019. 採取と品質とリモ

 エドベルの頭はふかふかでした。


 ……本人気にしてないようなので、断りなく触れてしまったのはいいこととする!!


「っと、そうそう。さっきも言ったけど、三国どこでも出られるよ。オランジ行っとく?」


 シェフレラの出口実験するにも、一旦私の箱庭から出ないことには始まらない。

 国名じゃなく素材名なのはご愛嬌だ。ワクワクが止まらない。調理法(?)は教えてもらえなくても、果実酢がある、ってわかったならこちらで試行錯誤すれば良いのだ!

 ……果実酢もほしいよ?お酒が目当てなだけじゃないよ?


「どうする、レラ」

「えっ、私!? え、えっと、じゃあオランジでお願いします…あっ、インエクスセスで!」

「はいよ」


 エドベルに振られ、私につられたのか慌てて言い直す姿に笑みを浮かべつつ、いざ行かんインエクスセス!


 < 三国全てに初めて到達しました。【称号:三国到達者】を獲得しました。初回到達者のため獲得SPが10増加されます。 >

 << 三国到達者が発生しました。これにより、中央交易区の交易機能が開放されます。詳しくはヘルプを御覧ください >>


「「あ」」


 ハモった。


「……えっと、もしかして……?」

「うん、ソウダネ……」


 全然予想してなかったなーーーー!!

 顔だけは平静さを取り繕ったけれど、言葉まで感情を廃する事はできなかった。不本意であるということは伝わってしまうだろう。


「どうしたんだ?」


 エドベルの問いかけに、住人には聞こえてないのかと気づく。そりゃそうか。


「なんでもないよ。ちょっと天からのお告げが」

「カウサに連なる方々の?」

「いや違う……お告げってよくあるの?」

「おれは聞いたことない!」


 元気よく否定されていい感じに力が抜けた。まあ、エドベルが聞いたこと無いだけでこの世界だとよくある話なのかもしれない。


 気を取り直して改めて辺りを見渡す。


 初めて足を踏み入れたインエクスセスの土地は、クルトゥテラとストゥーデフとどっこいどっこいの見た目をしている。ただ、やはり多少の違いはあるようで、空気はサラリと乾燥しているし、木々の葉は細い。もみの木みたいな、少し白味がかった褪せた緑だ。気温はとても過ごしやすい。三国中で一番気温が低いかも。


「オランジは……たしか右側だったか」

「よく知ってんな!」

「渡り人同士の情報交換でね」

「そんなのあるんですね!」

「シェフレラも気になるならあとでチェックしてみたら良いよ」


 雑談混じりに掲示板の情報を教えつつ、三人で右側へと移動していく。

 今回は特にアクシデントも苦労もなく、オランジの群生地へとたどり着いた。


「これがオランジ」

「なんか、リンゴっぽいですね」


 シェフレラの言葉通り、見た目はオレンジと言うよりリンゴみたいだ。艶のある赤い果実が木から垂れ下がっている。


[ 果物 ]オランジ【レア度:C 品質:C】

 酸味のある果物。成熟前は緑だが成熟するにつれて赤みが増していく。インエクスセス北部名産。

 ◆採取情報◆

 木から生えているように見えるが本体は蔦。採取時はもぎ取るのではなく付け根付近の蔦ごと切り離すことで、鮮度が保たれる。蔦から外すとすぐ腐敗が始まる。成熟中のオレンジのものが価値が高く、オレンジの果実は独特の甘酸っぱさがある。


「おー!これだこれ!」

「あっ、まっ……」


 止める前にエドベルがオランジをもいでいた。鑑定の結果通り、もいだ直後から甘い匂いが強くなっていき掴んだ手の中でべシャリと潰れる。

 飛んだ雫がエドベルの鼻の頭に付いた。


「……」

「……エド、大丈夫?」

「……うん。これ、どうやって叔母さんに持ってけば……」


 途方に暮れたように、しょんぼりとしてしまった。犬耳も尾っぽも追従するようにしなだれている。


「あ、あー……ちょっと私が取ってみていいか?」


 情報をすぐ伝えても良いんだけど、実際にちゃんと取れるか確認してからでないと、淡い期待もたせてもあれだし。あと、採取知識があるとないとの検証がですね。


 答えを待たずに果実に連なる蔦を切り離す。ハリのある実が手にずっしりと。思ったより重いなこれ。

 そのまましばらく待ってみても柔らかくなる気配はない。


「ほい、これでどうだ?」


 エドベルに渡してやると、とびっきりの笑顔。耳もピンっと立って、尾っぽはふぁっさふぁっさ揺れている。


「すごい!スキルですか!?やったねエド!」

「これで叔母さんに持っていける……!ありがとな!!」


 なるほどスキルの可能性。いやいや、【剪定作業】はあるけど、たぶんこれは採取方法を知ってるかそうでないかの違いだと思うんだよな。


「採るのにコツがいるんだよ。ほら、この実の付け根、木からじゃなく蔦に繋がってるだろ?」


 指し示した先を覗こうとする二人。さっき手頃な高さの実は取ってしまったから、あとに残っているのは少し上の方の実だ。

 つま先立ちをして少しでも近づこうとするシェフレラと違い、彼女より身長の低いエドベルは素直に見上げている。目が良いのだろうか。


「おー、ホントだ。これ木に生えるんじゃないんだな!」

「んー、もうちょ、っと……あっ!見えました!」


 二人が理解したところで同じように採ってもらった。

 飛び上がって爪で切り落とすエドベルと、木魔法かな?蔦を器用に操って千切るシェフレラ。というか生えてる蔦自体が捻れていくって、木魔法じゃなく魅了とかだろうか……。


 採れたとはしゃぐ二人を残して、私も他の部分を採っていく。

 同じ木は高くて手が届かないが、少し離れた別の木なら、まだ取りやすいものが残っていた。


「ふむ……品質は C- か。採ったらちょっと落ちるな。リモ、これ食べるか?」


 落ちるといってもレモンより品質は高いので、食いつくかなと思ったがそっぽを……そっぽかな?身動きがたぶんそれっぽいけど真ん丸だから自信がない。でもまあ飛びついてこない時点でお気に召さないんだろう。


 レモンだけとか、栄養偏りますよ?

 幻獣という種属にどれくらい食事が必要なのかそもそもわからんけど。


「ある程度採れたらシェフレラの箱庭に行こうか」

「はい!」

「おう!」


 とてもいい返事ですね!さって私もたくさん採るぞー!

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