017. 初心者講習:マナー編

 さてさて。

 セクシャルガードで一応の防波堤は作ったとはいえ、ここまでの会話で危ういところがもう一つ。


「シェフレラ、知り合いとかできたら一緒にやる感じ?」

「出来れば。パーティとか、組むんですよね?」

「組むか組まないかはその時次第かな。これソロでもできる仕様っぽいし」

「え、じゃあ……」


 ちょっと顔を曇らせるシェフレラに、安心させるように片手を振る。


「パーティ組んだらそれだけ楽だし、何より楽しいから、大概の人はパーティ組んでやると思うよ」

「あ、そうなんですね」


 ほっとした表情。うんうん。みんなソロプレイに行くとMMOとはなんぞやってなるからね。まあかく言う自分は基本ソロプレイなんですけど。進行度とかやりたいことが制限されるのは好かんからのう。

 でもまあ、仲のいいゲーム仲間はいるので、完全なソロプレイヤーというわけではない。それに野良パーティにも忌避感はないから、やりたいときに仲間がいなかったら募集すればいいのだ。

 多分そのうち募集掲示板とか誰かが立てるはず。たぶん。


「プレイしていくうち、リアルの知り合いとか、ゲーム内の知り合いとか、沢山できると思うんだけど。ちょっとだけ気にしておいて欲しいこと言うね。まあお節介なアドバイスとでも思って気楽に聞いて」


 うなずくシェフレラの、その目を見て口を開く。


「いくら仲が良くなっても、あまりリアル、現実のことは話さないこと。もともとリアルでの知り合いとかは別だけど、そういうときでも周りに人がいないか、パーティチャット、パーティを組んだ人だけが聞こえる状態で話して」

「え?」

「色々話してくれるのはとっても嬉しいんだけど。いい人だけじゃなく、怖い人や悪い人もいるかもしれないからね。とくに一人で行動するなら、自衛はちゃんとしておかないと」


 戸惑ったような顔をする彼女に、言い聞かせるように口にする。ほんとはこういうの、柄じゃないんだけども。


「……パーティチャットって、なんですか?」


 おっと、そこからか。これはやってみせたほうが早いかな。


「フレンドから私を選んで、パーティ申請するってやってみ?」

「は、はい!」

「ん、きた。これで承諾して、と。別のウィンドウ開いたのがわかる?」


 シェフレラからのパーティ申請を承諾すると、彼女と自分のHP / MP が確認できる、フレンドとは別のウィンドウが開く。

 なーるほど、ここはこういう感じで表示されるのか。眼の前右側に表示されているものを、思考操作で左後ろ辺りに、やや縮小して配置し直す。これで視界は遮られない。

 ウィンドウ自体半透明だから、向こう側は見えるといえば見えるのだけど、やはり景色以外のものが被さってる感は思考リソースを食う。完全に閉じることも出来るが、全体確認したい場面もあるから、いまはこの位置でいいだろう。


 同じようなことをシェフレラにもやってもらい、その間にエドベルを呼び戻す。


「話し終わったのか?」

「大体は?ちょっと実験したいことがあるからお付き合いお願いします」

「おう!なにすればいいんだ?」

「果実の名前いうから、聞こえたもの復唱して」


 そうして、適当な果実の名前を、まずは普通に発言するようにシェフレラに指示した。


「えっと、オレンジ」

「オレンジ!オランジのことか?貴重品だよな!」

「そうなの?」

「興味深い話だから後で聞かせて。じゃあ私も言うか。レモン」

「レモン!」


 よしよし、聞こえてるね。じゃあ次はパーティチャットに切り替えて。


『ライム』

「口は動いてるけどなんにも聞こえねーな!」

「え、私聞こえるよ?ライム、って」

「あー、レラと取りに行こうとしてたやつか!結局取れなかったな」

「あ、そうだね。あとで取ろう。おばさんも待ってるし」


 お、シェフレラもライム取りに行ってたのか。一緒に行っても良いかもしれないな。二人に【採取(知識)】が無かったら品質の検証もできる。


「さっきのがパーティチャットだよ。ライムって言ったの、パーティ組んでるシェフレラにしか聞こえなかったろ?」

「これが、パーティチャット……」

「二人で内緒話かー?」

「ち、ちがうもん!!教えてもらってただけだし!」


 からかうような声音のエドベルに、慌てて否定するシェフレラ。わかる。お兄さんにはわかる。頭の後ろで手を組んで気にしてませんって顔してるけど、エドベル、めっちゃ尻尾がしょんぼりしてる。仲間はずれよくないよね!!


「エドも、パーティ誘えるのかな」

「試してみたら?今パーティリーダーはシェフレラになってるから、誘うのもシェフレラからじゃないと誘えないよ」

「はい!エド、ほら、これでどう!?」

「わっ、なんか出た」


 びっくり顔のエドベル。尻尾も少し膨らんでいる。あれ、犬も驚いたら膨らむっけ。猫じゃないっけ。いやいや、そもそも犬って決まったわけでもなかった。……獣人ってどういう種属なんだろ?


 思考が明後日に言っている間に、エドベルも無事パーティに表示されていた。

 こちらが口出しするまでもなく、シェフレラがエドベルへ説明している。なんとなく嬉しそうなのは、知ったことをすぐ他の人へ教えられるからかもしれない。


 それにしてもNPCともパーティ組めるのか。いや組めるとは思うけど、完全に表示がプレイヤーと同じですね。なんか識別記号とかあるかと思ったけどそれもなさそう。


『これがパーティチャットだよ!このパーティだけって思ったらみんなにしか聞こえないの!』

『へー!いま三人ともいるからわかんないな!』

『そう、だね?』


 早速使いこなしていらっしゃる。でもまあたしかに、ここには三人しかいないので、どっちで話しても比較ができない。


「リモ!」


 ならばとリモを呼んでみた。まー、こいつが話を理解してたとして、喋れないんですけどね!鳴きはするけど。


「りゅ」


 声に、遠くでぺたりと平べったくなっていたリモが膨らむ。どことなく満足そうなのはたくさん遊んだからだろうか。


『こっちおいで』


 まずはパーティチャットで。反応なし。


「こっちおいで」


 次に普通に呼びかける。跳ねるようにこちらへときて、頭の上に飛び乗ってきた。あ、はい、定位置ですね。定位置になっちまったか。


「こんな感じ?」

「おー!」


 エドベルも納得したのか、パチパチと拍手している。パーティチャットに拍手してるんだよね?猿回し的な曲芸に拍手してるんじゃないよね?


「リモちゃんにも、えいっ」


 なにしたんだ?と思ったら、一拍置いてパーティウィンドウにリモの表示が追加された。

 エドベルと違った表記で。


 えーと、こいつ、なに?

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