034. にゃーーーー!!
ぐるぐる施設を回っても、管理官の姿は影も形も見えなかった。
これは探しに行く必要があるのか、とも考えたが、当てもなく彷徨うよりは待ちの姿勢でいたほうがいいだろうと思い直す。
迷うのが怖かったからじゃないですよ?
吹き抜ける風は程よい温度、降り注ぐ日差しは少し暑い。
待つならば、と、外周を回ったときに見つけた大ぶりの木の下で腰を落ち着けることにした。
こういう時にもお酒。お酒があればなんぼでも待てるんですけどね。
仕方がないのでレベルの上がったスキルの確認や、今解放されてるレシピなんかを丁寧に見ていく。
こういうクエストが起きているから、塩漬け肉以外の保存食はないんだろうな、と思ったら実際になかった。あとは焼肉と焼き魚と焼き野菜……焼くしか無いんかい。煮込みとかスープ……あ、スープはあるんですね。塩スープとかいうあれですが。
今見ていたのは初期に解放されるレシピ。これとは別に、新規で登録されたレシピもちらほら。それらは判りやすいように、初期レシピとは背景色が違っている。
料理って結構リアル知識でやれそうだけど、そこら辺どうなんだろ。レシピに登録されると品質が安定するとかそっちかな? 今ある材料で作れるものリストとしての活用は有用そう。
味噌とか醤油のためには大豆と麹が必要だしなあ。まだ見つかってないだろう食材を見つけたり、代用食材を探したり、食材ハンターも楽しそうですね。
スキルの方はまだ二次進化まで行けていないものの、順当に使ったものが上がっている。
気がついたら使えるアーツが増えてるので、ちょこちょこ見ては居るんだけど……あ、設定で通知できるんだ。これオンにしとこ。
街歩きや採取メインで戦闘はあまりしていないので、ベースレベル、いわゆる普通のレベルってやつは一から上がっていない。
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【名前】ホップ *
【種属】シールフ・スピリトゥス
【所属】クルトゥテラ
Lv.1
HP:259
MP:387
STR 8
VIT 8
INT 10
MND 8
AGI 12
DEX 14
LUC 10
【職業】隠形士 Lv.3
【スキル(24SP)】
◆ 戦闘
短剣 Lv.2 / 水魔法 Lv.1 / 風魔法 Lv.2 / 気配希釈 Lv.4
◆ 生産
調理(基礎) Lv.1
◆ 採集
採取(基礎) Lv.18
◆ 運営
剪定作業 Lv.1 / 栽培(基礎) Lv.1
◆ 知識
鑑定 Lv.3 / 採取(知識) Lv.3 / 栽培(知識) Lv.1
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SPが結構あまっていますが二次進化でどれくらい食われるか……たぶんSP消費するよね?
このクエストで調理レシピを増やして、先に調理を二次進化まで持っていきたいなあ。料理の種類を増やすのもそうだけど、果実系を発酵させて酒が造れるかどうかも試したいし。調理は取得したから、流石に果実が爆発するとかはないと思うんだ。
いやしかしレベル上げの産物となる料理どうするかね。ゲームの世界とはいえ食物を捨てるのは嫌。投げ売りしてもいいけど売れるまで動けないものあれだし。メンバー呼んで試食会でもする? 試食ってほど少なくないから立食か? インベントリも保存庫もない問題よ。
「にゃーーーー!!」
「ひえっっ!!」
すごい声とすごい音が直ぐ側で起こってちょっとだけ身体が浮いた。びくってするのの最上位だよ!!
原因の方向を確認すれば、猫耳猫しっぽな人物が地面に倒れ伏していた。木の葉っぱがハラハラと舞って居るところを見るに、たぶん、木から落ちた模様。
「うう…にゃんでこんな……」
いやこっちが聞きたいがな!
未だばっくばくする胸を抑えながら様子をうかがう。おまえこれ下手したら閾値超えて強制ログアウト食らったかもしれんぞ。
じっと観察したのが注視判定になったのだろう、表示された判別は住人のものだった。プレイヤーじゃなくてよかったというべきか良くなかったというべきか。このまま何もなかったように通り過ぎるのはいくらなんでもあれなので、というか多分、勘ですが、この人が管理官の可能性よ。
「ふみぃ……こんなところ誰かに見られなくてよかった、」
「すみません見ました」
「にゃーーーー!?」
ぴーんと尾っぽが立ってひとっ飛びで立ち上がる。樹の下に座っている私と目があったその人は、ジャケットのホコリを払い、スカートの裾を直し、キリッとした表情で礼をしてくる。
「ようこそ知識管理施設へ。ご案内を務めさせていただきます、エステラーゼ・ファリッツォと申します。まずは許可証を拝見させていただいてもよろしいでしょうか」
肩で切りそろえられた髪と相まって、完璧な出来る才女の雰囲気を醸し出してくるが、出会い頭の全てでなにもかも台無しである。本人もそれが解っているのか、尻尾が小刻みに揺れている。
「あー、許可証。許可証ね。怪我してない? 大丈夫?」
「拝見いたします。出来ればお見苦しい姿は忘れていただけますと恐悦至極に存じます」
「素で話していいよ。もうバレてるし」
「なんでそんなこと言うんですかぁ……」
「いやあ堅苦しのはさ、なんかこう堅苦しいし」
「示しがつかないじゃないですかぁ……まあいいです。はい、ありがとうございました。確認オッケーです」
案外順応が早い民なのか、敬語を崩して話してくれるのに笑顔を向ける。そうそうそれでいいんだよ。
渋面を作っていたエステラーゼも、もはや取り繕うことは不可能と諦めたのか、ピシッと立っていた姿勢をだるんとしたものに変えて、かっちりした首元も緩める始末。
「ギャラメンさんからのご紹介ですねー。ということは調理レシピでおっけ? 飲みながらでいいっすか」
「ギャラメン?」
「肉屋の主人っすよ」
ああ、あのお姉さんそんな名前なのか。イメージと違った。ジョセフィーヌとかエリスとかかと。
「そうそう、お肉屋さんの」
「りょー。じゃ、着いてきてください」
建物の方へ向かうのにどうやって入るのかと見ていれば、エステラーゼが腕を動かすとフォンっという音とともに扉が出現する。これあれ。箱庭の入り口と近いやつ。
どうぞと手で指し示されるので、扉の向こう側へと。出た先は待合室っぽい小部屋で、箱庭のように外ではなかった。
「えーっと、まずは説明がいるんすよね。ちょっと長いので、椅子座ってください。最近赤茶っていうのが出来たんで、それ持ってきますね。お姉さんは砂糖いります?」
「なくていいよ。あとお姉さんではなくお兄さんです」
「……マ?」
目がおっきく見開かれますが、これほんとなんだな。まあ未分化がここでどういう呼び方されるのかは知らんけど!
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