こっちに頂戴」
焼けたものは片っ端から消費されていく。眼の前に陣取ったリーナへ渡せばそれぞれの前へ渡っていくから、こっちは料理に集中できて良い。スキル取得して失敗しにくくなったとはいえ、気を抜いたら爆発しそうで怖いんだよね。
いっぱい焼いてるから右端奥へ追いやってるログが結構な速度で流れている。レベルアップの音が鳴ると邪魔だけど、どんな状態か軽く確認したいからログ表示させてたのは正解だな。っと、また一個上がって21か。ここらへんから必要経験値テーブル変わりそうだし、上がり遅くなってくるかな。でもまあ25までは一気に行けそう。
というわけでそろそろ……いきますか! ハンバーグ!
避けておいた器を作業台に二つ並べる。ひき肉は少し小さめのハンバーグに整形済みだ。埃よけのため掛けておいた布を取り去れば、色味の違う二つのハンバーグが顔をのぞかせた。
左の赤みの強いのがラット、右のやや白っぽいのがヴァイパーだ。
「新作か?」
エールズが覗き込んでくるのに肯定を返して、お目付け役は良いのかとネネを探せばステラのスリーサイズを計っていた。……ああ、うん。リトや私やステッラとまたタイプの違う服が似合いそうだもんな。シェフレラに突撃してないだけまだ理性はあるほうか。
「こっちが普通のラット、こっちが……ヴァイパー。ステラからおまけで貰ったやつなんだけど、鑑定結果がちょっとね」
「美味しくないとか? いや、ならホップが出すことはないか。デバフ?」
「かもしれない。毒」
「……いや、流石に売り物……いやおまけか……いやいや」
考え込んでしまったエールズを置き去りに、平鍋を軽く洗って火にかけ直す。最初に焼くのはラットの方。しっかりと空気は抜いてあるので破裂することはないと思うけど、肉焼こうとするだけで爆発する世界だからな。調理失敗演出で、破裂して肉汁が飛び散るくらいはありそう。まあそうなったら煮込みにすれば旨味を有効活用できるんだよなー、というのはリアルの話。プロじゃないのでそこまで意識はしないけどね。気分です。
さて、実際に焼いてみると、爆発することも肉汁が攻撃してくることもなく、美味しそうに焼き上がった。焼いたあとに出た油も、レモンと塩と少々の砂糖を加えレモンソースにして上からかける。……うーん、トマトはまだ未発見だしウスターソース今度作るか……? 塩と砂糖と野菜各種で出来なくもない……いやオランジの熟れきったやつなら砂糖の代わりになる。そっちかな。みじん切りより擦り下ろしたいけど器具あっかなー。
「ほい、あーん」
「流れるように食べさせようとしないで。これラットの方? うん、美味しい」
「それでも食べてくれる、その安定感」
「食べるまで大皿渡してくれないだろうし……持ってくよ」
「あ、ちょいまち。鑑定してなかったさせて」
[ 料理 ] ラットの小ハンバーグレモンソースがけ【レア度:C 品質:D+】
ラット肉100%の小さめハンバーグ。少し残った獣臭もレモンソースでカバー済み。
<アークにて初めて生成されました。ネクソムと照合……該当なし。レシピを世界に定着させますか?>
「おぅ?」
鑑定した瞬間システムメッセージがでた。これはパラトスが言ってたやつか? 出来上がった瞬間じゃなくて鑑定した後に出るんか。まあ秘匿するようなもんでもないしOK押してと。
「まずいことでもあったか?」
「いや、ちゃんとラットって出てくれるからヴァイパーと混ざること無いなって。いいよ、持ってってー。あ、ステラとエドベルには優先して食べさせたげて。ヴァイパーはプレイヤーで食べよ」
「毒にならないことを祈ってるよ」
「罰ゲームでもつける?」
「むしろ報奨じゃない? パラトスとリトに毒消し無いか聞いとく。みんなー、新作できたよー」
配膳をエールズにお任せして平鍋洗って、と。
さあ、次。ドキドキのヴァイパーバーグを焼いてみましょうかね。
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