036. 新たな保存食作り(ツマミ)

 はい、【調理(知識)】を取得しました。

 なんの事はない、通された部屋で本棚に所狭しと収められた本を手に取り開いたら取得ログが流れていった。【調理(基礎)】を手に入れた時との落差よ。でも手塩にかけたぶん、こいつのこと、大切に扱ってやれなくもない。醸造が出てきたらその座を明け渡すことになろうとも! それまではお前がナンバーワン!! おつまみも作れる!! から!!


 他にも気になる図書やこの中央交易区自体の探検なんかもしてみたいんですが、【調理(知識)】を習得したことでレシピが追加されましてね! その中にあったんですよ! ジャーキーが……!!


 確かに保存食の条件は満たしている。だがそれよりなにより、ジャーキーといえばおつまみの定番!! 先にツマミを口にすることで酒への枯渇が増えようとも……おれは……これを作らねばならない……なぜならツマミだから!!


 というわけで、さっさと箱庭に引き上げるためにエステラーゼへお暇を告げ、なんかすごく混んでいる中央交易区の噴水広場をスルーして、インエクスセスの肉屋へと戻ってまいりました。珍しいアイテムでも取引してたのかな? あの混雑っぷりは。


「ただいま!!」

「はい、おかえり。その顔は上手く行った感じかね」

「バッチリ。ラットの肉、塊で四つくださいな!!」

「はいよ。いま三つしか残ってないから、一つ捌いてくるわね」


 ひらりと手を上げて奥へ消えていくギャラメン……やっぱりこれ違和感あるな。お姉さんを見送っていると意識を引っ張る音が聞こえた。と同時、フレンドチャットのウィンドウが開く。視線を走らせればモルトからで、内容は丸投げした件の対応が終わったという報告だった。律儀だな。


『りょ。サンキュー』

『まだインエクスセスに居るのか?』

『肉買ってる』

『ツマミか』

『その嗅覚なんなの。レシピ手に入ったからね、ジャーキー』

『出来たら呼べ』

『言われずとも。スキレベ上げ兼ねてるから、立食パーティでもしようかと思って』

『なんか食材見繕っていくわ』

『助かるう!』


「おまたせ。四つで3200ヌンスね。後これも持っておいき」


 お姉さんが戻ってきたので、チャットを放置して注文の品を受取る。おまけで貰ったものは同じような肉塊だった。鑑定してみるとヴァイパーの肉と表示される。蛇肉。


「沢山買ってくれたからね。余り物だけど、めったに手に入らないやつだから有効活用してやってくれ」

「ありがとう! 保存食が出来たら持ってくる!」

「期待してるよ」


 そういやクエスト報酬って何なんだろな? スキル取得だけで報酬としては破格なんだけど、別途クリア報酬が存在してるっぽい気配。

 気になりつつも街を出て箱庭へ引き上げる。モルトとは二時間後に会う約束をしておいた。あとはフレンド達へ招待チャットを投げておいて、一旦チャットの通知をオフ。

 さーて作りますよ! ジャーキーを!


 レシピが判明している、とはいっても、必要材料が解るだけで調理方法は載っていない。だがそこはリアルでの料理経験が生きる時。経験したこと無いものが作りたくなったら、まあ、調べたりなんだり頑張るだけである。

 酒作ったことあるのかって? 梅酒とか果実酒ならあるよ。友人に大半飲まれて終わるけど。ワインも体験で作ったことがあるけど、あのときは……むせ返るアルコール臭だけで酔っちゃって……悲しみ。ビールもいいけどワインも作りたいよね。方法はわかってるし!


 ジャーキーの必要材料は、塩と砂糖と水と肉と野菜。調味料はいざしらず、肉と野菜とは大雑把な分類だけですな。何使っても良いんだろうな。味醂とか醤油とか料理酒なんてものもまだ存在していないので、素材で勝負!!!!って味になりそう。でもまあ、使う野菜で多少はね。旨味を追加してやれると思うので。


 とりあえず手始めにソミュール液を一瓶ぶん作成してみよう。量産は漬け込み時間の判定を見てからでも遅くないかな。

 レベル上げとはいえ、できるだけ品質は高くしたい。料理で品質なんて、そりゃもう味に直結するでしょうよ。


 水を吟味するところから始めると大変なので(渓流とか滝もあるからねここ)水分は水やりでお馴染みのウォーターボールさんに担ってもらう。攻撃魔法だけど、弾けたあとも消えるわけじゃなくて地面ぬかるんでたし、水やりも問題なかったし、じゃあ料理に使っても行けるだろ!


「ウォーターボール!」


 少し大きめに育てて、幅広の瓶口からイン。瓶が壊れないように解けるイメージで解放する。瓶の六割くらい溜まったね、よしよし。そこに塩と砂糖を……どれくらいだ? 秤なんてないので、大体の勘でやるしかない。うーん、今度計量に使えそうなカップ探してみるか。

 塩は多め、砂糖はそれより少なめに。目分量だけど、味が薄いよりはしっかり目を目指す。しょっぱすぎたら塩抜き時に調整すればいいか。


 軽くかき混ぜて溶けるのを確認したら、そこに複数の野菜を。キャロットとレッドアーリーをざっくり細かめに切って入れてやる。人参と玉葱ね。リアルだとアーリーレッドはサラダで美味しい癖のない味だけど、このレッドアーリーはしっかり玉ねぎって感じである。切った中身まで赤いから楽しい。キャロットは葉っぱまでイン。ハーブ系がねえ、見つからなかったんですよ。インエクスセスでなんとなく松の木っぽいやつから葉っぱが採取できたので、それも追加してやる。松……ジン、かな。あれは松ヤニの香りっぽいけど杜松ネズの実だっけ。


 出来たソミュール液に、薄切りにしたラットの肉を。塊のー、半分くらいは入るな。漬け込んで蓋を締めたら、種を植えたときと同じようにタイマーが表示された。ただ、分数は見当たらず、時計っぽいアイコンが、針の指す場所によって青、黄、赤で色分けされている。

 うーん? 漬け込みの深度……かな?


 時間がどれくらいかかるかぱっと見判断できないのが困るね。

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