029. あたらしいぼうぐ

 エールズ(と思われる人物)に補助されながら背中を確認する。へばりついていたのは、紺色の塊。


「やっとみつけた」

「最初にいう事それかい」


 条件反射で突っ込んでしまった。

 だってそうでしょ? 出会って挨拶前に攻撃とか、洒落になってませんって。本人にそのつもりがなさそうなのが質の悪さに拍車をかける。


 よいしょとエールズ(推定)にネネを引き剥がしてもらいつつ向き直る。ここ入り口前なんだけど、このままだと迷惑になってしまう。どこかずれる場所……あ。あった。

 お誂え向きに『被服ギルド』の左方、壁横らへんが広場になっている。


「いつも通り着てやるから、ほらこっちこっち」


 色々と弄ってきそうなネネにステイをかけているエールズ(きっとそう)を先導して広場っぽいところへと。地面にいくつか柱が立てられそうな窪みがあるのは、簡易的な着替え場所を想定しているからかもしれない。今はなにもない見通しの良い広場。

 まあ、プレイヤー的には瞬時に着替えられる仕組みがあるので、特に支障はない。

 なおこだわり的に普通に脱ぎ着もできる模様。っても特殊な装備、鎧とか民族衣装的なものって普段リアルで着ないので、大体が瞬時に着替えられる方にいっちゃうけどね。


「これ」


 なんの説明もなく差し出された布一式。防具だろうそれを受け取る前に同じく飛んできた二人からのフレンドを承諾。うん、エールズ(確定)とネネだね。

 積もる話をするまえにサクッと受け取ってサクッとお着替え。

 白基調のノースリーブシャツに同じく白のショートパンツ、なのだろうけど、キュロットっぽくなっている。多分この身長のせいかな。揃いのタイツに肩が見えるタイプの襟が空いてるジャケット。両方皮っぽい質感で色は灰色。まだ染色とかできないんだろうけど、灰色の皮とか取れるんだ?


 ちなみに鑑定結果はこうだった。


[ 装備・防具 ] ロックベアのジャケット【レア度:B 品質:B 耐久:150】


[ 装備・衣服 ] 生成りの変形シャツ【レア度:C+ 品質:C 耐久:-】


[ 装備・衣服 ] 生成りの変形短ズボン【レア度:C+ 品質:C 耐久:-】


[ 装備・防具 ] ラットのタイツ【レア度:B 品質:C 耐久:40】


 なんかこの段階で出来ちゃいけないレベルのものが見えた気がするけど、まあいつものこといつものこと。


 ぱぱーん!

 なんて脳内効果音をつけつつ、ネネに向かってポーズを取る。


「いつもより身長低い。これだとこの裾の切込みをもう一センチ……色合いは変わらないけどバランス調整が……」


 くるくる周囲を回り始めるネネ。好きにさせつつ、やれやれといった面持ちのエールズと向き合う。


「おつかれ」

「そっちも」

「ロックベアって? クローベアは見かけたけど」

「あー……」


 遠い目をするエールズ。そうか。また素材欲しさにネネが無茶な特攻かましたのか。


「今回のエールズさんは」

「安定の盾役です。ホップは?」

「暗殺系ビルド? ちょっと色々あって方向性迷子。今魔法二種ある」

「SP大盤振る舞いか。ヒーラー欲しい」

「リト今回ヒーラーじゃないのかあ。他は?」

「リトは剣士。ステッラは闘士、リーナが術士、ネネも術士で、モルトが剣士、だったかな? あ、僕は戦士」

「圧倒的ヒーラーと盾不足。ああ、私は隠形士」

「サブタンクよろしく!」

「努力はするが確約はできない!! モルトって初見だけど、これあれ?」


 剣士のほうがサブタンク適性高いと思うんだけど、外されてるってことは親友殿かな? あれは守るより攻めたい気質だからねえ。


「そそ、君の親友。今回はモルトだって。まだ会ってないよな? 一回顔みせろっていってたぞ」

「今どこ?」

「インエクスセス。中央交易区なりなんなり、まあ、会いに行ってやってくれ」

「うーい」


 リトにも言われたことだし、次は親友殿……モルトに会いに行くかな。連絡つくかなあ。

 そしてネネはまだ周りをうろついている。そんなに回ってたらバターになるぞ。

 濃紺の髪と金の瞳って昔仲良かった黒猫を思い出すなあ。ネネもあまりアバター造形変えないタイプだけど、これはたしか二つ前のゲームで使ってたやつだっけ。

 エールズも長めの銀髪ひとつ結びとダークレッドの瞳って、結構変えてきたな。いままであったっけこれ。優男なのは相変わらず。ネネも見た目はただの美少女だから、美男美女でいい目の保養ですね。どっちも男だけど。

 ……なんとなーく、いつものメンバー全員前回と違うアバターなんだろうな、と気付いてしまって、ちょっと申し訳なく。あいつがもし同じゲームを始めたとして、見た目で探せないようにしてくれてるんだろうな。わたしはまんま同じアバターなんであれですけど! いかん、色合いくらいは変えるべきだったか。


「ネネ、そろそろストップ」

「うえっ」


 終わりそうにない徘徊を、エールズが頭を掴むことで止める。ちょっと涙目で掴まれた手を剥がそうとしてるから、結構力が入っていると思われ。痛そう。


「また素材詰め合わせ持ってくるから、その時な。エールズも、モルトのことサンキュ。会いに行ってくるわ」

「黒の綿か染色情報を所望」

「フレチャで中央交易区に行くよう伝えようか?」

「いや、大丈夫。インエクスセスに直で飛ぶ。別の所の街も気になってたし」

「! 新素材! つれていででででで……っ!」

「はーい、ネネはちょっとお話しよう?」

「エールズ…っ離し…っ、っ!」


 いつものこうけいだなあ(棒読み)

 生暖かい目でエールズとエールズに引きずられていくネネを見送り、近い門から街の外へと。

 街中で箱庭への扉開けないんですって。初めて知りました。

 なので一端、我が箱庭へ入ってすぐにインエクスセス、ついこないだ行ったばかりのオランジの森へ!


 リモ? あいつまだ寝てた。

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