026. 粗茶をどうぞ
「ところで、君は彼女のお知り合い?」
アフロからの今更な問いかけにお互い自己紹介もまだだったことに気づく。……まあ気づいたところで害も何も無いわけだけど。
「私はパラトスだよー。お茶でも淹れよう。ということでこのリトくんの手を離すのに協力してくれないか?」
「お前は反省という文字を脳裏に刻むことから始めようか」
アフロ……パラトスの首根っこを掴んでいるリトは、その秀麗な顔をしかめている。これはどっちについても面倒くさいですね。無視しよう。
小麦ショックから立ち直り、床に懐いていた手を引っ剥がす。立ち上がって改めて部屋を観察してみると、やはり調合部屋というのがふさわしい。
「ここは調合ギルドなのかな?」
「知らずに来たんだ」
「看板読む前に爆発騒ぎが起きたからな。暇がなかった」
「ちなみにどこに向かおうとしてたの?」
「地図か方位磁石的なものを探して、南地区に」
「ここは北だから真反対だね残念。『薬師ギルド』ね、ここ」
「あの、首離して? おーい?」
リトのやっぱり……といった生ぬるい目に視線を逸らす。北、ですって。南の反対じゃねーか。もしもし方向感覚さん、もうちょっとなんとかなってもいいと思うんです。
「リトは今回薬師に進むんだ?」
「そ。お医者さんごっこもおつなもんよ」
「なんかいかがわしい言い方!」
「失敬な! ポーションの価格、高いんだよ!」
「そうなの?」
「聞こえてるー? そろそろ首がだるく……」
そういえばポーション市場価格の調査とかしてないですね。インベントリがないから後回しにしてたわ。まあ今回のビルド的に当たらなければどうということもない!オワタ式を採用してるから、そこまで回復の優先度は高くなかったからな。
「ってもワールドマーケット的なのあるっけ? 見かけてないけど」
「知らない? ワールドアナウンスで『中央交易区の交易機能』が開放されたってやつ。あれマーケット」
「あ、ああー! 確認忘れてたわ!」
「リトくん!そろそろ!ほんとに!ごめんなさい!!」
三国到達者のあれそれでそういうのありましたね。後で確認しようと思ってすっかり忘れてた。
ということは私じゃん!ワールドマーケット開放したのって!
「褒めてくれ。あと離してあげたら? お茶飲みたいし」
「突然のドヤ顔なに。まあなんとなく察したけど……はい」
「首拘束の人が変わっただけー!?」
パラトスの首元を差し出されて選手交代する。STR低めだけど大丈夫かね?
リトはそのまま壁際まで行って、お茶を淹れてくれるようだ。赤茶色が特徴的な茶葉から抽出される、これまた色が鮮やかな赤。毒じゃないよな? ベリー系ならベリーの在り処をお教え願いたい。
「あれ飲めるやつ?」
「離して……は、くれないみたいだね……。美味しいよ」
「茶葉はあるんだな。嗜好品の代表みたいなものだろに」
「なかったよ」
「ん?」
なんでも無いことのようにパラトスがなかった、というものだから、理解が一瞬遅れた。
「はい、粗茶ですが」
「ああ、ありがと……アフロ離していい?」
「そろそろ反省しただろうしね。いいよ」
一応リトの許可を得て、パラトスの首元から手を離す。
お茶を受け取って一口。少し酸味のある、紅茶とも違う爽やかで独特な味が口内に広がる。
「それなりに美味しい」
「濃くいれるともっと酸っぱいよ。眠気覚ましにちょうどいい」
「へー。で?」
問いかけは二人へ。それだけで察したのだろう、リトが自らもお茶に口をつけつつ、パラトスを指差す。
「こいつが作ったの。これ。で、同時に【レシピ定着】っていうのを発見した。ちょうどこっちで昨日の夜中かな」
「ログアウトしてたわ」
「リトくん。そうべらべらと喋られるとこの後に差し支えるんだけど」
「同じくらいのネタなら揺すればホップからごろごろ出てくると思うよ」
「まってこっちも売られた」
興味深げな目になるパラトスから逃れるように顔を背ける。藪をつついて盛大に蛇を出した気持ちだ。
「ふーん? まあお近づきの印に教えようか。あ、その前にこれ」
意外にもそれ以上突っ込んでくることもなく、パラトスからフレンド申請が飛んでくる。どうしてこうして、実験には非常識でも人付き合いには常識的らしい。こちらとしても接し方を解っている人間との誼は大歓迎だ。リトと親しくしている以上、変なことにもなるまい。
秒でフレンド申請を許可して、こちらからリトにも投げておく。
「改めて、ホップだ。よろしく。リトとは前からの友人。大体同じような時期に同じゲームをしてる」
「先程も名乗ったがパラトスだよ。生産寄りで戦闘には役に立たないからそのつもりで。今回は錬金術師を目指してるから、それっぽい情報あったらよろしく」
「じゃあ私も。知っての通りリト。ホップとは友人で、パラトスとはいくつかのゲーム内組織で顔だけ知ってる間柄かな」
ゲーム内組織……多分ギルドとかカンパニーとか互助組合とか、特定の目的で結成される集まりのことだろう。顔が広いやつだから、私の知らない交友関係があってもおかしくない。
「ちょっとリトくん酷くない? それなりに仲良くさせてもらってたと思うけど」
「それこそ私しか残らなかったの間違いじゃない? 他人に尻拭いさせるの自重しろ」
喧々囂々、というにはパラトスが一方的にやり込められているが、お互いに険悪な雰囲気でもないからじゃれ合いみたいなものだろう。仲の良い事。
「さて、本題。【レシピ定着】について、だね。結構大事だけど、今回は特別価格、タダでいいよ」
「わー、こわーい。タダは申し訳ないな。こちらからは三国に行き来できる方法を出そう」
口にした瞬間、パラトスの顔が驚きに染まる。リトは予想してたのだろう、表情を変えることなく静観していた。
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