042. 【閑話】集え、メンバー

「すまない抜けた! 数は二!リト!」

「カバーに入る! 減らすまで耐えて!」


 抜き身の剣に手を滑らす。攻撃力増加のエンチャントを剣自体にかけると、自分自身にもバフがかけられたのを感じた。双子の兄であるネネのスキルだ。

 次いで、こちらへ駆けてくるファングウルフの一体が僅かに速度を落とす。ネネのデバフがのったのだろう。その隙を見逃すはずもない。


「【直刀突き】貫け!」


 デバフがのらずスピードを上げたまま駆けてくるもう一頭、その慣性を攻撃力へと転換させ大ダメージを稼ごうとしたが入りが浅い。目を狙って突き出した剣は、身をかわしたファングウルフの頬を浅く裂くに留まった。攻撃がヒットしたことで硬直が入るも、それはアーツを使ったこちらも同じ。


「まかせて!【グレイブ】!」


 二頭目の攻撃が来る前に、リーナの魔術が炸裂。土から隆起した穂先が、デバフにより俊敏さを奪われたファングウルフを突き刺した。


「毛皮……」

「今はそれどころじゃないでしょ! 恨みがましい目を向けないで頂戴!」

「せめてトドメを」

「私達術士が前に出ちゃだめよー!!」


 背後から聞こえる漫才をBGMに、動きの戻ってきた身体で剣を横に振るう。案の定ファングウルフには避けられたが、距離を稼いで体制を整える間を作れればそれで良い。

 ちらりと視線を流せば、エールズとステッラがルブルム・ウルフとその取り巻きを抑えているのが見えた。……状況はあまり良くない。


 街道から少し外れた草原、そこで出会った赤黒い狼、ルブルム・ウルフは今まで見た動物と違っていた。鑑定してみると魔物と出たので避けていこうと発言する前に、素材狂いの我が兄が、後先考えず特攻をかましてしまう。同じく新しいもの好きのステッラもノリノリで駆けていったが、これはヘイトを向けられたネネを庇っての行動でもある。でもどうせ文句言っても皆なら行けると思ったって言われるんでしょ! ええ、なんとかしますけども!


 実際、最初は特に問題なく捌けていたのだ。雲行きが怪しくなったのは、ルブルム・ウルフの体力が半分を切った時。今までにない行動の遠吠えをしたかと思えば、ファングウルフが二体追加された。それでもエールズがヘイトを集め、他の四人で何とか処理をした、と思ったらさらに四体追加。体力減少で追加されるのか時間経過で追加されるのか、せめて前者であってほしい。


「いい加減に、倒れろ、っての!」


 遠くからステッラの声が聞こえる。上手く取り巻きのファングウルフを躱して、親玉のルブルム・ウルフへ攻撃を仕掛けているんだろう。体力が減ってさらにファングウルフが追加されるとやばいな、とは頭をかすめたが、時間経過のパターンはもっとやばい。取れる手段としてはさっさと親玉を倒すほうが幾ばくかマシだった。


「君もそろそろ観念してよね……っ!」


 剣を構える。リキャストは回っていないので、同じスキルは使えない。手に馴染んだハルバードが使えないのはどうも感覚が違ってやりにくいが、無いものをねだっても仕方ない。今度ホップに習って街散策でもしよう。鍛冶系統を得意とするメンバーはいかせん居ないのだ、自力で見つけるしかなかった。ステッラあたりにも探すようにお願いするのも有りか。


 唸りを上げるファングウルフが飛びかかってくる。ダメージを与えたのが自分だからだろう、ヘイトはこちらへ固定。術士二人へ向かないのはありがたい。

 飛びかかりを待ってやる義理もないので姿勢を低くしてこちらからも駆け出し、爪の下を掻い潜る。顎を狙って振った剣は、空中で行先を変えた爪を弾き返す。純粋な力比べだと負けるんだろうが、不安定な姿勢を誘発さえすれば受け流すことは出来る、か。

 地面へと着地したファングウルフへ、リーナが放ったファイアーボールが着弾する。攻撃の威力でヘイトの向き先が変わるのが、視線の先から伺えた。


「よそ見、してる暇ある?」


 攻撃の間合いまで数歩。【ステップ】で距離を詰め、上段に振りかぶる。

 こちらに気づいて反応しようとしても遅い。本来なら躱せるだろう動きがガクッと落ちる。


「優秀なデバッファーがいるもんで、ねっ!」


 力いっぱい振り下ろした直剣が、ファングウルフの首を裂き、致命傷を与えた。



 ***



「酷い目にあった……」


 エールズのボヤキに頷いて剣を仕舞う。ステッラは地面に座り込み上空を見上げている。MVPは彼女だ。労いの一つでもかけたかったが、移動するのが先に思われた。


「お疲れのところ悪いけど、さっさと街に戻りましょ。あの子ともそこで待ち合わせてるんでしょう?」

「正確には、街の近くのレモンの森付近だけどね。……ありがと」


 リーナが手を差し出し、ステッラが立ち上がる。リーナのもう片方の手にはネネが捕らえられており、これ以上の暴走を許さない構えだ。まあ、適任だろう。ネネも見た目は美少女でも中身は男。筋力換算はそれなりにある、はず? このゲームがどれくらいの反映をしてるのか把握していないが、どちらにしろネネより大柄な男のリーナが捕らえていれば、被害は少ない。見た目はリーナもおネエ様だけども。エールズでもいいけど、猛攻をしのぎきったことでお疲れだから休ませてやりたい。


「けがわ、なかった」


 しょんぼりとしたネネは大人しい。目当ての赤黒い毛皮が手に入らなかったのがショックなのだろう。


「魔物って毛皮手に入るの?」

「まだなんとも……魔物自体との遭遇も少ないし、情報不足よ」


 この中で一番アイテム関連を把握しているステッラに聞いてみるも、確たる答えは持っていないらしい。その言葉にネネが反応するも、リーナによって締められていた。毎回懲りないなこの兄は。


「目当てのものは採取できたんだろう? 街に戻って納品と、あと一人ピックアップするんじゃなかったか?」

「あらそうなの? じゃあなおさら早く戻りましょ。待たせちゃ悪いわ」


 エールズの声にリーナが答え、全員が街へ向けて歩き出す。少々のろのろとした足取りなのは、予想外の戦闘の残滓だ。


「ホップじゃないけど、こういうときは呑みたくなるわねえ」


 リーナのぼやきに、それぞれの同意が木霊した。





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 どうしても戦闘が書きたくなったと供述しており

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