031. 料理とは気合である

「おー、咲いてる」


 なんだかんだ、移動手段でしか入ってなかった箱庭に戻ってしばらく。

 乱雑においてあるだけだった素材の整理と仕訳を終えて、そういえば種を植えていたことを思い出した。

 軽く確認したところ、他2つはまだ成長途中っぽかったが、レモンスターの種は可愛い花を咲かせている。黄色い花弁が星型になっていて名前のままだな。その見た目に既視感があって首をひねったが、シェフレラの箱庭に咲いていた花と似ているんだと気づいた。あっちは青だったけど、同じ系統なのかも。

 とすると、摘んだらかごの素材が手にはいるんだろう。しかし、今は調理スキルを手に入れる試行錯誤をですね。


「焼き物系が鉄板かなー」


 調理に使えそうな素材を目の前に並べつつ考える。

 種類がわからないキノコ、オランジやライムなどの果実、砂糖と塩に、肉。

 調理器具のたぐいは包丁とまな板と平べったい鍋を街散策で入手した。フライパンは見当たらなかったから、この平べったい鍋ひとつで調理しているんだろう。

 なんとなく、最低限は用意したけどそれ以上は頑張ってね!って言われている気がしなくもない。


「鍛冶も出来るようになるんだろうなー。必要あれば取ってみるか」


 酒造に必要であるなら取るのもやぶさかではない……まあまずは調理だ。


 テーブルはないので、ちょっと背が高めの岩がある場へ向かいまして。そこへ向けて【ウィンドカッター】でスパンっと。はい、きれいな平面が出来ました。

【風魔法】レベル二のアーツは【ウィンドカッター】でした。なんか【水魔法】より相性いいらしくて、【水魔法】が未だレベル一なのに後から取った風のほうが早く上がったんだよな。森散策では風を主体にしてたせいもあるだろけど。


 即席のテーブルもどきへまな板を置きましてー、そこに……肉かな。肉焼くくらいなら失敗もするまい。

 これもまた、街で買ったラットの肉をどんと。大体一キロくらいだろうか。ラットなのに。

 戦ったときもそこそこデカかったから、これくらいは取れるのか。そこ、ゲーム的処理だから気にしないとか考えない。結構、物理現象に忠実なんだこのゲーム。魔法があるから完全にリアルと同じではないけど。


 冷蔵庫……ほしいですね……。なんか川か湖に沈めとけば腐らないだろうか。氷室? 氷がないわ。

 インベントリがないと起こる問題よ! 下手に肉がドロップしなくてよかったかもしれん。


 で、これを包丁でちょっと切って。お試しだから端でいいかな。

 ぐぬう、この包丁、切りにくい。やはりランク……いや品質か……? 研ぎ石とかある? でもあんまり研ぎすぎても脆くなるって言うし。

 まあいいや。もっと本格的にやるときに考えよう。お酒に美味しいおつまみは必須だよね。


 さて、焼こう。枯れ木に火を……火……。


「火がない」


 どうしてそこを忘れていた??

 頭を抱えたくなったが手には包丁と生肉。これ放置して調達してくるのはなんかヤダ!!

 えー、えー? サバイバル的に石と石で火花とか木を組み合わせて火起こし!?


「りゅ」

「ちょっとリモ、今は黙ってて」


 リズミカルに跳ねて側に寄ってきたリモに構っている暇はない。沢山寝たから遊びたくなったのか?


「りゅー、りゅっ」

「だから今は火を、」

「りゅふっ」


 ボッ


 と、目の前で火がついた。ちょっと毛玉が縦長になってる、のは、こっちを振り仰いでいるためだろうか。


「でかしたリモ!!」


 なんか解らんけど火がついたならそれでオッケー!!

 流れに乗ってフランパン代わりの鍋を温め、これで調理が試せると肉を置いた瞬間、ジュウといういい音をさせて爆発した。


 …………。リモ、そんな目で見ないで。



 ***



「で、出来た……!」


 何十回めかの挑戦で無事に焼き上がった肉を天高く掲げる。ここに至るまでの苦労を反芻していると、ピコンっというSE音とともに【調理(基礎)】習得のログが流れていった。あ、知識は習得できないんですね……。

 なんかもー、切り方を工夫したり厚さを工夫したり鍋と火の距離を調整してみたりそのまんま火に投げ込んでみたり、ありとあらゆる思いつく調理工程をやってみたんだよ……。

 肉を焼くだけなのに!どうして!!


 途中でスキル取得してやろうかと思ったんだけど、もう意地になってた。絶対に自力で調理が出来るようになるという強い意志。

 実際に取得できたので無駄ではなかった。


 ステータスを開いて確認する。よし、ちゃんとあるな。

 調理(基礎)の文字列が軽く発光しているので、タッチしろってことかと従う。すると、現在作成出来るであろうレシピの一覧が表示された。お、赤茶ある。材料は『赤薬草』と『炎熱の実』と『水』ね。すごい炎つきそうな名前の実だな。これ使って火をつけるのが正解だったんじゃね?


「りゅっっっ」


 こっちの思考を読んだのか、不服そうにリモが鳴いた。そういえば、君が火をつけてくれたんでしたっけね。そんな能力やスキル見た記憶が、あ、あー!!!!


 料理ができたことで気を抜いていたのだろう。丹精込めて作った肉焼きが、目の前でリモによって消えていった。


「お前肉食べるんかーい!! こういうの制作者に一番に食べる権利があるの!! この!」

「りゅーーーー!」

「逃げるなー!! 返せ肉ー!!」


 むんずと掴もうにも手からすり抜けて飛び跳ねる。鬼ごっこよろしく追いかけ回して、崖際に追い詰めたところでリモがこちらへ向かってきた。お、やるのか!! と、臨戦態勢になるのもつかの間、大ジャンプしたリモは頭の定位置へと収まる。


 ……うん、そこまで真剣に怒ってるわけではないんだ。途中からただリモと遊んでる気もしていた。猫って、唐突に遊び始めて唐突にスンってなるよね。うん。


「まあ、レモン以外も食べるものがあってよかった……よかった?」


 良かったんだろうかー?

 自分の手間が増えるような予感がしつつ、頭を切り替え、調理を取得する過程で使い切った肉を補充する算段を立て始めるのだった。

 味、美味しかった? 感想が欲しいなと、頭の上のリモをモフりながら。

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