027. 等価≠交換

「三国、って、君もしかして」

「初回到達者で交易機能解放者です。ぶい」


 ピースサインをパラトスとリトに突き出す。

 つーかさっさと三国移動は皆様に開放してもらい、世界の攻略に役立てていただきたい。もちろん打算込みである。お酒は周辺環境も整ってこそ美味しく飲めるのだ。具体的には平和で風光明媚な土地、美味しい食事などなど。

 戦場の隣で優雅にグラス傾けるとか出来ないですからね。あ、グラスもいいの作りたい。


「うあー、なんて爆弾持ち込むんだいリトくん……」

「僕のせいじゃない。持ち込んだのはホップ」


 頭を抱えたパラトスの、そのアフロに沈んだ手を探す。すっご。どうなってんだ。完全に手が見えない。あとで触らせて貰えるだろうか。


「情報の取り扱いには長けてると思ったんだけど、違う?」


 価格がどうとか言ってたから、その手の人間なのかと。


「過分な評価痛み入るがね、私は売る伝手があるだけでそういっためんど、ごほん、ややこしいことはノータッチ」

「素材の優先提供は受け付けますが」

「この後、情報屋志望の買い手がくるので自分でやりなさい」


 案外融通の利かないパラトスに肩をすくめる。まあ、素材も何が特殊とかレアとかまだわからないしね。その手のを見つけやすい星の下に生まれているとはいえ、このゲームでもそうであるかは解らない。確実性のない取引なんだから断られることもあるでしょう。


 しかし、やっぱり居るものだね。情報屋。パラトスではなかったようだし、志望、ってことで、まだ認知は低いのだろうけど。


「残念ながら、もうちょっとでログアウト時間になるんだよね。いやー、ざんねんだわー」


 我ながら全く残念に思えない口調である。でもログアウト時間はほんと。誠に遺憾ながら明日は仕事。深夜前には終わる必要がある。ゲームの他にもやっておきたいこととかあるしね。


「ということでリト、よろしく」

「いやだよ」


 即答された。


「売却額ふところに入れていいからさー! こっちの事情知ってるだろ?」

「知ってるから嫌だよ。そういうのは親友殿に頼みな」

「まだ合流してないし名前も知らない」

「ネネとエールズはこの街にいるから、そっちから連絡取りなさい。エールズならいつものメンバーの連絡先集約されてるでしょ」

「むむ……」


 親友殿もいつもの名前を使うことはしていない、のはちらっと聞いた。

 私の事情に巻き込んでしまった気はするので、リトにもそこらへん言われると強くは出れない。

 そのやり取りに、頭を抱えていたパラトスがアフロを揉みしだきながら口を開く。頭皮のマッサージかな?


「訳あり?」

「まあ……ちょっと……」

「これの前にやってたゲームでトラブルがあって、なるべく目立ちたくないってやつ。原因が同じゲームを始めるかはわからないけど、ま、念のためってところ」


 お茶を濁した私の気遣いを無にして、リトが暴露した。……まあ、肝心な内容まで詳しく言ってないから、いっか……。


 一息ついて、流し込んだお茶は下の方が濃度が高かったのか、かなり酸っぱい。砂糖入れたらいい感じに酸味と甘味のバランスがとれそう。これはいいものですね。お酒意外も飲み物は全般的に好きなので、積極的に集めたい所存。


「ふーん? 無理にとは言わないけど。ま、私には【レシピ定着】と交換ってことだし。また状況整ったら売り先に連絡くらいはつけるよ」

「頼むわ」

「いいえー。じゃあ時間もなさそうだし【レシピ定着】についてだね。と言ってもそこまで密度が高いわけじゃない。この世界に『現在存在していない』ものを作成したとき、世界に対してレシピを公開するかしないか選べるってシステム。私はこの『赤茶』を見つけて、公開したわけだ」


 そう言いながらカップを持ち上げる。紅茶ではなく、赤茶らしい。確かに色合いは真っ赤だし、味も紅茶とは違う。


「調薬、もしくは調理持ってる?」

「いや、持ってない」

「なら、レシピ反映は確認できないかな。この赤茶、調薬派生の調理レシピらしいから」

「へえ」

「元はMPポーションの材料、赤薬草が主原料。作業のお供に飲み物欲しいなってあれこれしてたらできちゃった。公開しなかったパターンはわからないけど、公開するとね、一定期間他の人が作成したときに、レシピ利用料が貰えるみたいだ。他の人ってのが、プレイヤーのみか住人もカウントされるのかはこれからだけど、それなりに稼ぎにはなりそう」

「今のとこ公開するほうがメリット高い感じか。これ発見者名は?」

「無かった。だよね、リトくん」


 話を振られたリトが頷く。紅茶、違う、赤茶を飲む姿が様になっている。これスクショしたら売れないかな。そんな思考を察知したのか目があったリトに微笑まれた。うっ、寒気が。


 何事もなかったように今度はこちらの情報を提供する。


「三国移動は、【ark hortus】影響度を上げれば開放される。影響度はパートナー契約で上がることを自分以外でも確認済み。影響度が上がると、箱庭から出るとき、どこに出るのか選択肢が増える。レモンの森から他二国の森に行けるのは確実だけど、それ以外の場所からどうなるかはわからん」

「うん、うん。これ情報の釣り合い取れてないね?」

「今後ともどうぞよろしく! お酒の情報があったらすぐください!!」

「酒?」


 首を傾げられたが詳しく説明する気はない。というか酒は酒だしどうしてかって飲みたいから! 以外にないので、説明のしようがない。リトには哀れみの目で見られているけど、こればっかりは譲れない優先順位ですからね!


 っと、そろそろほんとにログアウト時間が迫ってきた。


「じゃ、有意義な情報も交換できたし、これで落ちるわ! あ、パラトスが移動情報売ってもいいよ!」

「それは遠慮しておく」


 サラリと押し付けようとしたらかわされた。ちぇー!









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それぞれ自分を常識人だと思ってますが(リト含め)全員自由人です。

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