030. 盗ったわけではない

 いぇーい!第三者くん見てるぅ?

 これからぁ、僕はぁ、僕の親友くんにいわれのない言いがかりをうけまぁ〜す!!


 どうして。


 無事にインエクスセスの街へ辿り着き、散策のついでにモルトを探そうとしていたところ、すでに彼は街の入り口でスタンバーイしていた。多分エールズだな。連絡を入れたんだと思う。

 予想通り、前回のアバターとは違う。暗赤色の髪とオレンジの瞳で、これは三つ前のゲームでのアバターだったかな?


 なーんて、そこまではまだ普通だった。彼が私の名前を確認するまでは。

 私を見つけ、私を呼ぼうとしたんだろう。手を振り口を開こうとした時点ですごくいい笑顔になった。端的に言ってこわい。

 楽しげな笑顔じゃないんだぜ? わかる? 圧のある笑顔。

 こういうときは決まって理不尽に責められるんだ。俺はよく知ってる。


「お前か! 俺の名前を盗ったの!!」

「なんで!?」


 ほらね!!



 ***



 ひとしきりヘッドロックをかまされ、頭をもみくちゃにされて、解放されたときには軽い交通渋滞が起きていた。人通りの多い入り口付近で目立つことするから!!


「俺がホップになろうとしてたのによ」


 理由は、聞いてみればなんてことはない。ご飯の代替えにビールを所望するような、生粋のビール好きがビールにちなんだ名を付けようとして付けられなかった。それだけだ。

 ここに来るまで知らなかったが、このゲームは同名を許さないシステムだったらしい。


「モルトになれたからいいじゃん」

「モルトなんて代替えコーヒーにもウィスキーにもなるだろが。ああー、俺のホップ……」

「色々語弊が生まれそうだからやめれ」


 危うい発言に突っ込みつつ、肩に回されていた手をはたき落とす。元々、じゃれ合いの延長のようなやり取りだったせいか、特に苦もなく腕が離れていった。


「いいからほら、フレンド登録」


 話を打ち切るようにこちらから申請を投げる。

 ちらりと見えた自身のフレンド欄は、アクティブが五人とそれなりの数。うーん、ゲームしてますね。そのうち二人がこのゲーム内で初めて会った、というのは、なかなかいいペース。

 別に人見知りとかではないんだけど、気ままにやりすぎてフレンドゼロとかたまにあったからね。


「はいはい」


 承諾されて、五人が六人になった。よし、目的達成。


「じゃ」

「こらまて」


 意気揚々と街散策へ行こうとしたら止められた。なんで。

 エールズみたいにアイアンクローではないけど、挨拶のために挙げた手をがっちり掴まれている。後ろ向いてたらきっと猫のように首を掴まれたに違いない。

 掴んでいない反対側の手でなにか操作していると思ったらパーティ申請が来た。周りに聞かれたくない話かな、と、承諾。


『お前どこ開始? ここじゃないだろ』

『クルトゥテラだけど……なんで?』

『やっぱりな。お前ならそこだと思った。で、どうやってインエクスセスまで来てんの』

『普通に箱庭からの移動で』


 めっちゃため息つかれた。細く長く息が吐き出されていきながら頭まで下がっている。ちょっとまて。このアバターは身長が低いんだ。頭突きするつもりか。


『ほんとお前、ブレない……』

『いやー、照れる』

『褒めてねーよ。で、どうやって移動すんの』


 幸い頭突きはされずに肩に懐かれるだけですんだ。大型犬かな?

 おー、よしゃしゃしゃしゃしゃしゃ。

 わしわしと頭を撫でる。さっきのお返しじゃ。存分に髪が乱れるが良い。

 ちょっと距離が近いが、これがこいつのいつもの距離なんでもう慣れたものよ。


 まあ、実際は口の動きから情報が漏れないように隠してくれてるんだろうけど。後ろ向けばいいのにね。


『まずは箱庭のランクを上げます』

『ランク……影響度か? 上げる方法は』

『パートナー契約。NPCか従魔系だと思われ。そしたら箱庭から出るときに選択ができる』

『OKわかった。掲示板にはまだ出してないな?』

『もちろんよ』


 ここでのもちろんは副音声でめんどいから、ってつくのだが、付き合いが長いと省略しても伝わるので楽でいいネ!


『出したほうが攻略が進むな。これ、出しても?』

『むしろ出して酒の存在教えて』


 呆れたような顔で小突かれた。なんでい、お前はリアルで飲めるから俺の気持ちが解らないんだ!


『こっちで上手くやっとくわ。情報サンキューな』

『どういたしまして』


 話が一段落したところでパーティが解散された。たぶん自分で検証しに行くんでしょうね。

 ……そういえば情報屋の卵さんに売ることもできるんだったか。面倒なのでモルトに丸投げしようそうしよう。ってことで情報屋の話だけ伝えてインエクスセスの素材やアイテム調査だ!


 諸々伝えたら頭をぐりぐりされた。リアルでされたらコリほぐしになって痛いやつぅ!!!!


「一段落したらそっち行く。またな」

「おう。モルトも酒の情報あったらよろしくな!」

「お前が作る方が早い気がするけどね……」


 門をくぐる間際に落とされた言葉に、そうであるならどれだけいいかと心がときめく。

 さてさて、はやくお酒ちゃんに会うためにも、それっぽいレシピや元の素材を発見せねば!!


 そうして意気揚々と街中を見て回ったのだ、が。

 残念ながら手がかりは得られませんでした。

 まあ、クルトゥテラでは見かけない素材とか手に入ったけど。これ、料理系スキルないから発見できないとかないよね? それともスカウトらしく看破とか偵察とか手に入れたら見つかるんですかー!?

 ええい、こうなったら採取した素材で料理してやる!!


 SP消費無しで料理スキルを取得するべく、すごすごと箱庭に戻ったのでした。

 リモをモフって癒やされよ。

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