038. 保護と過保護の境界線

 モクモクと煙が出てきたところで、見慣れてきた時計っぽいアイコンが表示される。三十分の表記。それなりに掛かるけどリアルよりは全然短い。


 さあ次々やってこう。

 沸かした湯に塩と砂糖を揉み込んだ肉を投入。

 茹で上がりを待つ間に、新しい植物、ペレラの育成具合をチェック。おおー、わっさりと緑の葉が重なっている。

 一枚摘み取って匂いを嗅いでみれば、覚えのある青く爽やかな香り。……大葉だ!!!!

 これは良いものが出来たな〜! 料理にもドレッシングにも薬味にも使えるぞ。


 早速ある程度収穫……は、使う直前でいいか。すぐ来れるし。


 鼻歌を流しながら茹で肉の調子を見に戻ったところでフレンドチャットを確認。通知オフにしてるからね。

 お誘いの返答は全員OKと。場所はここ、私の箱庭ってことで、エールズから集合場所を聞かれている。そうか、ここってば私が迎えに行かないと勝手に入ってこれないな。他ゲームのハウスとは違うもんな。

 誘ったメンバーは三国それぞれバラバラに分かれてるっぽく、一気には来れそうにない。これは仕方ないね。


 迎えに行く順番を考えていると、更に追加で連絡が来た。ステッラか。


『hi! 今ストゥーデフのライム森に居るから迎えに来て』

『早いな!』

『ふふ、サプライズもあるし、ここなら来やすいでしょ』

『三国移動場所、モルトに聞いたのか?』

『おかげさまで。私も移動できるようになったから、食器渡したらみんなを集めてくるわ』

『食器……?』

『一度に作ると大皿で出るわよ。取り分けのこと考えてなかったでしょ』

『まじで?』


 少ししたら行く、と告げて一旦茹で肉の火を落とす。あとは放置で中まで加熱されるでしょう。あんまり火を入れすぎてもぱさぱさになるからな!


 ちなみにステッラとゲーム内で会うのは初めてなんだが、フレンド登録自体はリアル側でIDを交換してたんだよね。ここらへんの細やかな気遣いは、エールズ以外だと彼女が強い。まあリーナも出来るんだけど……あいつは好みが激しいからなあ。うちに入り浸ってるので、リーナともフレンド登録済み。


 リモを呼んで頭に載せたところで出入り口を開く。

 や、こいつ置いとくと肉食われそうで……調理中判定だから大丈夫だとは思うんだけどね。大人しく言う事聞いてくれたから助かる。

 ストゥーデフに行くのも久しぶりだな。シェフレラとエドベル元気にしてるといいなあ。招待にOKは返ってきてるから、このまま呼んでみるのも有りかも。


「ホップさん!」


 ステッラを迎えに行ったらシェフレラとエドベルがいました。幻覚かな?


「やっほー、ホップ! びっくりした?」

「したわ。何、二人共知り合いだったの?」

「修理道具売ってもらったんだぜー!」


 いたずらが成功した顔でステッラがピースサインを寄越している。見た目お姉さんって風情なのに、素振りは無垢な少女って感じだ。今回はロングなんですね、黒髪。でもシェフレラと並ぶと確実に大人しさはシェフレラに軍配が上がるんだよな。


 さっさと箱庭に三人を回収すれば、リモがエドベルへと突撃していった。前回遊んでもらったことを覚えていたらしい。羨ましそうにしているシェフレラに、遊んできていいよと指させば、ためらいながらも走っていった。うむ。素直でよろしい。


「サプライズって何かと思えば」

「貴方みたいにそうそう新発見なんてないわよ。ほら、お皿。こっち置いとくわね」

「サンキュー。お、箸まであるじゃん。作ったの?」


 シェフレラお手製っぽいかごの中に、取皿用の平皿とカトラリー、それと箸が数本入っている。

 このゲームは西洋ベースなのか、三国で流し見た食器類やカトラリーに、和食器系は存在していなかった。フォークとスプーン文化だね。ナイフも見当たらなかったから、カトラリーではなくて普通のナイフで切り分ける方式だと思う。

 まあ、渡り人としては、丸焼き系統のナイフが必要な料理って、まだレシピにないんだけど。

 ……肉屋で解体してるんだから、生き物そのままがドロップするって思って良いのかな? でかい肉塊が存在してそれを切り分けてるだけってオチもあるかもしれない。小麦じゃなくて小麦粉がそのまま存在する世界だし……。

 これも、魔力保護の関係なのかねー。まだ不鮮明。


「私じゃなくてレラちゃんがね。かごもあの子のお手製よ」

「へー、シェフレラか。かごは見たことあったけど、箸も作れるんだなあ。木工かな?」

「そうじゃない? 本人に聞いてみれば」

「後で聞いてみる。で、ステッラさん。どうして先に保護させたのかな? 過保護じゃない?」

「貴方が言うの?」


 しばし視線がぶつかり合う。―ーが、すぐにこちらが白旗を上げた。

 最初の怯えたたどたどしい感じがなくて、楽しそうにしてる姿は陰らすには忍びない。


「どうしてかしらね。少し一緒にいただけで、何か絡まれることが多いというか……あまり周りにいないタイプだから、慎重になってるのよ。若気の至りで済ますには、対応してくれる保護者が離れすぎてるし」

「リアルまで口突っ込むのは止めとけよ」

「もちろん。さ、私はみんなを集めてくるわ。料理、期待してるわね!」

「あ、モルトは先にピックアップすることになってるから放置でいいぞ」

「相変わらずねあなた達も」

「どういう意味かな?」


 ストゥーデフへの出入り口を開きつつ、ジト目を向けるが肩をすくめてかわされた。納得行かなーい!


「bye. 後で連絡する。レラー! 他の人達迎えに行ってくるから、ちょっと離れるわねー!」

「あっ、はい! いってらっしゃい!」


 二人が手を振っている姿を眺め、短期間で何あったんだろうなあと思いを馳せるも、回答は得られなかった。ま、当初の同性のフレンド作った方がいい件は達成されてるようだから、あとはステッラに任せていいかな。





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全然料理が完成しなくて首を傾げている

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