043. 諸悪 or 立役者

「大体わかった」


 モルトの言葉に灰雪さんをモフっていた手を止める。

 自重? してますしてます。説明後、熟考モードに彼が入ったので邪魔しないためにモフってただけです。


「リモから全て始まったんだな?」

「りゅ!」


 モルトの言葉にどうだ! と言わんばかりにリモの合いの手がはいる。


「そうなんだよねえ。最初から当たり前に居たから忘れてたけど、こいつに一撃死させられたとこから始まったんだよ」

「いやそこじゃない」

「えっ、レモンが好物過ぎて採取レベル上がりまくったとこ!?」

「そこでもない」


 ええー、だったらどこだよぉ……なんてね。モルトの反応で幻獣はかなり珍しく、契約パートナーになった例がまだないというのは把握した。


「ライムもオランジもまだ採取は命がけらしいぞ」

「レモンは?」

「一撃死することはなくなったみたいだな」


 空中でなにやら操作しながらモルトが言う。たぶん掲示板確認してるな。


「じゃあライムとオランジでも幻獣が居るんじゃない?」

「可能性はある……あるが、これなあ……」

「なんか問題でも?」

「死ぬ可能性もあるけどPKからの駆け込み避難所にもなってるんだよ。あともの好きのギャンブル場」

「あー」


 すごいところに楽しみを見出すな? 最高にゲームしてるね。


「そこそこ取引価格も高いわけだ?」

「希少価値ってほどでもないがな。値段が下がるのはまあいいとして、PKのほうが問題」

「ギャンブラーたちは」

「なくなったらなくなったで次の楽しみ見つけるだろ」


 それはそう。遊ぶのがうまい奴らは話してて楽しいし、見てても楽しい。


「放置でいいのでは」

「それは、まあ、それがいいか」

「見つけた人はラッキーって感じで。確率高い場所だけど、そこだけに居るわけでもないでしょ」

「見つけてもどうするって話だしな。よし、切り替えよう」


 やや心配性なのはモルトの悪い癖である。よく私と足して二で割るとちょうどいいって言われる。楽天家だと人生楽しいんだけどねえ。

 区切りがついたようなので、もともとの目的へ参りましょう!


「じゃ、移動する?」

「素材セット箱庭から持ってくるわ。待ってて」

「はいよ」


 モルトによって開かれた箱庭の扉は、歯車が散りばめられ折れ曲がったパイプで形作られてる、スチームパンクっぽいデザインだった。三国それぞれで扉の意匠が違うのかもしれないな。

 それほど待つこともなく出てきた彼の手には、大きな布袋が二つ抱えられ、更に後ろから灰雪さんが一つ咥えてくる。


「大量」

「かさばるものも入ってるから、見た目ほど多くはない」

「ありがたや」

「身体で返してもらうわ」

「薄い、普通、濃いめ、どれがいい?」

「全部。濃いめ多めで」

「強欲だ! ジャーキー足りるかな」

「いつでもいい。十一トイチにしとくな」

「強欲だ!!」


 話しながらこちらの箱庭へご招待。入った直後、システムアナウンスが表示されたのにびっくりしたが、どうやらステラの機器設置が終わったみたいだ。

 影響度は上がらなかったか〜。


「ホップさん! おかえりなさい!」

「ただいま〜。あ、モルト、そこら辺適当に置いて。灰雪さんも。シェフレラ、こっちの暗赤色の髪がモルトで、こちらのもふもふがモルトの契約パートナーで灰雪さん。エドベルは?」

「ステラさんの作業を手伝ってます! もう終わるのでこちらに来ますよ」


 二人を紹介しつつ、素材セットを地面においてもらう。さてさて何が出てきますかね。

 後ろで自己紹介を交わしてるのを聞きつつ、袋の口を開ける。と、出てきたのは芋!じゃがいもだ! 凸凹としてるから男爵いもに近いのかな? それとそれと、じゃがいもが詰められているのは木の樽! わかってるー!!

 ワインでもウィスキーでも樽は重要だからね!! 腕に抱えられる程度の大きさだからそこまで大きくはないんだけど、試行錯誤するには良いくらいのサイズ!

 モルトが抱えていたもう一つも同じセット。中身は……粉? 小麦粉とも違う少し霞んだ色合いの……えっと、鑑定を。


[ 穀物 ] ソーヴァ粉【レア度:D 品質:E】

痩せた土地でも育つソーヴァの種子を粉にしたもの。

◆調理情報◆

インエクスセスでは主食の一つ。少量の水を加えて練ったものを湯がいたり、大量の水で溶いたものを薄く伸ばして焼いたりする。


 小麦粉、ではない。痩せた土地……ソーヴァ……蕎麦粉か!?

 蕎麦!! 出汁と醤油がない!!

 そばがき!! 出汁と醤油がないふたたび!!

 ガレット!! 牛乳と卵ぉ……っ!!


「ホップ……蕎麦ビールというのがあってな……」

「粉じゃなく大元もってこい!!!!」


 作りたいものが浮かぶも足りない材料に落ち込んでいたら、更に酒情報まで追加されて天を仰ぐ。というか蕎麦ビールって何?


「どう探しても粉しか無かったんだよ」

「なあ毒チャレンジする気ある?」

「は!?」


 すっ飛んだ話題にモルトの顔がひきつる。あ、いやいや腹いせに毒殺しようとかそういうわけではなく。


「出汁取れそうなのキノコしかないんだよね。いろんな見た目してるんだけど、鑑定してもキノコって一括りにされてて、種類とか毒の有無わかんないわけ」

「……蕎麦湯飲もう?」

「呑んだ後の締めじゃねーか!!」


 両手で顔を覆う。悲しい。このあと一歩何もかも足りない感じ!!


「ま、まあ、悪かったって。引き続き探すから。な?」

「素材はありがたく受け取るぅ……! 卵と大豆と牛乳優先でぇ」

「蕎麦あるなら大豆有りそうだよなあ。ほら、シェフレラがびっくりしてるから」

「ああ、シェフレラごめんね」

「い、いえ……あの、元気だしてください……?」


 手の隙間から彼女を伺えば、慌てたように両手を小さく振っていた。うん、かわいい。


「小麦粉も粉しかないんだよなあ。蕎麦、ソーヴァ粉も粉ってことは、探索して種探せってことかねえ。採取か、ドロップか」

「種なんてドロップするのか?」

「私はいくつか出たよ。シェフレラは?」

「わ、私も、籠の材料はドロップした種からでした!」

「へえ……」

「逆になんでモルトはドロップしてないの」

「植物系の敵と戦ってなかったからか? 暴走した機械とか、動物だったな」

「ぬおー」


 同意するように灰雪さんが鳴いたので納得することにした。

 早くお酒飲みたい……。




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十一=十日で一割

もちろんただの冗談ですが

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