028. 再会は攻撃から
仕事を終えて家事やってイン。明日の朝は焼き立てパンが食べられるはずである。適当に粉混ぜて冷蔵発酵させるパンはお手軽に出来て良い。
さて、そんな自分へのご褒美を用意して臨むのは、服飾ギルド探し、もといネネとエールズ探しである。
おわかり頂けるだろうか?
土地勘もなく方向に強くない私が、二人と出会うためには、結構、それなり、かなり大変なのです。
「必要ないときには連絡つくのに、必要なときには連絡つかない」
空中に独白。二人とはリアルでも友人、というか幼馴染でもあるので、そちら側で待ち合わせ先を決められたら楽だった。でもまあ、この状態になるのは予想できてたんだよなあ。なにせサービス開始直後、時間に融通がきけばゲームしたくなるものである。メールもチャットも、送ってはいるけどチェックされてないのだろう。リトあたりに言われてるかもしれんが、そのリトもフレンドコールに出てはくれない。
皆それぞれ楽しんでいるようで何よりです。
インした先は『薬師ギルド』の玄関口。中ではなく、外である。よく見るとこの外壁、枯れかけた蔦が這っていたり、壁に薬草らしき草花が彫り込まれていたり、結構いい感じだ。ギルドごとに意匠が違うんだろうか。そそるなあ。
ちょっとだけ室内に顔を出してみれば、昨日行われた爆発の惨劇は、その痕跡含めなにも見当たらなかった。ゲーム的復活か、リトとパラトスが頑張って片付けたのだろう。
今は特に必要ないので、そのまま入らず真反対へ向かう。
ここが北だから、あっちが南……流石に一本道だと迷うことはない。
時間帯はちょうど午前十時ごろ。こちらでも時間の表記自体は変わらない。ただ、一日は二十五時間。計算しやすくていいですね。
そういやまだ地図とか方位磁石的なあれそれを見つけていない。元々それを探しに南に歩いてたんだよなあ。なんでか北の『薬師ギルド』へ辿り着いたわけですが。今からいく先で見つかればよし、見つからなかったら……それはそのとき!!
幸い、北から南は大きな通りが少し曲がりながらも貫いていて、小道に逸れさえしなければたいした問題はない。
朝から昼への移り変わりの空気、強くなっていく日差しはちょうどいい暖かさで、散歩日和。時たま小鳥の鳴き声が聞こえるのと、子どもたちが走っていくのを眺めながらのんびりと歩く。
こんな時に、片手にビールがあれば最高ですね。それもピルスナーじゃなくてフルーツビールでお願いしたい。異論は認める。
しばらくすると、並ぶ建物が少し大きくなり、煙突や開口部が広い職人街の風情に変わる。たまに大きめに張り出した屋根の下、見習いの作ったものだろうか、安価な道具が売られているのを流し見ながら歩を進める。店舗を構えたちゃんとした店は少なめ。包丁とか籠とか、日用品が多いね。凝ったものとか、特殊なものは見当たらない。
うーん、方位磁石なさそう……。そもそもこれってどういう道具の種類になるんだろう。
そのまま通りをまっすぐ進めば、外壁にたどり着いた。少し離れたところに門が見えるから、こちらからもフィールドへ出られるのだろう。門番さんへ軽く会釈しつつそのまま右手側へと。標識とかもないから気の向くままです。せめてリトと連絡付けばなあ。
「誰かに……聞くか……?」
思わず独り言も多くなるってもんよ。
こういうときにリモがいてくれるといいんだが、流石に街中で連れ歩くのはしていない。本人、ほんにん? 本体も、特段着いて来たそうではなかったのが幸い。
尋ねられそうな住人を探して進んでいけば、白い布が翻る区画が目に飛び込んできた。白と言っても真っ白ではなく、生成り、というのか、やや黄みがかった自然な色だ。これはあたりか? と、布の海を縫いながら前に進む。歩くのに支障のない程度にそれぞれの布は離れているのだが、風が強く吹くと大きなものが視界を塞いでしまう。
ふと思い立って、ウィンドボールを小さくいくつか浮かべてみた。風と風がぶつかり合って、予想通り道に干渉してくることがなくなった。歩きやすいね!
< 【ラベル:精霊に興味を持たれるもの】が反応しました。【スキル:風魔法】に【ウィンド】が追加されます >
こんにちは新しい情報、さようなら心の平穏。
というかラベルって何なんですかね。他にも持ってる人いるんだろうか。感覚的に取扱い注意な気がするんですけどーーーー!
追加された【ウィンド】を軽く確認すれば、ただ風を起こすだけだった。そこはかとなく攻撃魔法じゃないもので遊べと言われた感じ。せっかくもらったので、その後はウィンドを何回か使って吹き付けてくる風を押し戻してやった。押し戻すたびに、次の風が強く大きくなったのは私のせいではないと思いたい。
「ようやく着いた」
祝、ギルドっぽい建物到着!いやー、人通りがなくてよかったよかった。びゅんびゅん吹いてる風、最後にはまともに受けたら吹っ飛びそうだったもん。布傷んでないといいけど。
横、縦ともにでかい建物には『被服ギルド』の看板。裁縫でも服飾でもなかった。こちらの壁面は蔦なんかは這っていなくて、所々にタイルが貼ってある。テキスタイルっていうんだろうか? きれいな模様だ。『薬師ギルド』とは違って、倉庫が併設されてるみたい。
外面の鑑賞はほどほどにして、さて入るか、と、扉へ手をかけたところで後ろから攻撃を受けた。
「ぐっ、」
息が詰まるほどの衝撃につんのめって扉へぶつかる!!と思ったとき、しっかりとした手に支えられる。
「ステイ、ネネ!!」
この声と保護者感、支えてくれたのはエールズに違いない!
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