037. ひらめいた

 さーて、この後の動きどうするか……。二時間後にって言っちゃったからなあ。

 まあ、出来上がってなくてもうちの箱庭内を探検して時間つぶしてもらうことは出来るし、そこは問題ない。

 問題は量産を見越して先に大量に漬けておくか、出来上がりチェック後に漬け込むか。

 少し悩んだが、結局、後二瓶、漬け込みを開始することにした。ええ、青と黄と赤でどう違いが出るか試すためですね。


 料理完成後に経験値チェックが入るんだろう。作業はたくさんしているがまだレベルアップの気配はない。

 じんわりと進んでいく針のスピードはゆるく、待っている間にもう何品か作れそうな気がした。


「まあジャーキーだけってのもあれだし」


 それに、同じものを作るより、違うものを作っていったほうが多少なりとも経験値に上乗せがありそうな気がする。初回特典というやつだ。

 というわけでレシピチェック! この世界特有の料理もあるかもしれんし!


 素材は肉と野菜とパン、あとレモン。砂糖や塩は問題なくある。胡椒がないのがあれだが、それを言うならハーブ系はなんもないのでここは追々。……と思ったけど気づいちゃったんだな。そういや敵からドロップした種、鑑定してませんでしたね。

 無くさないように、野菜を購入した袋を流用して保管していたそれらを引っ張り出してくる。あんまり小さいと保管も大変そうなんだけど、幸い、いくつかあるそれらは小指の爪ほどの大きさだ。植物の種って、物によってはゴマ粒より小さいのあるよねえ。流石にドロップでそういうのでたら見落とすと思う。もしかしたら見落としているのかもしれない……とは考えたけど、ドロップ品は一定時間ほのかに発光しているので、事故は少ないだろう。


「レモンスターの種、レモンスターの種、こっちもレモンスターの種……お、ペレラの種! すぐ育つかな、植えてみよう」


 るんるんと、前に植えた植物の近くにペレラを植える。ウォーターシャワー! いやそんなアーツはないですけど、ウォーターボールくんはとても汎用性のある素晴らしい魔法だよ。

 表示された成長時間は5分。何段階あるのかはわからないけど、一品ぐらい作った後にまた見てみますかね。料理に使える系だと嬉しいなあ。


 さて戻ってきまして、この材料たちで作れそうなレシピを吟味する。まあなーんも考えずに作るなら、ハンバーグは作れそうだけどね。基本レシピにはないみたいだけど、レシピ定着の方は……おや、ないのか? 料理人少ない疑惑。パンの種類は結構登録されてるのに。もしかしてパン職人でも居る? 牛乳とか卵の入手方法教えてもらえんだろうか。


「はちみつ……蜂蜜あればミードが作れるのでは!!」


 ひらいめいてしまった。待って確かビーの討伐クエスト受けてたよね? 巣をまるごと討伐できたら蜂蜜手に入ったりしないかな!?

 いや落ち着こう。今は調理スキルを上げることを一番に考えよう。こう、横道に派生しだして本来のやること忘れるのはよくあるゲーマー仕草だ。あぶないあぶない。約束もあるし。


 改めてレシピから作れそうなものを引っ張ってくる。

 肉焼きと野菜焼きは作ろう。肉焼きは一回作ってるけど、結局自分で食べれてないし。あとリモもまた食べるかもしれない。

 これらは下処理だけして、焼くのはみんな揃ってからでいいだろう。かぼちゃみたいな火が通りにくい食材はないから待たせることもない。

 それと、茹で肉。これはもう作ってもいいかな。冷めても美味しいサラダ風にしてやろう。あとは、レシピにはないけどさっき考えたハンバーグかな。ナツメグもツナギもない百パーセント肉でいきましょう。

 だいたいコレくらいで買ってきた肉は消費できそう。


 さて、では調理タイムだ!


 ジャーキーを作る過程で中途半端に余った半分の塊肉に、砂糖と塩を揉み込んでしばらく放置。その間に残り二つの塊肉を適当な大きさへ削ぎ切っていく。近寄ってきたリモに生の切れ端を見せてみたが、興味なさそうに転がっていった。うーん、生は食べないのか。幻獣は奥が深い。


 肉の処理が終わったところで、ジャーキーの漬け込み具合をチェック。お、全部青の位置に入ってるな。じゃあ一瓶分は中身を取り出して……塩抜き、する必要あるかな。浅漬けだろコレ。

 ちょっと悩んだものの、端っこを切り取って味見することにした。リモに火をつけてもらって、火を入れて実食。


「んあー、これこのままでもいけるう」


 ほのかに森の香りがする美味しい焼肉だ。塩分は強めだから大量に食べる場合は喉に来そうだけど。

 ぴょんこぴょんこ飛び跳ねるリモにも切れ端を焼いてやって、しばし思案。……うん、1/3はそのまま、あとは塩抜きしよ。一回位でいいだろ。

 空の瓶にウォーターボールで水を貯めて、塩抜き用に再度イン。塩抜きしないものは軽く水気を切ってからウィンドで乾燥させる。あってよかったウィンド! で、そこそこ乾燥した状態で、最後。本来なら燻す工程があるんですけども。


 燻製道具はね、流石に手に入らなかった。多分、存在してないのでは、とも思う。

 レシピがあるのだから、調理の最終工程はすっ飛ばされるのかもと思ったけど、乾いた状態でも調理中判定っぽく、レベルも上がらなければ鑑定にもジャーキーとは表示されない。


 まあこれは想定内だ。であれば対応も考えてある。

 インエクスセスで手に入れた薄い金属板、それらを組み合わせて即席の四角い箱を作る。初心者さんが作ったのか、表面は平らでもなく凸凹している。だがまあ、今回の用途では問題ない。安く買える分ありがたいまで。

 あ、もちろん溶接とか出来ないから、土にぶっ刺して倒れないように石と土で固定してるくらいだけどね。ようは煙を充満させればいいわけだから。


 で、ここに平らな岩を入れて、乾燥させた肉をその上において、地面の開いてるところに、できるだけ細かくした松っぽい木の破片を。チップなんて言うのはおこがましいほど荒いんだけど、ここにソミュール液にも入れた葉っぱをわさっとのせて。ここまでしたら煙、充満すると思うんだ。

 リモにお願いした場合、火力コントロールが心配だったので、燃える焚き火から火を拝借。破片に火が移り、モクモクしてきたところで前面も金属板で塞いで……放置!


 さあ、待つ間他の作業も進めよう。

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