040. 迷子にならないただ一つの方法
シェフレラとエドベルを連れてインエクスセスへと移動してきました。
ストゥーデフに比べて鉄などの金属が多い町並みが物珍しいのか、エドベルの尾っぽが忙しなく揺れている。
「わあ……! こっちは全然違うんですね」
「それぞれに特色あって楽しいよね」
インエクスセスが際立って他と差異が目立つが、ストゥーデフとクルトゥテラも違うところはある。一見、両国とも緑が多く温暖な気候なんだけど、植生や湿度が随分違う。クルトゥテラはカラッとした地中海を思わせるそれ、ストゥーデフは湿度も温度も高めの熱帯を思わせるそれだ。
売っている品物や食材なんかも偏りがあって、インエクスセスは生鮮食品が多め。気温と湿度が低いから、食品が腐りにくいのかもしれない。冷蔵庫っぽいものも、もしかしたらあるのかも。機械系に強そうだ。
そんなこんなで、浮足立ってる二人を後方から眺めながら、進む方向を示していく。
……何度も往復したら道くらい覚えるんだよ!
今回は間違うことなく、目当ての場所にたどり着いた。お姉さんの肉屋だ。
「追加の肉を買いに来たのかい?」
「そうだねー。二塊ほど貰える? それから、これ」
「ほう!」
スキルレベルの上がり方から、更に追加で作業しようと肉を調達。手を上げたエドベルに買った商品を持ってもらう。キラキラした顔で尾っぽが盛大に振られている。ジャーキー、美味しかったもんな。
そして大本命。クエストの納品物をお姉さんへ手渡す。
「いやはや。もしかしたら、とは思ったけど、こんなに早く新しい保存食が出来てくれるとは」
「薄味と、普通と、濃いめ。好み分からなかったから全部持ってきた。品質は同じだから」
「十分だ。ありがとう」
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Clear!【新しい保存食の依頼】
頼まれていた保存食を届けた。速さと品質にステラもとても喜んでいるようだ。
◆ 報酬 ◆
ギャラメン・ステラの好感度上昇
◆ 特別報酬 ◆
ステラとのパートナー契約解禁
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……ステラ?
「よければ私と契約を結んでくれないかい? 今後も保存食……ジャーキーというのか。これを定期的に発注したい。結んでもらえたら、君の箱庭までうちの注文品を運べるよ。もちろん材料となる肉もね」
名前に悩んでいるうちに新たな提案がされていた。
反射的に頷いて片手を差し出す。握手を交わしながら頭はギャラメンとステラでいっぱいである。
「良かったですね! ホップさん、と、えーっと……?」
「ああ、私はステラだ、お嬢さん。よろしく」
「私はシェフレラです! よろしくお願いします!」
「おれはエドベル! よろしくな!」
ナイスアシストぉ!!
一つ解決した。お姉さんの名前はステラ。ギャラメンより印象に合っている。
「主人……えーと、ギャラメンさん? の、了承は得なくて大丈夫?」
「ああ、問題ない。ここの経営はほぼ私がやっているからね。文句を言われてもこいつを渡せばいっぱつさ」
ひらひらとジャーキーを揺らしながらの心強い言葉。食いしん坊かな? もしくは新しい主力商品としての売上を期待しているのか。まあ、紹介状の名前はギャラメンさんだったし、好感度も上がってるっぽいし、拒否はされないんだろうけど。にしても会ったこと無いのに不思議な気持ち。
「ご結婚されてるんですか?」
「ん? ああ、違う違う。あいつとは腐れ縁ってやつかな。この肉屋の主人がギャラメンなんだよ。客商売が苦手でね、めったに表に顔を出さないから、ここの責任者が私と勘違いされてることが多くて」
シェフレラに否定しつつ、ちらりと後ろを見遣っての言葉に奥から鈍い音。どうやらこちらの会話を聞いては居るらしい。まあ実際私も勘違いしてたし。
にしてもそうか。夫婦で経営しているというわけではないんだな。
「箱庭にはどうやって? 入り口、私じゃないと開けないと思うんだけど」
「そこは企業秘密……というわけでもないかな。ツテがあって、眷属の力を少しばかり貸してもらえるのさ。ここから君の箱庭まで、直通の扉が付けられる。まあ、一度招待してもらって内部に機器の設置は必要だがね」
「あ、じゃあ丁度いいや。立食パーティするけど参加しない?」
「リッショク、なんだい、それ?」
いつもクールなお姉さんーーステラがキョトンとした顔をしている。立食パーティが通じない、と。これ立食かパーティかそれとも両方かどれが通じてないんだろうなあ。
「スキルレベル上げに沢山料理作ったからさ。みんなに食べてもらうんだ。一人増えたところで問題ないし、どう? シェフレラとエドベルもくるよ」
「それはご相伴に預かりたいが。それと箱庭とどう関係が?」
「料理箱庭に置いてあるから」
「なるほど。好都合というわけか。ふむ……」
ステラは一瞬悩んだ素振りを見せるが、すぐに頷き奥へ向けて声をかける。
「聞いてのとおりだ。設置がてらお呼ばれしてくるよ。今日はいつもの購入客はあらかた捌いたから、ほとんど一見さんだ。問題ないだろ?」
ガコッ ドゴッ カンカンカン……
なにやら盛大に落とした音が響いてくるが、そんな状態をBGMにステラがカウンターから出てくる。え、このまますぐ向かう感じ?
「あの、大丈夫でしょうか……」
「平気へいき。少しは主人らしいところを見せとかないと、私が乗っ取っちまうよ」
「おれも解んなかったもん! じゃあいこうぜー!」
元気よくエドベルが拳を突き上げて、私の方を向いてくる。
「良かったな! ホップ! これで迷子になんねーぞ!」
「え?」
まって、今日は迷子になってないはず……!!
「おや迷子だったのかい? うちは少し奥まってるからねえ。前と違う方から来たの、迷子になってたんだね」
「え?」
「わ、わたしは街を案内してくれてるって解ってるので……!」
「え?」
……迷子に、なってたんですね……。
シェフレラのフォローが心に痛い……。
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