024. 【閑話】シェフレラと女商人
「色々、なんとかなってよかったね!エド!」
「へへっ!パートナー契約、ってのもしたし、これからも一緒にいれるな!」
ホップさんと別れてストゥーデフへ戻ってきました。カゴいっぱいのオランジと、ライム。なんだか色々ありすぎて、頭が熱い気がします。
「時間余裕あるし、先に市場いこう! 修理道具さがさないと!」
走り出しそうなエドに手を引かれ、ストゥーデフの南門を通り過ぎました。門番さんに頭を下げつつ、周りにプレイヤーの方が居ないことを確認して、思わず安堵の息を吐き出してしまいます。
……いえ、解ってるんです。みんなと上手におしゃべりするためにこの世界に来たんですから、話しかけて頂けることを喜ばないといけません。でも、やっぱり、強引に連れて行かれたこととか、しつこくつきまとわれたりとか、プレイヤーの方にはあまりいい記憶がないのです。あ、もちろんホップさんは別ですよ!
それにしても、ホップさんは不思議な人でした。
掴み所がないというか、気がついたら緊張もせずに話せていた気がします。
そう、私がうまく喋れなくても、なんとも思っていない感じが心地よかったのかもしれません。
口調も、見た目も、中性的で、最後までどちらなのかわかりませんでした。何度か聞こうと考えたのですが、うまく言い出せず。綺麗な方であるのは間違いないです。きれい、は、褒め言葉でいいですよね?
そんなことを考えつつ、エドの揺れる尾っぽを見ながら気持ちを落ち着けます。本当にエドに出会えてよかったです。植物が大好きなのでアルボレス、樹人を選択したんですが、獣人でも楽しそうですね。
「あるかな〜あるかな〜」
引っ張られて進む道の両側には、色々な屋台や、敷布を広げた販売スペースが所狭しと並んでいて、思わずきょろきょろしてしまいます。歌うようなエドの声に自然と笑顔が浮かんできました。
手に持ったカゴが少し邪魔です。やっぱり先に届けたほうがよかったのでは?と思うものの、市場に足を踏み入れた現在、おばさんの家に行くのは遠回りです。
ギルドなら近いんですけど。
おばさんからお願いされたのは、ギルドを通してないので純粋な依頼ではないのです。
本当ならギルドに行って、依頼にしてもらって、ランク、上げたほうがいいんだろうけど、ギルドはまだちょっと怖い。また強引に連れて行かれるかもしれない……そう考えただけでお腹のあたりがきゅっとなる。
「きゃっ、」
「レラ!」
そんな風に意識が逸れたせいでしょうか。道の途中、凹んだ部分に足を取られバランスが崩れます。すぐに気づいたエドベルに支えてもらって、倒れることは避けられましたが、大きく傾いたカゴからオランジがいくつか飛び出してしまいました。丸い果実は転がって、販売スペースへと侵入してしまいます。
「あ、ご、ごめんなさい!」
あわてて拾おうとしゃがめば、先に商人さんに拾われてしまいました。上げた顔の先、面白そうにオランジを眺める女の人がいます。私に視線を向けることなく、オランジをくるくる回しています。
「これ、ここら辺で見たことない果物ねぇ」
「えっと……」
「良ければいくつか売ってくれない?」
私の方を向いて、抱えたカゴに気づいたのでしょう。指し示して買い取りを申し出てくる彼女に、どう答えたものかとエドを伺ってしまいました。うう、私がちゃんとしてなかったから。
「だめだぞ。これは届ける相手がいるんだ!……でも、落としたのならお詫びにやるよ。店の邪魔して悪かったな」
「くれるの? ありがと。でもこれだと貰い過ぎね……そうだ、なにか欲しいものはない? 特別割引しちゃうわ」
「え、あの、え」
欲しい物、修理道具が頭に浮かびます。いえ、でも迷惑をかけたのは私なので、なかなか口に出せません。なかばパニックになりかけた私をなだめるように、エドの尾っぽがポフンと腕を叩きます。
「おれたち、修理道具を探しに来たんだ!お姉さん、色んなもの置いてるけど、工具系はある?」
「工具、ね。倉庫にはあったと思うけど、この場には持ってきてないわね。んー、ちょっと待って貰える?」
そう言うやいなや、ぱっと眼の前の売り場が消えてしまいました。びっくりする私達をよそに、単色のルービックキューブみたいな道具を持って、彼女は微笑みます。
「私はステッラ、渡り人よ。ちょっと私の箱庭まで一緒に来てくれるかな? そっちに色々、お望みのものが揃っているわ」
「え、ええっ!?」
「いくいく! 二回目だ!」
「街中だと開けないから、門まで移動しましょう」
「おー!」
「あ、ま、まって……!」
二人の間で進んでいく話に、ついていけません。でも、エドが警戒してないってことは……怖い人では、ないのかな?
「おれはエドベル! で、こっちはシェフレラ!」
「あの、私も、渡り人……です」
移動しながら自己紹介を交わします。
ステッラさんは綺麗な黒の長い髪と、榛色の瞳でした。落ち着く色合いだけど、このゲームでは珍しいかもしれないです。今まで会ったのは、どこか現実離れした色彩の方々ばかりでしたから。
そのせいもあるでしょうか。プレイヤーの方だと解っても、それほど怖くはありません。
どちらかといえば長身の私と同じか、少し高いくらいの身長も相まって、格好いい大人の女性という感じがします。体型もグラマラスで……ちょっとドキドキしますね。
話が途切れそうになる頃、街から出る門まで辿り着きました。その瞬間、ビクリと身体がすくみます。
入口近く、門の外に、見覚えのある三人の男性。
「あ……」
足が止まったのに気づいたステッラさんがこちらを向くのと、三人の男性が私に気づくのは同時でした。顔は笑っているのに、嫌な雰囲気をまとって、三人がこちらへときます。
「こっち戻ってきてたんだぁ。心配したんだよぉ」
「怖かったんじゃない? 一緒にいいところに行こう?」
「さっきのことならさ、俺たちが倒しちゃったからぼひゅっ」
三人目の発言の最後、変な声を立てて一人が吹っ飛びます。
「え?」
ぽかんとした私の目の前で、ステッラさんが拳を振るうたびに中空に人が打ち上げられていきます。
「てっめぇ!!何しやがる!!」
「あなた達、懸賞金かかってるのよね。初日からなんて、なにをしたのやら」
「ああ!? でたらめ言ってんじゃねえぞ! お前ら、相手は一人だ、やっちまえ!!」
「あら怖い」
同時に飛び掛かられて、危ないと声を出すひまもなく、瞬く間に決着は付きました。打ち上げられた魚のようになった三人は、エドが呼んできた衛兵さんに連行されていきます。
……門番さんも固まっていたので、気持ちお察しします。
その後、私達は軽い事情聴取を受けただけで開放されました。
「驚かせちゃったかしら?」
「はい……びっくりしました。人ってあんなに飛ぶんですね……」
「あらそっち?」
「あの、助けていただいてありがとうございます」
今日だけで、ホップさんとステッラさん、二人に助けてもらっちゃいました。初めてのVRMMO、怖いこともびっくりすることもあるけど、どうにか続けていけそうです。
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閑話は一話完結のつもりだったのになかなか終わらなくて焦りました。
最後無理矢理気味ですまーん
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