035. 知識はエネルギー

「えっ、ちょっとホントに? オスなわけ?」

「オスって……いやまあ、性別は未分化ってなってるけど」

「うっわまじ? わー、どおりで」

「そこで納得されるのも解せぬ」


 待合室とか待機室っぽい小部屋で、まじまじと顔を観察される事案が発生。赤茶はいいんですかね? というか住人も普通に淹れるんだな。どんな感じにレシピ情報が拡散するんだ?


「ああ、ごめんごめん。気を悪くしないで。私達の特殊能力でさ、雌雄の匂いってのがわかるの。君からはオスの匂いがしなかったから、メスなんだと思ったけど……うん、メスにしてもちょっと違う匂いだな、とは感じたんだよね? でもまあ個人差もあるし」

「匂い」


 フェロモンとかそういう……?

 あまりにも変な顔をしていたのか、エステラーゼは補足するように説明を追加してくれた。


「カウサに連なるアトリブータの眷属は、獣の特徴が強く出るっすよ。私はこれでもアトリブータの眷属なわけ。カットゥス・ビースティアっぽい見た目だけど、違う種。ほら尻尾、よく見ると二股でしょ?」


 怒涛の情報量に待って待ってとなった頭が、見せられた尻尾で全て飛んだ。ふさふさの太い尻尾だと思っていたそれは、彼女がほぐしたことで細めのふさふさな二本の尻尾になる。


 ……ね、猫又だーーーー!!もふもふ増量!! ちょっとどころかかなりテンションが上ってしまった。


「ほらね? 特に今は、世界が魔力保護でがっちがちだから、与える知識の量と深度にも調整がいるってことで、相手の属性はきちんと把握を……あ、これ今から説明する内容に片足突っ込んでるわ。ちょ、ちょっとまってて、赤茶用意させてー!」


 慌てたように奥へと行ってしまわれた。爆弾発言をこれでもかと残して。


 こう、たしかにゲーム始めた直後、神話体系に興味があると申しましたが。調べるとか本を読むより先に現物が向こうから来た感。掲示板でもふもふ神って言われてたやつだよね? アトリブータ。

 チュートリアル神ってことならスイと同等、んで、カウサに連なる、かあ。スイはフィニスに連なる、でしたっけ。ここらへんの構造、聞いたら詳しく教えてくれるのかな。


 遠い目になりながらしばらく待っていると、丁寧にお盆に載せられて赤茶が運ばれてきた。赤茶だけでなく果物も添えられてるのは、これ食べていいんですかね。良いんだろうな。


「お待たせ! 長丁場になるから遠慮なくどぞー! や、ほんとこんな短期間で定着レシピが出来るとはありがたいっすねえ」


 言って自らが一口。酸っぱかったのかキュッと顔をすぼめている。濃く出しすぎてるなこれ。砂糖いらないって言ったけどあったほうが良いかもれない。

 エステラーゼも置いたカップにドバドバと砂糖を入れている。……入れ過ぎでは?

 とりあえず砂糖無しで一口。うーん、結構酸味が強いけどこれくらいならまだ大丈夫かな? 添えられている果物を一緒に食べるとちょうどいい。こっちは甘みがかなり強い……たぶん、オランジの熟れたやつ、かな?


「うまー。さて、こちらの施設ですが、ざっくばらんに言うとスキル取得のための図書館、って感じ。普通に知識も得られるけど、ま、こんな世界っしょ? 昔の知識がアテになることは少ないわけ。おにーさん、紹介状もらったってことは自力で基礎スキル取得したとお見受けする」


 自力、SP消費なしに、ってことか。


「めっちゃ苦労したけど」

「素直にすごいと思うっすわー。スキルは補助機構でもあるんで、無いとあるとじゃ全然違う。取得したのは調理です?」

「そそ。肉焼いて爆発するとは思わなかった」

「ウケる。そんな反動になるんだ」


 ケラケラと笑いながら赤茶を飲んで咽るエステラーゼ。ふっ、因果応報だな。こんな性格でよく擬態しようと思ったなー。普段の仕事疲れるんだろうな。

 ちょっとだけ優しい気持ちになりながらそっと背中を擦ってやる。


「すみません……けほっ、で、ですね。こっからが本題なんすけど。さっきちらっと言った、魔力保護ってやつ。これが曲者でして。大神が居なくなるときにね、保護をかけたんすよ。それが魔力保護。効能は不変性の付与。ようは大黒柱がなくなっても世界が壊れないように、っていうやさしーい話です。ホントに優しいなら居なくなるなって話っすけど……あ、これオフレコね」


 ポロッと漏れる言葉って本音のことが多いよね。うんうん。


「いやそんな生ぬるい目で見られても……別に文句じゃないんで。うちら下っ端には到底把握できない、すごいやばいことがあったってのは解ります。ただ保護するだけなら、こんなに壊れてるはず無いっすから。まあ、それで、この魔力保護ってやつ、さすが大神の御業って感じに、キーがないと干渉すらできなくなってて。もろに食らったのが生産系っすかね。スキルがないとそのものが作れなくなっちゃったんっすから」

「なるほど!?」


 ここに来てスキルの有用というか必須な理由来ましたわー! そういうもの、として置いとかず理由があるのイイね!


「あれ、でも私、めっちゃ苦労したけど肉焼くことは出来たな?」


 苦労したけど! 大事なことなので(略)

 その直後にスキル取得はしたが、取得後に調理していないので効能のほどはまだ実体験していない。


「そこは渡り人特有っすかね。魔力保護の後から追加された存在ですし、ちょっとだけゆるいところもあるみたいで。渡り人の皆さんが死ぬほどのダメージ受けてもリスポーンするのなんか、魔力保護の恩恵だったりするんで、全部枠の外って訳では無いみたいです。そこら辺は私詳しくないんでなんとも」

「ありがとう魔力保護」

「リスポーン自体も世界エネルギー消費するんで、無茶な行動はメッすよ」


 人差し指を一本立て、真顔でメッなんて言われて、こんな時どんな顔をしたらいいか解らないの。

 ……擬態モードでこれやられたらコアなファンを獲得しそうではある。頑張って生きてほしい。


「いま、世界は非常に不安定な状態っす。魔力保護があるとはいっても、うちらはそれを維持するのが精一杯で、壊れた部分の修復まで手が回ってないのが現状っす。でも無作為にスキルを付与するのも、エネルギー効率的によろしくないってところで。こうやって紹介状をもらったときだけスキル解放してるわけっすね」

「普通にSP消費してスキル自由に取れるけど」

「そこはSPっていうエネルギーを対価に頂いてますから。あくまでうちらが管理しているのは対価となるエネルギー無しでの取得に関してです。ホップさんが肉が焼けた後にスキル取得があったのも、世界に対して有用だと判断されたからっすね。人材は逃しません」

「そ、そうなんだ」

「というわけで、長々と説明にお付き合いいただきありがとうございました! 調理スキルの部屋へこちらの扉から入れるように繋いでおきましたので、どうぞお入りください!」




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ちなみにカットゥスが猫系でカッニスが犬系

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