041. もふもふ大増量

 ステラを箱庭に迎えて、再度インエクスセス。

 なんか普通に私が出ても、箱庭の中に住人やプレイヤーは居れるみたい。扉の開閉だけの問題なのかな?

 ステラが直通の扉をつければ特定の住人は自由に出入りできるようになるとのことで、これで肉を買いに行く手間がだいぶ省ける。なんならもう一人、生産補助の契約できれば定期的に収入が見込めるなと考えたり。ま、今はスキルレベル上げにも有用だから自分でやるんだけど。


 で、なんでインエクスセスにもう一度戻ってきたのかって、素材、もといモルトを回収する必要があったからですね。待ち合わせに指定されたのが森の中なんですが、入り口付近のオランジ群生地じゃだめだったの?


「お待たせ」

「おう待ったわ」

「お前そこは『待ってないよ、いま来たとこ』ってのがセオリーだろ?」

「なんで観客もいないのにサービスしなきゃならないんだ」

「俺のホップが冷たくて悲しい」


 こいつまだ名前の件を根に持っていやがる。

 呆れ果てた視線を突き刺していれば、モフッとしたふわふわが頬をなでた。

 ほわっ!? なんだなんだリモは頭の上だぞ!?


「ぬあー」


 なんとも言えない鳴き声。にゃーを野太くしたぬあーっていう、ぬあー??


 突如現れた大型の獣の気配が背後にある。恐る恐る振り返ってみれば、真っ白な体毛と銀色の斑点を有したおっきなねこちゃん。ねこちゃん(猛獣)!!


「おいで」

「え、おま、それ、まっ」

「俺の契約パートナー。灰雪さん」

「なー」

「挨拶できてえらいねえ! ってちがーう!!」


 諸君、私は動物が好きだ。その中でも大型の猫科がいっとう好きだ。眼の前にきちんとおすわりしてゆったりと長い尻尾を揺らしているのはどうみても雪豹!


「なんでえ!?」

「好きかと思って」

「好きだけど!」

「こうしたら俺の側にずっといてくれるかな……」

「お前それカッコ内にレア情報とかアイテムが手に入るからって付いてるだろお!?」

「理解してくれて嬉しいぜ」

「無駄なイケボやめろお!?!?」


 ぜーはーぜーはー。思わず全力で突っ込んでしまった。

 いつもの悪ノリとはいえ、そんな大型ねこちゃんの劇薬入れられたら荒ぶるってもんよ。


「撫でて良い?」

「いいぞ」

「お前には聞いてない。灰雪さんいいですか?」


 手を下に向けて顎の下、首元あたりにそろっと伸ばす。ふんふんと指先の匂いを確認した灰雪さんが、すりっと頬を手になでつける。……許された!!


「んおー……もふもふ……滑らか……」

「人様に見せられない顔になってるぞ」

「だから森の中かあ〜〜ありがとうしあわせ」

「お前顔は良いんだから、気をつけろよ。また道を踏み外す人間量産したいのか?」

「そんなのしらない〜。もふ、もふ……」


 ため息と駄目だこりゃって音声がしてるけどどうでも良い。このもふもふの前には何人も抗うことなどできぬのだ。


「りゅ」

「ぬおーん」


 頭の上のリモがなんか言ったな、と思ったら、灰雪さんが離れていった。地面に伏せたその状態は、抱きつくのにちょうど良さそう。ぼふっ。


「ぬ、ぬおー」

「りゅ……」

「これは俺も解る。困ってるのと呆れてるな。まあすまん、代わりに謝っとくが、こうなったらしばらくはどうにもならん」


 もふもふパラダイスだあ〜〜。


 …………………………。

 …………………。

 …………。はっ!?


「ちょっと我を忘れてた」

「お、戻ってきたか。おかえり」


 気がつけばえーと、どれくらい時間たってたんだ?

 いつのまにかリモとモルトが仲良くなっている。灰雪さんはどうしようって瞳を向けてきていて、あの、はい、すみませんでした。


「十分堪能……いやもっと……っく、なんて決戦兵器なんだ」

「はいはい、いつでもモフらせてやるから。な、灰雪」

「…ぬお」

「一瞬間があった気がしました。自重することを覚えます」


 でも爪出して猫パンチしてこないから優しい子!! まあこのぶっとい足でやられたら普通に死にそうですけど!


「素材詰め合わせセットは後で渡すとして……ほらこれ」

「お金?」


 ヌンスのトレードウィンドウが開いてそれなりの桁が提示される。ストレージやインベントリみたいな、何でも出し入れできるものがないのにお金だけそれっぽく扱えるのも不思議。ちなみに、財布みたいな巾着型の布袋があって、そこに全てのヌンスが詰まっている。らしい。四次元ポケット風だけど、ヌンスしか出し入れできないんだな。落としたらどうするんだと思うけど、そこは一定時間で手元に戻ってくる。置き忘れ防止にいいですね! 住人相手にはちゃんと硬貨として渡すことも出来る。


「情報料の上納金」

「お主も悪よのぉ」

「いえいえ御代官さまほどでは……つきましては次の情報を頂いてもよろしいでしょうか」

「どれにする?」

「あんのかよ!!」


 いやー、調理スキル自力取得や知識管理施設、箱庭への直通扉などよりどりみどり取り揃えております!!

 胸を張ったら頭を抱えられた。解せぬ。


「こんな短期間によくもまあ。さすが俺のホップ。略してさすおれ」

「それじゃお前の手柄じゃん」

「対外的にはそうだろうが。交渉や広める役、丸投げするつもりだろうに」

「愛してるぜ」

「なんて打算に満ちた愛なんだ……」


 顔を手で覆って俯いているが、気にせず詳細を伝えていく。途中に挟まる質問や疑問に答えつつ、有用だろうと思うものをあらかた伝えきった。


「情報屋の卵が喜びながら倒れそうだ。ヌンス毟り取ろう」

「かわいそう……」

「元凶が何かほざいてる。パートナー契約での三国移動解放でかなり儲けてたから、支払うヌンスはあるだろ。どれから広めたい?」

「全部じゃないの?」


 いい笑顔で両頬を伸ばされた。痛い。


「お、ま、え、は」

「はにゃひて。いてて……だって施設許可証のクエストきっかけが多分スキル自力取得でしょ? でそのクエストクリアで特殊契約パートナーって、三つとも開示しないとできなくない?」

「それはそうだが早すぎる。まだ三国移動情報も落ち着いてないのに」

「そこはほらー、なんとか!」

「思考放棄するな! はぁ……まあなんとかする」

「有能」


 褒めたのに再度両頬を伸ばされた。悲しい。灰雪さんとリモに慰めてもらお。


「そういやお前の契約パートナーだろ? その丸いの。見たこと無い種だけど何?」

「リモ? リュって幻獣だよー」


 もふもふしながら掲げるとリモがちょっとだけ胸を張った。身じろぎしたのが多分そう。見た目は変わらないからモルトには伝わらないな。

 ってあれ? モルトがなんか固まって?


「回線落ち?」


 ツッコミもなく座り込んだけど、どしたん。

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